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筈井利人「一刀両断エコノミクス」

トランプ大統領誕生めぐる米国政治の壮大なプロレス…大きな/小さな政府議論のデタラメ

文=筈井利人/経済ジャーナリスト
トランプ大統領誕生めぐる米国政治の壮大なプロレス…大きな/小さな政府議論のデタラメの画像1トランプ次期米大統領、NYで当選後初の会見(AP/アフロ)

 ドナルド・トランプ氏(共和党)の米大統領就任を今月20日に控え、新政権の経済政策に関する議論がメディアでは活発だ。その際、よく使われる決まり文句がある。「共和党は伝統的に『小さな政府』を求める」というものだ。

 たしかに共和党の政治家はよく、自分たちは「小さな政府」をよしとし、経済活動は民間に原則任せると口にする。一方、ライバルである民主党も、共和党は「小さな政府」にこだわり、福祉政策に後ろ向きだと批判する。

 しかし事実に照らせば、世間に流布される説や建前とは裏腹に、共和党は昔も今も「小さな政府」の党だったことはない。むしろ逆に「大きな政府」の党だったとすらいえる。

 まず最近の事実を確かめよう。米教育団体のミーゼス研究所によれば、ニクソン以降オバマまで計8人の大統領について任期中(会計年度とのずれは調整)の連邦政府支出の伸び率をみると、一番低いのはブッシュ父(共和党)の2%である。支出が減ってはいないものの、これだけ見ると、共和党は相対的に「小さな政府」の党のように思える。

 しかし一方、伸び率がもっとも大きかった上位2人はブッシュ息子(46%)、レーガン(19%)で、どちらも共和党である。

 1980年代に大統領を務めたレーガンは、「小さな政府」路線を推し進めた代表的な政治家だと、いまだに信じている人が多い。しかし実際にはレーガンは多額の政府予算を使い、米国が現在直面する債務問題の発端をつくった。

 マザー・ジョーンズ誌によると、レーガン政権下で連邦政府職員数はおよそ32万4000人増加し、約530万人となった。これは冷戦で軍を増強したからだけではない。増加人数に占める軍関係者の割合は26%にすぎない。むしろ民主党のクリントン政権下で、政府職員数は過去数十年で最も少なくなった。

 レーガンといえば、規制緩和を推進したイメージがあるかもしれない。しかし具体例として有名な航空業の規制緩和は、レーガン政権ではなく、前任のカーター民主党政権によって行われたものだ。

 ブッシュ息子の金遣いの荒さは、レーガンを上回る。2008年のリーマン・ショック後に不良資産救済プログラム(TARP)、大手自動車会社の救済、財政出動による大規模な景気対策などを相次いで実行したのは記憶に新しい。

 上述のミーゼス研究所によれば、政府支出の対国内総生産(GDP)比率をみると、共和党と民主党の差はそれほど大きくない。それでも共和党が民主党に比べ、ことさら熱心に「小さな政府」を求めた形跡は見当たらない。

共和党=「小さな政府」志向の嘘

 米国の政党の歴史をさかのぼると、共和党が「小さな政府」を理念とする政党でないことは、いっそうはっきりする。

 2大政党の起源は、建国当初の連邦派(フェデラリスト、共和党の源流)と反連邦派(アンチ・フェデラリスト、民主党の源流)にさかのぼる。連邦派が中央政府の強化と保護貿易を主張したのに対し、反連邦派は州の独立と自由貿易を強調した。共和党は源流からして「大きな政府」を求めていたわけだ。

 この背景には連邦派の支持層が北部の商工業者だったのに対し、反連邦派の支持層が南部の奴隷農園主だったことがある。商工業者が保護政策、農家が自由貿易を求めるのは今と逆で意外かもしれないが、当時米国の商工業は後発で国際競争力が弱く、綿花栽培を柱とする農業は競争力の強いグローバル産業だった。

 初代大統領ワシントン、第2代アダムズの時代までは連邦派が優勢だったが、1800年に反連邦派の代表であるジェファーソンが第3代大統領に選ばれて以降、40年間にわたってほぼ反連邦派(民主党)政権が続く。

 この時期やその後の野党時代を含め、民主党は19世紀中、「小さな政府」と自由貿易、政府と企業の癒着排除を求めた。今のイメージとは違い、民主党こそが伝統的に「小さな政府」を目指す政党だったのである。

 一方、劣勢に立った連邦派はホイッグ党を経て、共和党となる。1860年にリンカーンが同党初の大統領に当選して以降、今度はおよそ半世紀にわたってほぼ共和党政権が続く。これは商工業者と農園主の勢力逆転を示してもいる。

 この間に共和党政権がとった政策は、民主党とは対照的に、連邦派の流れをくむ「大きな政府」路線である。特徴的だったのは、親密な大企業に対する優遇措置だ。河川改修、運河、鉄道などのインフラ整備を援助するとの名目で、公有地を安く大量に分け与えた。自由放任の資本主義とは異質な、官民が癒着した「縁故資本主義」の原型といえる。

 国民の英雄と称えられるリンカーンも、この不公正な政治手法に深くかかわった。若いころから弁護士として鉄道会社の代理人を多く務め、鉄道業界で最も有名な弁護士兼ロビイストとなる。内部情報をもとに鉄道敷設予定の土地を購入し、多額の利益を手に入れたとされる。

 駆け出しのイリノイ州議員時代、大規模な公共事業の立法を先導したこともある。ところが州に多額の借金をさせて堤防や橋の建設を始めたものの、工事がいい加減で、いつまでたっても完成しなかった。

両党とも「大きな政府」志向

 20世紀に入るころから、民主党も共和党の「大きな政府」路線に近づく。決定的になったのは、1930年代の大恐慌期に誕生したルーズベルト政権だ。ニューディール政策を打ち出し、共和党顔負けの経済介入を繰り広げた。

 お株を奪われた格好の共和党は、しかたなくルーズベルトの「大きな政府」路線を批判する。この結果、共和党は「小さな政府」を求めるという誤解が生まれたとみられる。今では両党とも「大きな政府」志向で、経済政策に大差はない。それぞれの党の政治家が違いを強調するのは、対立を演出するための「プロレス」にすぎない。

 トランプ次期大統領が打ち出す大規模な公共事業は「共和党の伝統に反する」といった、訳知り顔の解説が飛び交う。しかし実際には先祖返りにすぎない。公共事業の甘い蜜を吸える同党の政治家や親しい企業は、むしろ歓迎することだろう。
(文=筈井利人/経済ジャーナリスト)

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