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江川紹子の「事件ウオッチ」第7回

【都議会ヤジ】「若いきれいな新人の女の子」をいじめて喜ぶ「おじさん」たちの厚顔無恥

文=江川紹子/ジャーナリスト
【都議会ヤジ】「若いきれいな新人の女の子」をいじめて喜ぶ「おじさん」たちの厚顔無恥の画像16月18日は、塩村都議にとって本会議での初めての質問だった。(写真は塩村都議の公式HP)

 塩村文夏(しおむら・あやか、世田谷区選挙区)都議に対し、自民党議員が性差別ヤジを飛ばしていた問題は、鈴木章浩(すずき・あきひろ、大田区選挙区)都議以外の発言者を特定する決議を東京都議会が否決し、事実解明は行わないまま幕引きとした。この都議会の姿勢に批判が集まっているが、「セクハラ」という用語でこの問題を伝えるメディアの伝え方にも疑問を感じる。

「ちょっとしたからかい」ではすまない、塩村都議へのヤジ

「セクシャルハラスメント」は、「性的嫌がらせ」と訳されることが多いが、要するに性差別を背景にした「いじめ」である。重大な人権侵害だが、「セクハラ」と簡略化されると、語感から深刻さが薄められ、「ちょっとしたからかい」「悪気のないいたずら」程度のニュアンスに受け止められがちだ。そのため、今回の問題を伝える番組などでも「女性に対して失礼な言葉」という評価が出てくる。決して「礼儀」や「マナー」の問題ではないのだが、「セクハラ」という言葉からは、人権侵害の深刻さが伝わりにくい。

 職場での認識は大きく変わりつつあるとはいえ、まだまだ「セクハラ」を訴えても、ともすれば「悪気はないんだから」ですまされたり、「こわい、こわい」などと茶化されて終わったりしまうことも多い。被害について抗議した女性が、(時には、従来の男性中心社会の価値観に慣らされた女性たちからも)逆に非難の対象となったりすることもある。今回の場合も、塩村都議を非難したり誹謗したりする発言が出ている。

 だからこそ、今回の出来事は、明確に「いじめ」として伝えるべきだった。「いじめ」も、かつては「セクハラ」同様、「ちょっとしたからかい」「悪気のないいたずら」程度の語感で用いられがちだったが、度重なる「いじめ自殺」などで、時には命にかかわる重大な人権侵害という認識が広がっている。

 今回、被害に遭った塩村都議は、昨年6月の都議選で立候補し、初当選。6月18日は、本会議での初めての質問だった。自民党議員席から飛んだとされるヤジは、鈴木都議の「自分が早く結婚すればいいじゃないか」だけでない。塩村都議は「産めないのか」「まずは、自分が産めよ」「子どももいないのに」といった発言も聞いたと述べている。傍聴していた朝日新聞の記者のICレコーダーの録音を解析したところ、他に「自分が産んでから」とのヤジは確認できた、という。その後、「がんばれよ」と声もかかったが、どっと笑い声も起きたとのこと(http://www.asahi.com/articles/ASG6W5KBQG6WUTIL020.html)。

 そこから浮かぶのは、「若いきれいな新人の女の子」1人を、よってたかってからかい、いたぶり、はずかしめ、笑いものにして、その動揺ぶりを楽しむ、「おじさん」たちの姿だ。これは、まさに「いじめ」以外のなにものでもない。

 都議会では、塩村都議に対するやじの発言者は名乗り出るよう求める決議案を否決して幕引きを図ったその日に、いじめ防止対策推進条例案を可決している。自らが新人議員いじめをしている人たちに、子どものいじめ対策を担わせるというのは、悪夢に近い。

 いじめが起きれば、その関係者を特定し、適切な指導や場合によっては処分を行うのは常識だろう。ところが、それを批判する識者もいたのには、本当にがっかりさせられた。誰も名乗り出ず、自民党議員たちも「聞こえなかった」などとごまかしている時に、声紋鑑定で発言者を特定しようという動きを、「吊し上げ」だの「リンチ」だのと非難する人もいた。報じる側の方が、今回の行為が「いじめ」であるという認識の欠落があると言わざるをえない。

都議らが重ねた、白々しい嘘の数々

 もう1つ、今回の件におけるメディアの問題は、都議たちのついてきた嘘に対する追及の甘さである。

 塩村都議の質問を記録した映像に明瞭な声でヤジが残っていた鈴木都議の場合、石破茂自民党幹事長が名乗り出て謝罪するよう求めるなど、党幹部が相次いで発言を批判し、声紋鑑定などの話が出て、5日後に謝罪をするまでの間、少なくとも3回、報道陣の取材に対し、「私ではない」「寝耳に水でびっくりした」などと嘘を述べていた。単に「話す機会を逸した」(謝罪会見での鈴木都議の発言)のではなく、取材を避けたわけでもなく、嘘でごまかし、批判をかわそうとした。

 また、都議会自民党の吉原修(よしわら・おさむ、町田市選挙区)幹事長は、当初、問題のヤジを「聞いていない」と発言した。鈴木都議が謝罪した後に行った記者会見でも、吉原幹事長は「(発言は)わからなかった」としている。吉原幹事長の席は、鈴木都議のすぐ斜め後ろ。かなり離れた記者席でも明瞭に聞こえているものが、聞こえないはずがない。吉原幹事長自身が嘘をついているのではないかという追及は、もっとなされるべきだったのではないか。

 さらに吉原幹事長は、自民党の全都議に調査したとしたうえで、「他のヤジを聞いた人はいなかった」とも述べた。かなり離れた記者席まで届いたヤジが、同じ自民党席の中で聞こえなかったなどという説明は、信じ難い。吉原幹事長の説明が嘘なのか、あるいは自民党の都議の多くが嘘をついているのか、そのどちらかではないのか。こうした追及もまたなされていない。仮に自民党都議の多くが嘘をついたとすれば、そうした人たちが大勢を占める都議会は、いったいなんなのか、ということになる。

 政治家が自らの発言の結果として降りかかってくる火の粉を避けるために、あるいは仲間内を守るために、外に向かって嘘を発することに、マスメディアはもっと厳しい態度で臨むべきだろう。そして、有権者に嘘をつく行為はしっぺ返しを食らうと、都議たちに痛感させなければいけなかった。

 本件では、ほかにも残念な人たちがいた。たとえば、吉野利明(よしの・としあき、三鷹市選挙区)都議会議長。ヤジがあった本会議の2日後、塩村都議が地方自治法※に基づいて発言者特定と処分を求める文書を出したが、吉野議長は「発言者が不明で調べるのが難しい」として不受理とした。地方自治法では、発言者を特定して訴えることは要求していない。しかも、都議会規則によって、懲罰動議は問題があった日から3日以内に提出しなければならないため、鈴木都議が特定された後では、再度の提出はできない。ヤジの発言者が自民党であると指摘される中、自民党出身の吉野議長が、仲間が懲罰される機会を封じ込めたことになる。

 さらに、塩村都議がタレント時代に発したバラエティ番組でのセリフを引き合いにして、その人格を誹謗するような週刊誌報道もあった。「犠牲者づらして売名行為に走ったみんなの党の塩村なんとかという女性都議」と罵った評論家の天木直人氏に至っては、若い女性議員が注目されていることへのやっかみでしかないだろう(http://bylines.news.yahoo.co.jp/amakinaoto/20140621-00036590/)。

 そうした残念な言説に同調する者もいるが、圧倒的に批判の声が大きい。この世論の健全さが救いだが、世論というのは忘れっぽいのが弱点だ。大切なのは、今回の問題で出てきた人たちの言動を、都民は少なくとも次の都議選まではよく覚えておく、ということだろう。
(文=江川紹子/ジャーナリスト)

(侮辱に対する処置)
地方自治法第百三十三条 普通地方公共団体の議会の会議又は委員会において、侮辱を受けた議員は、これを議会に訴えて処分を求めることができる。

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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