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さんきゅう倉田「税務調査の与太話」

節税でも脱税でもない「租税回避」で恩恵受ける人々…払わなくてもよい税金をあえて払う?

文=さんきゅう倉田/元国税職員、お笑い芸人
節税でも脱税でもない「租税回避」で恩恵受ける人々…払わなくてもよい税金をあえて払う?の画像1「Getty Images」より

 元国税局職員、さんきゅう倉田です。好きな銀行は「りそな銀行」です。

 ある程度の収入を得るようになると、「税金って高いな」「もっと安くならないかな」などと考えるものです。会社員では難しいですが、個人事業や法人の場合、納税額を圧縮することができ、それらは方法によって呼称が異なります。

 いわゆる一般的な「節税」のほか、税金を払わないことの代名詞「脱税」、そして耳馴染みがないかもしれませんが「租税回避」という言葉もあります。

 脱税と似ているように思える租税回避は、社会人として知っておくべき税の用語です。新聞やニュースで、どこかの国のどこかの法人の租税回避が報道されることがありますが、
脱税と混同していると恥をかいてしまいます。

 難しく言うと、租税回避は「私法上の選択可能性を利用して、課税要件の充足を免れること」とされています。世界中の経済取引を、税法だけで対応するには無理があり、どうしても「法の抜け穴」が存在します。その不完全性を突いて納税額を減らすのが租税回避です。

 ほとんどの場合、国際的な取引を利用した方法が用いられます。国内で租税回避が行われない理由としては、税法が整備され、間隙を見つけることが難しくなっている点が挙げられます。しかし、国際的な取引の場合、2国間の税法の違いや子会社を挟み取引に関わる国を増やして、課税要件を免れようとする企業があります。また、タックス・ヘイブンを利用できる法人の設立を斡旋する業者の台頭も、租税回避の拡大につながっています。

 租税回避は、その異常性や非合理性によって問題とされますが、従来の租税回避の定義に当てはまらない方法が取られることもありました。

 それは「払わなくていい税金をあえて払う」という方法です。「外国税額控除」という制度があり、その制度では日本の会社が海外で税金を納めると、日本での税金から控除できます。

ある銀行の租税回避事件

 とある日本の銀行(A銀行)のシンガポール支店が、B社という会社に貸付を行い、その利息を受け取って源泉所得税を支払いました。これだけ聞くと、銀行としては普通のことなのですが、B社は、本来C社からお金を借りる予定でした。C社はB社にお金を貸し、利息を受け取ると、源泉所得税がかかってしまいます。それを逃れるために、日本の銀行のシンガポール支店を間に挟みました。「C→B」のお金の流れを、「C→A銀行シンガポール支店→B」にしたのです。顧客に頼まれたA銀行シンガポール支店は、源泉所得税を納めることになるので損してしまいます。通常なら断りますが、ここで、外国税額控除の制度が濫用されました。

 A銀行は、シンガポール支店で源泉所得税を納めた分、日本で納める法人税が少なくなるのです。A銀行にとってトータルで支払う税金は変わらないため、損することはなく、顧客に恩を売ることができます。しかし、日本は国庫に入る税収が減ってしまいます。法の抜け穴を突いて、課税を免れるのが租税回避と考えられていましたが、あえて他国に税金を納めるという、今までにない方法が取られたのです。

 これは最終的には、最高裁判所の判断を仰ぐことになりました。結果から言うと、国税側の主張が認められました。

 A銀行は、外国税額控除の要件を満たしており、その制度の利用は問題ないように見えます。しかし、その制度の本来の趣旨と目的を著しく逸脱して納税を免れ、納税を免れたことで得られる利益を自分や取引関係者が享受するために、日本や国内納税者の負担の下に利益を図るものです。

 これは外国税額控除制度の濫用であり、「税負担の公平」という税制度の原則を著しく害するもので、このような利用は認められないという判断になりました。

 このように、賢い人が画期的な方法を思いついて節税しても、法の趣旨に反した場合は否認されてしまうかもしれません。
(文=さんきゅう倉田/元国税職員、お笑い芸人)

さんきゅう倉田/元国税局職員、お笑い芸人

さんきゅう倉田/元国税局職員、お笑い芸人

大学卒業後、国税専門官試験を受けて合格し国税庁職員として東京国税局に入庁。法人税の調査などを行った。退職後、NSC東京校に入学し、現在お笑い芸人として活躍中。著書に『元国税局芸人が教える 読めば必ず得する税金の話』(総合法令出版)、『お金持ちがしない42のこと』(Kindle版)がある。
さんきゅう倉田公式ホームページ

Twitter:@thankyoukurata

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