8月1日付記事『AIがリアルに弁護士や金融マンや地方の人々の仕事を奪い始めた』では、経済アナリストで経営アドバイザーの中原圭介氏の話をお伝えした。近著『日本の国難 2020年からの賃金・雇用・企業』(講談社)が4万部を超えるベストセラーとなっている中原氏によると、人工知能(AI)の導入によって地方を中心に大量の失業が生まれ、現在の東京一極集中が加速する恐れがあるという。
困難に直面する日本が生き残るためには、何が必要か。さらに中原氏の話をお伝えする。
1億人の日雇い労働者を抱える米国経済
――前回のお話では、日本は人口減少や少子化などで労働力がどんどん失われていく一方で、東京一極集中で地方が衰退しているということでした。さらに、AIが急速に広まることで労働者の雇用環境が崩壊し、富の偏在が加速するというお話でした。では、そうしたなかで日本はどうしていけばいいのでしょうか。
中原圭介氏(以下、中原) AIなどの急速な普及や技術革新のなかで、大企業があっという間になくなってしまう時代がそこまでやってきています。そのため、雇用は不安定化しています。アメリカなどでは、「ギグ経済」(インターネットを通じて単発の仕事を受注する働き方)なんて格好のいい言葉を使っていますが、要は“日雇い経済”です。
いわゆる日雇い労働者は、アメリカに1億人いるといわれています。本業と兼務している人もいるでしょうが、日雇いのみの人も数多くいるわけです。しかも、社会保障が不十分で雇用も不安定。それが、今のアメリカ社会の大きな問題になっています。日本でもフリーランスなどの働き方が普及してきましたが、そのうちアメリカのようになってしまうのではないかと心配しています。
中原 だから、少子化対策をするしかないのです。これは地道にやるしかありません。そうしなければ、今の社会保障制度を維持するのは無理です。
――しかし、合計特殊出生率を上げることなど本当にできるんでしょうか。
中原 政府と企業が一体になってやっていくしかありません。責任の押し付け合いをしている場合じゃないんですよ。
――当面は税金を投入して制度の維持を図っていますが、それもいつまでもできるわけではない。そもそも、社会保障のコストを国民が支払うのか税金から捻出するのかは支払い方の違いだけで、国民負担が大きく増えるという現実には変わりありません。
中原 だから「75歳まで働け」という話になるわけですよ。
――年金制度は、それこそ平均寿命が50~60代の頃に創設された制度ですよね。しかし、今の平均寿命は80歳を超えています。少子高齢化で制度設計が大きく狂ってきていると同時に、そもそも制度の前提が大きく変わってきていると思うのですが。当初は「長寿のごほうび」のような制度だったのが、今はライフラインになっています。この点については。
中原 実態に合わせた制度につくり変えていかなければならないと思います。しかし、日本は海外に比べて選挙が多いので、結局ポピュリズムになってしまうのです。高齢者も「自分たちだけ逃げ切れればいいや」という発想ではなくて、自分の子どもや孫の世代のことまで考えて、こうした制度を理解していく必要があると思います。
『日本の国難 2020年からの賃金・雇用・企業』 アメリカ人の借金の総額がすでにリーマン・ショック時を超え、過去最高水準を更新するなど、いま、世界では「借金バブル」が暴発寸前となっていることをご存じだろうか。翻って日本では、大企業の淘汰・再編、増税による可処分所得の減少、生産性向上に伴う失業者の増加など、日常生活を脅かす様々なリスクが訪れようとしている。まさに「国難」ともいえるこの状況に、私たちはどう立ち向かえばいいのか。いち早く「サブプライム崩壊とその後の株価暴落」を予見していた経済アナリストが、金融危機「再来」の可能性について警鐘を鳴らすとともに、大きく様変わりする日本の近未来を描く――。