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小林敬幸「ビジネスのホント」

30年後、人工知能が人類を駆逐する?AIの進化で消える仕事と残る仕事

文=小林敬幸/『ビジネスの先が読めない時代に 自分の頭で判断する技術』著者
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 AIの活躍が予想される仕事では、それに伴って従事する人間が減ることになるが、なにも完全にゼロになるわけではない。おそらく、人間とAIが協働することになるだろう。プロ棋士とコンピュータが戦う将棋電王戦において、コンピュータが奇策やハメ手にひっかかり敗北したことがあるが、これはコンピュータのバグを突いたものである。ソフトウェアエンジニアの間では「バグのないシステムはない」という言葉があるが、バグの発生を避けることはできないという事情を考えると、重要な作業ほど人間のチェックが必要になるだろう。

 AIの活用は、短期的には既存の仕事のサポートなどが多く、大きなビジネスに直接結びつく可能性は高くない。前述したように、人間の「共感力」と「本能」を持ち得ないこと、また、現時点では「時間」をうまく扱えないため、動画やストーリーが処理しづらいことが要因だ。

 とはいえ、長期的には、現時点では誰も思いつかないような大きなビジネスに使われるかもしれない。

 最新のAIがこれまでと違う点は、学習する段階と、その学習した成果を使って実際に判断・予測する段階が分かれていることである。学習には、巨大なシステムでビッグデータを読み込み、長時間をかけなければならない。しかし、実装化の際は、学習結果のエッセンスを取り出す小さなセンサーと、簡単な論理処理機能だけがあればいい。安価で小さなモジュールをつけるだけで機能するため、IoTとの親和性が高い。

 また、AI研究と深層学習の発想が、ほかのビジネスを生み出すヒントになるかもしれない。そもそも、グーグルはAIで巨額の利益を得た最初の企業ともいえる。起業当時、AIをそのまま使ったわけではないが、数学モデルのニューラルネットワークに発想を得て、ウェブサイトのリンクの量と質で重要性を決めるシステムを開発し、巨大企業に成長した。AIのモデルを参照しながら、そのエコシステムの理解を進めれば、新しいサービスや収益モデルのヒントになるだろう。

 AI研究が提示するモデルは、企業経営や組織論にも影響を与える。組織として、重層的に概念を形成して組織的学習を進めていくには、どういう組織をつくり、どのように情報を流していくのがいいのか。AI研究は重要な示唆を与えてくれる。

 また、実はAI研究は科学的方法論としての意味が一番重いかもしれない。AI研究は、従来の実証科学のように、厳密に真偽を確かめる分析的アプローチではなく、新しいものを創造するのに役立つモデルを提供する構成的アプローチである。そして、単純化した法則を見つけようとするのではなく、多様性、重層性、冗長性、再帰性を持つ複雑系を前提として、実践的予測をしようとしている点で、最先端の科学らしいといえる。

 これまで、AIはブームと冬の時代を繰り返してきた。AIを研究しているのは、機械ではなく生身の人間である。これ以上、過剰な期待をしたり、理不尽な批判を行うと、研究体制が壊れかねない。過不足ない期待を持ち、明るい声援を送りたいものである。
(文=小林敬幸/『ビジネスの先が読めない時代に 自分の頭で判断する技術』著者)

小林敬幸/『ふしぎな総合商社』著者

小林敬幸/『ふしぎな総合商社』著者

1962年生まれ。1986年東京大学法学部卒業後、2016年までの30年間、三井物産株式会社に勤務。「お台場の観覧車」、ライフネット生命保険の起業、リクルート社との資本業務提携などを担当。著書に『ビジネスをつくる仕事』(講談社現代新書)、『自分の頭で判断する技術』(角川書店)など。現在、日系大手メーカーに勤務しIoT領域における新規事業を担当。

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