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読売新聞は100万部減…瀕死の新聞業界、なぜか部数減らない新聞の「意外な共通点」

文=小林拓矢/フリーライター
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読売新聞は100万部減…瀕死の新聞業界、なぜか部数減らない新聞の「意外な共通点」の画像1都内で手に入る地方紙

 一般に、新聞の部数減が止まらない、といわれている。2001年上半期と16年上半期の新聞販売データを比べてみると、読売新聞が1,028万部から901万部、朝日新聞が832万部から658万部、毎日新聞が396万部から309万部と、大きく部数を下げている。一般には、この事態をもって「新聞離れ」が進んでいると論じられている。

 だが、ほかに日本経済新聞(306万部から273万部)、産経新聞(201万部から157万部)を加えた全国紙は、主として関東圏と関西圏でよく読まれているにすぎない。東京にいる人は、地方では地元の新聞がよく読まれていることに、なかなか気づかない。

部数の下がる地方紙、下がらない地方紙

 地方紙・ブロック紙のなかにも、部数の下がっていない新聞と大きく下げている新聞がある。たとえば北海道新聞は123万部から103万部、広島県の中国新聞は73万部から55万部と大きく下げている。新潟日報は49万部から44万部へと減っている。

 だが、そんな状況のなかでも部数を落としていない新聞がある。群馬県の上毛新聞は30万部のまま、栃木県の下野新聞は31万部から30万部、山梨県の山梨日日新聞は20万部から変わらず、長野県の信濃毎日新聞も47万部のままである。とくに山梨県は2001年に88万人程度だった人口が、現在では82万人へと大きく減っているにもかかわらず、新聞の部数減が起こっていない。

 地方紙の場合、部数減の要因には地方の人口が減少するというものがある。11年の東日本大震災で、福島県の福島民報や福島民友新聞は大きく部数を落とした。県外に避難した人が多かったからだ。もちろんこれは極端な事例だが、人口が減り、人が都会に流出するようになると、地方の新聞は部数を減らすのが当然だ。

 だが、それでも生き残っている地方紙がある。こういった地域では、「新聞離れ」が起こっていないのだ。

生き残る地方紙の紙面とは?

 新聞業界で高く評価される地方紙は、主にジャーナリズム性の高い地方紙だ。たとえば北海道新聞、河北新報、東京新聞、信濃毎日新聞、神戸新聞、中国新聞、琉球新報、沖縄タイムス。このなかで部数を減らしていないのは信濃毎日新聞くらいである。どの新聞も、新聞協会賞をよく受賞している。

 一方、新聞業界で評価されないながらも、地元ではよく読まれている新聞もある。北國新聞、山梨日日新聞、日本海新聞、山陰中央新報、四国新聞。これらは北國新聞を除き、ほとんど部数を減らしていないのだ。そして、ジャーナリズム性に関しては低いといわざるを得ない。なかなか新聞協会賞を受賞できないという共通点もある。

 では、こういった新聞ではどんな記事が充実しているのか。筆者の地元の新聞であり、新宿駅の中央本線特急ホームでも手に入る山梨日日新聞を例にとって見てみよう。

 まず、1面にはかならず山梨県内のニュースを入れる。県内のニュースが1面トップを飾ることも多い。天気予報は県内各地域を細かく分けて掲載している。それに続くページは、国政と県政の情報が交ざって掲載されることが多い。国際面はなく、外報の記事と国内の記事は一緒に掲載される。

 経済面も、県内経済の動向を中心に書かれている。文化面や家庭面は、通信社の配信記事を交ぜつつも、県内のことを中心に書いている。スポーツ面は、地元J1チーム・ヴァンフォーレ甲府(ちなみにこのチームの最大株主は山梨日日新聞のグループである)の記事を中心に、地元の高校生チームや社会人チームの活躍をていねいに掲載している。正月の箱根駅伝では、山梨学院大学の活躍を中心に紙面を組み立てる。地域のちょっとしたイベントの記事も地域面には掲載され、社会面も山梨県内のことを中心に取り上げる。

 こうしたコテコテの紙面が、山梨県民には支持されているのである。そして山梨県民の多くが熱心に読むのは、お誕生・結婚・お悔やみを記した欄であり、もっとも丹念に読まれるのは、お悔やみ欄である。

強い地方紙の基本「お悔やみ欄」

 山梨日日新聞のお悔やみ欄は細かい。現実のお悔やみ欄から引用して実例を示すのはプライバシーの観点から問題があるので、お悔やみ欄をもとにどんなことが書かれているか示してみよう。

「小林●●(こばやし・●●)さん ●●代表取締役。朝気1の●の● 14日。75歳。通夜は16日午後6時、告別式は17日正午、南口町の●●メモリアルホール。●●銀行勤務●●さんの父、喪主は長男で●●専務取締役の●●(●●)さん」

 他県の新聞でここまで細かいところはなかなか見られない。群馬県の上毛新聞は、人によってはここまで細かく書かない。栃木県の下野新聞もだ。信濃毎日新聞もである。さらにいえば、北海道新聞は北海道の人口が多いためか多くの人が掲載されるものの、「葬儀終了」と掲載される人も多い。もっと簡素なのは新潟日報で、地域と氏名、没年齢だけが記されている。

 これらのお悔やみ欄の情報は、無料で掲載される。新聞社に直接連絡しなければ載せてくれない新聞もあれば、役所が取り次いで新聞に掲載してもらえるようにしてくれるところもある。

 こういった無料のお悔やみ記事が、掲載されない地方紙もあるのだ。たとえば河北新報は、お悔やみ広告のかたちでしか一般人の訃報は掲載されない。意外かもしれないが、沖縄県の琉球新報や沖縄タイムスのお悔やみはすべて広告である。亡くなった人の一家が多く名前を連ねる沖縄独自のお悔やみは、すべて遺族が広告料を支払って掲載しているものである。人口から考えると、掲載していない人もいるだろう。そして、2紙のうち1紙しか掲載していないということもある。しかも、沖縄には新聞を読んでいない人も多い。沖縄の2つの新聞はどちらも20万部程度の部数があったが、現在は15万部程度まで減っている。

 新聞離れが進む現在でも、地域の情報が充実している地方紙が、各地で生き残っているという現実がある。とくにお悔やみ欄が充実している地方紙は、部数を落とさず、読まれ続けるという状況が、都市部の人が知らないところで起こっている。お悔やみ欄が詳しければ詳しいほど、地元の人たちから支持され、部数が減らないという傾向が見て取れるのだ。

 この先、全国紙は厳しいことが予測される。しかし、新聞業界やジャーナリズムの世界では評価されないような、地域に根ざした新聞は、生き残り続けるだろう。
(文=小林拓矢/フリーライター)

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