LINE、ネット通販参入に踏み切った背景と、業界勢力図への影響は?個人間送金も視野か
22日付日本経済新聞によると、新サービスの提供開始はネット通販とビデオ通話が今秋、音楽配信は年内を想定しており、ビデオ通話は世界同時、ネット通販と音楽配信はまず国内で展開するという。現在、LINEの主な収益源はゲーム課金とチャットアプリで利用できる有料スタンプの売上で、2013年4~6月期のLINE関連事業の売上高約98億円のうち約80%を占める。新サービスを展開することで、収益の多様化を目指すものと同紙は分析している。
なかでも注目を集めているのがネット通販だ。LINEのネット通販サービス「LINEモール」では企業や商店だけでなく、個人間取引も可能にする。22日付朝日新聞は、「仮想商店街に企業などが出展する『楽天市場』と、個人が商品を出す『ヤフーオークション』を合わせたような形になると見られ」ると伝えおり、LINE自体は在庫を抱えない模様だ。
今回、LINEが新サービスにネット通販を選択したことを、メディア・アクティビスト・津田大介氏は21日放送のテレビ番組『NEWS WEB』(NHK)で、有料スタンプと企業アカウントの成功がベースにあると分析している。LINEでは日常的なコミュニケーションを豊かにするために、金銭を払ってスタンプを購入することが当たり前になっているため、ユーザーが「アプリの中で金銭を払うことに抵抗感がない」というのだ。
また、LINEには企業の公式アカウントもあり、情報やクーポンなどを配信している。1000万人を超えるユーザーとつながっているアカウントもあり、企業にも有効な情報配信・発信のチャンネルだと認識されているという。ユーザーと企業のいずれも受け入れやすい状況が整っており、「通販との相性がいいと判断したのではないか」というのが津田氏の見立てだ。
第一生命経済研究所首席のエコノミスト・長濱利廣氏も、21日放送のテレビ番組「ニュースJAPAN」(フジテレビ系)で「(LINEを利用する)若年層は情報発信量が非常に多いですから。口コミなんかで、いい情報を流したりすると、爆発的に売れる商品が出てくるとか、そういった影響ももたらしやすくなると思います」とコメント。現在、およそ11兆円のインターネット通販市場で、アマゾンや楽天が先行する中、LINEの参入によって勢力図が大きく変わる可能性があるという。
●課題はトラブル対策
LINEのネット通販参入には、こんな理由もあるようだ。
慶応義塾大学客員教授の夏野剛氏は、前出の「NEWS WEB」のウェブサイトで配信された21日付記事で、「新たな付加価値のあるサービスを次から次へと打ち出していかないと他社にまねされるとか追いつかれるという危険性と常に隣り合わせなんですね。一番であるから手を抜くのは絶対に出来ない。一番であるからこそ次から次へと革新を起こしてリードし続けることが非常に大事」だと述べている。LINEが今後も一番手を走り続けることができるかは、新サービスが成功するか否かに掛っているようだ。
前出の津田氏は同番組で、LINEがネット通販で個人間取引のサービスも提供する理由を「インフラとして日常的になくてはならないものを目指している」からだと分析する。ネットは流行り廃りが激しいうえ、コミュニケーションサービスではユーザーがコミュニティごと移動する特徴がある。そのため、ただ新しいサービスを展開するだけではなく、インフラとなるサービスを提供する必要があるというのだ。具体的には、ネット通販で個人間取引のノウハウを蓄積し、将来的にはLINEのアカウントが銀行口座のような役割を果たし、「個人間での送金も簡単にできるようになる」のではないかと予測している。
現在、国内のLINE利用者は約4700万人。新サービスが成功すれば、さらにユーザーが増えることは間違いないだろう。しかし、個人間取引が始まればトラブルの可能性も増える。サービス開始当初、ユーザーの端末に登録されている電話帳が自動的にサーバーへアップロードされてしまうトラブルを起こしているだけに、LINEがどのような対策を講じるかが注目される。
(文=blueprint)