ボーカルシリーズ01 初音ミク』
(グッドスマイルカンパニー)
『初音ミクを生んだ“革命的”技術を徹底解剖!ミクミクダンス、音声、作曲…』
こんにちは。江端智一です。
前編に続き、中編の今回は「ボーカロイド」の「How to make(作り方)」について、ボーカロイドの制作プロデューサ、いわゆる「ボカロP」へインタビューを行った内容を書かせていただきます。
前編でも申し上げた通り、今回のテーマである「初音ミクとボーカロイド」は、
・単なる技術論では閉じることできず、
・文化論にするには領域が広すぎ、
・一般化できる程度にまでまとめられた文献がない
という特徴を持っています。
「これは、助けてくれる人が必要だ」と直感し、初音ミクを創作する人や、愛好している人を探しました。
まず、勤務先の若手エンジニアたちに、「ボーカロイドの制作者か、そのような人にコネがある人は、私に紹介してほしい。取引条件は、『餃子の王将、食べ放題』でどや?」と、一斉にメールを出しました。すると同僚が1日を待たずに、知り合いで初音ミクを制作している人を紹介してくれました。「さすがは、ITエンジニア業界」というべきでしょう。
【ボーカロイドプロデューサ・Pさんへのインタビュー】
今回取材に応じていただいたのは、ボーカロイドの制作プロデューサ、いわゆる「ボカロP」といわれている方です。匿名をご希望とのことでしたので、以下、「Pさん」と記載させていただきます。
Pさんは、27歳の独身男性。IT企業に勤める研究員で、コンピュータのオペレーティングシステムの研究員をされています。ハードウェアシーケンサーやパソコンで、コンピュータを使って作成する音楽(DeskTop Music、以下DTMという)を始めた後で、ギターやキーボードを始めたという異色の経歴をお持ちの方です。
ーーまず、今回Pさんが匿名でのインタビューに応じていただいた理由を教えてください。
Pさん 私が今回お答えする内容は、私の所感に基づくものであり、まだ一般論にまでは至っていないと思います。このような内容をしゃべっていたとバレますと、色々とネット上でも叩かれることもありますので……。
ーーそもそも「ボーカロイド」とはなんでしょうか?
Pさん 厳密な意味ではパソコンによって歌を生成するソフトウェアの名称(例えば、マイクロソフト社のワードやエクセルなどと同様の)ですが、現状では、ボーカロイド、特にボカロと呼ばれているものは、初音ミク等のキャラクターや、それらを含む文化そのものの総称であると思います。
ーーでは、ボカロの歴史について簡単に教えてください。
Pさん 2004年にヤマハ株式会社(以下、ヤマハ)が、ボーカロイドという名称で初めてソフトウェアをリリースしました。ボカロにとっての転機は、2007年8月、VOCALOID2「初音ミク」のデモソングがニコニコ動画(ニコ動)にアップロードされ、その滑らかな歌声とキャラクターに多くの人が魅了されたことだと思います。
その影響もあり、現役でDTMをやっている層のみならず、若い頃にDTMをやっていた中高年層にも、もう一度音楽を作るきっかけを与えることになり、多くの人がニコ動に初音ミクを使用した楽曲を投稿するようになりました。
そうした中で生まれた楽曲の中でも、特に「みくみくにしてあげる』はブームとなりました。その後、09年8月に、音楽イベント『ミクフェス‘09(夏)』で、初めて透過型スクリーンを用いたコンサートが行われ、2300人を動員しました。その後も、さいたまスーパーアリーナ等で、1万人オーダーの初音ミクコンサートが行われています。
ーーボカロにとってのエポックポイントはどこにあったのでしょうか?
Pさん ニコ動というボカロ曲を発表する場が登場したことと、クリプトンの「ピアプロ」というコラボレーションを推進する枠組みができたことではないかと思います。
●コラボレーションで作り上げていく
ーーそれは、ボカロPが作成した初音ミクなどの作品を、公開できるようになったということでしょうか?