創立50周年記念事業として、10年がかりで世界七大陸の最高峰の登頂に社員が挑む「セブンサミットプロジェクト」を実施中の総合広告代理店・DACグループ。すでに女性社員6名がアフリカ大陸最高峰であるキリマンジャロの登頂に成功、さらに今年2月には南米大陸最高峰のアコンカグアに男性社員3名が登頂した。
このユニークな取り組みの発案者であり、同社代表を務めるのが石川和則氏だ。
石川氏は29歳の時に破綻寸前だった現在のDACの母体になった、デイリースポーツ案内広告社の社長に就任し、全国で約500人の社員を抱える総合広告代理店グループへ成長させた。
石川氏はそうした経営者としての顔のほか、中国タクラマカン砂漠を横断し、民間人としては初めて「桜蘭」へ到達したり、キリマンジャロ登頂、南極点・北極点到達などを果たした冒険家としての顔を持つ。
そんな石川氏は、「冒険による素晴らしい経験や感動は、必ず人を成長させる」という信念を持ち、「冒険を社員にも体験してもらい、人間を成長させてほしい」という目的で発案したのが、「セブンサミットプロジェクト」である。
しかし、一見、金銭面でも安全面においてもコストやリスクが高いとも思われる取り組みを、なぜあえて行うのか?
そこで今回は石川氏に、その理由に加え、本プロジェクト以外の同社独特の人材育成のためのさまざまな取り組みと狙いなどについて聞いた。
–セブンサミットプロジェクトの狙いについて、教えていただけますか?
石川和則氏(以下、石川) 私自身、これまでに世界中を冒険して、たくさんの素晴らしい光景を目にしてきましたが、そういう素晴らしさを社員にも体験してもらいたいと考えたからです。世界中には素晴らしい場所が数多くあります。しかし実際にその場所に行かなければ、本当の素晴らしさは理解できません。例えば、3週間もかけて砂漠の果てまで歩いて行って見た夕日の美しさは、言葉では言い表せない感動があります。
そういう感動を社員にも体験してもらいたい。私は人間を育てるためには、このような体験学習が不可欠だと考えています。若い人たちにそういう感動を味わってほしいと思って、会社が全面的に支援するこのプロジェクトを立ち上げたわけです。
–例えば、2月に成功されたアコンカグア登頂では、出発から帰国まで約1カ月を要しており、金銭面でも安全面においてもコストやリスクが高いとも思われますが、それでもあえてそうした取り組みをされる理由はなんでしょうか?
石川 何か成果を求めて、山に行かせているわけではありません。でも、行くと決まってからの事前トレーニングをしている顔や、出発する時の顔、そして戻ってきた時の顔を見ると、明らかにそれまでとは違っているのがわかりますよ。それに、帰国報告での彼らの話を聞いていると、「社長から『自分の人生は自分で切り開け』と言われたことの意味が、今回の登頂で初めて実感できた」など、5~10年かけて社員に話していたことを、彼ら自身の口で熱く語っていました。登頂の体験によって、成長のスピードが加速したと思っています。
–その他の社員の方々への影響はいかがですか?
石川 「わずか3人がそういう体験をしただけで、他の社員にどういう影響があるのか?」という質問をよく受けます。私は「社員をいかに成長させるのか?」を考えているわけで、先に経済的側面を考えたら、このようなプロジェクトは立ち上げられません。物理的な部分と精神的な部分は違うと思います。
もちろん、多くの社員を啓蒙できたらいいなとは思いますよ。そこで、プロジェクトに参加しない社員にもこの思いや感動を共有してもらいたいということで、キリマンジャロに登った時には、その登頂の様子をライブ中継しました。日曜日の夕方でしたが、本社近くのライブハウスに100人近い社員が集まり、アフリカ大陸の最高峰の頂上がどういうところか、同時体験をしました。