要するに、見ず知らずの人と気軽につながることができないようにした、という程度の制限だ。電話番号を交換できる間柄なら問題ないが、アドレス交換はしたくないけれどなんとなくつながっていたい、という程度の相手とのやりとりが難しくなる。
KDDIのAndroid端末から制限が始まり、NTTドコモとソフトバンクの端末も対象になった。しかし、今のところiPhoneは対象外だ。しかも、実はIDがわからなくとも電話番号公開などせず、気軽に掲示板等でつながる相手を募集する方法も残っている。
かなり穴だらけの規制なのだが、気軽に使っていた層にはそれなりに効果があったようだ。実際、Google Playのレビュー欄は規制対象だと思われる人々の罵詈雑言が踊っている。
●規制は相次ぐ事件に対する言い訳か
今回の規制の表向きな理由は、相次ぐ青少年が巻き込まれる事件の1要因としてLINEが挙げられることが多くなったのを受けて、青少年ユーザーが安易に見知らぬ人と出会うことがないようにするという。
しかし、その割には穴が多い。機能に詳しくない青少年の安易な利用を制限するとともに、機能に詳しくないマスコミや保護者に対する一応の言い訳を用意した程度というように見える。なぜこのような中途半端な対応がされたのかといえば、まさしく風当たりの強さに対する言い訳なのだろう。
最近の事件でなにかとLINEが関係しているように見えるのは、単純に利用者が拡大しているからだ。しかも、従来のSNSのように日記を書く・読むというような使い方ではなく、日常生活に溶け込んだ連絡手段の1つになっている。小さな諍いが発生することも当然多くなるだろう。
ところが「犯人と被害者は前日電話で喧嘩をした」というだけなら話題にもならないのに、喧嘩の場がLINEだと話題になる。ドラマにも映画にも殺人を扱った作品はあるのに、ゲームばかりがやり玉に挙げられるのと同じだ。使う側、見る側の問題であることに目をつぶり、勝手に原因であると人々が決めつけたものに責任を押しつけて対応を迫るというパターンはよく見られるが、その新たなターゲットがLINEだったというわけだ。
●裾野の拡大には、子どもの取り込みが手っ取り早い?
日本におけるSNS大手といえば、以前はmixiだった。サービス開始当初は紹介者がいなければ登録できないシステムで、18歳未満の登録は禁止だったが、会員数増を目指して紹介なしでの登録も受け入れるようになり、登録年齢も15歳以上に引き下げられた。
アバターを使って交流するのが特徴のアメーバピグ(運営:サイバーエージェント)は、小学生など低年齢の利用者も多かったが、途中から15歳以下は自分の部屋で着せ替えなどで遊ぶだけに制限され、他のユーザーと交流ができないシステムへと変更された。しかしその後は18歳を境に上下で仮想空間を分離するというかたちで、子ども同士での交流ができるようになった。
最近ではFacebookが18歳未満でも「公開」設定での投稿を可能にした。もともと13歳未満の登録を受け付けず、17歳以下のユーザーは「友達」か「知り合い以外の友達」という限られたユーザーにのみ見せる設定での投稿だけができたが、利用範囲が拡大したかたちだ。
あらかじめ年齢制限を設けるか、問題が起こった場合の対応策として年齢制限を行っているサービスは多い。しかし最終的に、低年齢ユーザーにも一度は制限した機能を解禁している例も少なくないようだ。
なぜFacebookがこのタイミングで18歳以下のユーザーに対してこうした対応をしたのかはわからないが、ユーザー数拡大を狙ったのではないかと推測できる。若いうちに馴染んだサービスを使い続ける人の数を考えると、若年層を取り込みたいと考えるのは当たり前だろう。
そう考えると、利用者数を伸ばしている真っただ中であるLINEにとって、申し訳程度のものとはいえ規制をせざるを得なかったことは厳しい流れだ。しかし、もしこの隙を突いてユーザーを獲得するサービスがあれば、次はそのサービスが同じ道を歩むことになるのではないだろうか。
LINEというツールを1つつぶしたからといって、問題が解決するわけではない。LINEが登場する前には他のSNSが利用されていたし、その前には掲示板、インターネット利用が一般化する前には伝言ダイヤルが使われていた。さらに遡れば、雑誌のペンフレンド募集コーナーというようなものもあった。犯罪につながるか否かは別として、生活圏のかぶらない見知らぬ者同士が出会う場など昔からいくらでもある。
悪者はSNSではないのだが、わかりやすい罪の押しつけ先が欲しい人々やメディアに振り回されるサービスは、今後も次々と登場しそうだ。
(文=エースラッシュ)