新成長戦略、なぜ要の産業育成策なく骨抜きに?防衛・原発産業、輸出の担い手になるか
戦国時代に例えれば、築城する時には恐らく、まず本丸にどのような天守閣をつくるかを検討するだろう。その後、二の丸、三の丸、そして城下町と計画を広げていくはずだ。しかし、安倍晋三首相は天守閣のことは考えずに、本丸以外のところを整備するのに腐心しているとしか思えない。
人口減少時代を前提としなければならない日本が今後も成長を続け、徐々にでも国民生活を豊かにしていくのが難問であることは誰にでもわかる。しかし、それを目指す以上、日本は“貿易立国”であり続け、輸出で稼ぐほかに道はなく、新たな輸出産業の創出が目玉にならねばならない。
●輸出目標は農業のみ
このような視点で新成長戦略をみると、輸出目標を明示したのは農業分野だけだ。農林水産物・食品の輸出額を2030年までに現在の10倍の5兆円とする目標を示している。
しかし、日本の農業が成長をけん引する輸出産業になれると信じる人がどれだけいるだろうか。つまるところ、TPP(環太平洋経済連携協定)交渉で農産物の関税撤廃を求められ、規制改革の一環で農協改革を断行したい安倍政権としては、自民党の農林族をなだめる“飴”にすぎない。
アベノミクスの3本の矢のうち、金融緩和、財政出動は成功したが、最も大事な「第3の矢」である成長戦略については、昨年6月14日に閣議決定した「日本再興戦略」に対する市場の評価が低かった。このため、首相が改定を指示、ようやくまとまったのが今回の新戦略だが、「民間の力を最大限引き出す」ことを重視し、民間投資を喚起する施策が中心なのは1年前と変わっていない。
目玉政策は法人税減税、そして、農業や雇用、医療分野の規制改革だ。安倍首相は「ドリルで岩盤に風穴を開けた」と胸を張るが、要するに日本企業はもちろん、外国企業が活動しやすい環境を整えれば、民間が勝手に成長への道を開拓してくれるに違いないという安易な他力本願の発想なのだ。
なぜ、こうなるのか。政権に近い経済学者やエコノミストの多くが「国の成長戦略には産業政策はいらない」と主張しているのを鵜のみにしているからにほかならない。
しかし、日本の高度成長期を主導したのは通産省の産業政策だった。それだけに1980年代後半の日米貿易摩擦が激化した時、米国は日本の産業政策を厳しく批判した。以来、日本国内では産業政策=悪というムードが定着してしまった。
それが“失われた20年”につながり、今日に至っているのだが、この間、米国はどうだったか。
93年、当時のクリントン大統領とゴア副大統領が情報産業の拡大発展を目的に「情報スーパーハイウェイ構想」(NII)を打ち出し、米国のIT産業の隆盛につなげた。そして、オバマ大統領は3Dプリンター産業の育成を目玉政策として掲げている。