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「【小説】巨大新聞社の仮面を剥ぐ 呆れた幹部たちの生態<第2部>」第43回

年金制度の不備を悪用する巨大新聞社 仕事のない定年後の社員も破格の待遇!?

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年金制度の不備を悪用する巨大新聞社 仕事のない定年後の社員も破格の待遇!?の画像1「Thinkstock」より
 【前回までのあらすじ】
 業界最大手の大都新聞社の深井宣光は、特別背任事件をスクープ、報道協会賞を受賞したが、堕落しきった経営陣から“追い出し部屋”ならぬ“座敷牢”に左遷され、飼い殺し状態のまま定年を迎えた。今は嘱託として、日本報道協会傘下の日本ジャーナリズム研究所(ジャナ研)で平凡な日常を送っていた。そこへ匿名の封書が届いた。ジャーナリズムの危機的な現状に対し、ジャーナリストとしての再起を促す手紙だった。そして同じ封書が、もう一人の首席研究員、吉須晃人にも届いていた。旅行に出ていた吉須と4ケ月ぶりに再会し、吉須から例の封筒について話を聞こうと画策する深井だったが……

 深井宣光は“差出人不明の手紙”のことだろうと直感して身構えた。
 「実はね。丹野(顕雄)と別れて、ジャナ研の資料室に行ったろ。そこで君と会って、今ここにいるわけだけど、資料室でちょっと君を待たせたよな。それはね、先週3カ月半ぶりに来て片づけたのに、封書がまた1通あったからなんだ」

 深井の直感が当たった。黙って吉須晃人が続けるのを待った。
 「君も含め、俺たちのような連中には誰も用がないから、郵便もあまり来ない。そんなわけで『どうしてまたくるんだ?』と不審に思って封を切って読んだんだよ」

 吉須は胸ポケットから封書を取り出し、テーブルに置いた。
 「何が書いてあったんですか?」
 「うむ。封筒は報道協会の社用封筒だけど、封筒に差出人がないだけじゃなく、手紙も匿名のまま。誰が出したのか、全く分からないが、大手3社の記者か記者OBに違いない。
手紙は3枚、それに付属資料が1枚付いていた。持って行っていいから、後で読んでみろよ。読めばわかるけど、一言でいえば『新聞社が衰退するのは仕方ないにしても、ジャーナリズムを死なせないために、もうひと働きしてくれ』と、俺に頼む手紙だな」

 「実はですね、僕のところにも同じような手紙が届いていたんです」
 「いつ?」
 「4日前の火曜日です。午前11時頃に出勤したら、机の上にあったんです。やはり、手紙が3枚、付属資料が1枚。同じですね」
 「そうか。君にも来ていたのか。何が狙いなのかな」

 「僕のことをよく調べていて、今の“破格の待遇”まで正確に書いてありました。『そんなにもらっているなら、行動しろ』と言わんばかりにね」
 「そうそう。俺宛の手紙も同じだ。日亜での経歴、なぜ今ジャナ研にいるのか、それで何をしているか、もちろん、定年後の待遇もね。アルバイトで年俸が600万円もあるのに、60歳から厚生年金も約100万円もらっていることまでさ」
 「それ、本当ですか。日亜新聞って、そんなに捨て扶持(すてぶち)を出すんですか」
 「君、何を言う。大都だって同じだぞ。新聞社なんて、その本来の役割を放棄して全員でうまい汁を吸っているんだ。でも、君はアルバイトじゃないのか。だから、毎日来ているのか。てっきり俺と同じアルバイトだと思っていた」

 「そのことは資料室で言ったじゃないですか」
 「そうだったか。それは済まん」
 「僕は正規社員と同じです。年俸は800万円ですけど、厚生年金の保険料も払い続けていますし、65歳まで厚生年金はもらえませんよ」
 「国の制度に不備があるんだ。極端な話、アルバイトなら年俸1億円でも、厚生年金に加入義務はないので、約100万円の年金が支給されるんだ。それを悪用している。ジャーナリズムが聞いてあきれるぜ。恩恵に預かっている俺も大っぴらには批判できないけどな」

●定年後も給料、企業年金、厚生年金をもらえる

 「どういうことですか」
 「正規社員の4分の3以下の出勤日数の勤務形態なら、会社も従業員も厚生年金に加入義務がないんだ。俺は週3日勤務だから、正規社員の4分の3以下だ。つまり、アルバイトだから、65歳までの厚生年金保険料は払わないでいい」
 「じゃあ、僕も週3日勤務なら、60歳から64歳までの減額された厚生年金をもらえて、保険料も払わなくて済むんですか」
 「そうさ。約100万円貰える。会社も保険料を払わないで済むから、大都にもそういう奴がたくさんいるぞ。そんな脱法行為、大新聞社がやっていいはずはないが、やっている。まあ、紙面では年金財政が破たんすると、大騒ぎしているのに、当の会社は公的年金を食い物にしているんだよ」

 「僕は知らなかった。そんなことなら、僕は辞めますよ」
 「まあ、待て。知らないのは言い訳にならんぞ。大体、新聞記者なんて実務を知らな過ぎるんだ。君だって厚生省や労働省の記者クラブにいたことがあるんじゃないのか」
 「いました。反省しますよ。総務の人にいわれるままに、今の処遇で居座りました」
 「それはわかるが、辞めるんなら、その脱法行為をやめさせてからにしろ」

 「わかりましたよ。ところで、付属資料はどうでした? 僕のほうは大都のスキャンダルや不祥事がよくまとめてありました」
 「俺のは、日亜のスキャンダル、不祥事だった」
 「ちゃんと書き分けているんですね」
 「そういうことだ。後で読んでみるといいさ。今度、会う時に返してくれればいいから」

 「でも、どうします?」
 「何かやるかっていうことか。何もやらんよ。その理由は手紙を読めばわかるさ」
 「まあ、そうでしょうね。元々、ジャーナリストになるつもりはなかったでしょ。僕は少し、未練があるけど、もうどうにもならんでしょうな。絶望的ですよ」

 「旅行三昧の日々でいい。でも、当面は長旅の予定がない。これからは時々一杯やるか」
 「そうですね」
 「どうだい。それらしき女は来ないかい?」
 「来ないですね」

 「あと少しで9時半になるな。そろそろ、引き揚げるか」
 「そうしますか。ここは僕が持ちますよ」

BusinessJournal編集部

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