
冬は「蕎麦(そば)」の旬の季節だ。特に大晦日に縁起をかついで食べる「年越し蕎麦」は、歳末の風物詩であり、日本人の風習ともなってきた。多くの日本食のなかでも、蕎麦は寿司や天ぷらと並ぶ代表的な料理でもある。
その伝統食の蕎麦に今、ある種の革命を起こしている店がある。それが“究極の塩だし蕎麦”を売りにする「そば助」だ。2014年に東京・稲荷町に1号店をかまえて以来、都内4店舗に加え、大阪、さらに駅ナカなどに次々とオープン。日本橋の「コレド室町2」への出店も決定した。
そば助が革命的といわれるゆえんは、なんといっても独特の“究極の塩だし”にある。蕎麦といえば、砂糖、みりんを加えたしょうゆを加熱してつくる、“黒いしょうゆのつゆ”で食べるのが常識だった。ところが、そば助が提供するのは、オリジナルの塩だしを使用した“半透明のつゆ”なのだ。同店の究極の塩だし蕎麦は、ボクシング元世界チャンピオンの亀田興毅氏も絶賛するほどだという。
なぜ、こんな奇想天外な蕎麦を打ち出したのか。塩蕎麦が支持を集める理由は何か。そば助創業者の八木大助氏に話を聞いた。
常識外れの“塩蕎麦”が生まれた理由
――“究極の塩だし蕎麦”は、どういうきっかけで誕生したのでしょうか?
八木大助氏(以下、八木) 蕎麦って、どの店も全部、黒いつゆですよね。そこにずっと違和感があったんです。たとえば、ラーメンは多種多様で、しょうゆ、みそ、塩、とんこつ……と、さまざまなスープがある。ところが、蕎麦の場合、多くの店があるのに、みんな同じ黒いつゆしか出さない。八木大助氏
八木 欧米では、蕎麦をガレット(フランス北西部の郷土料理、お菓子)にしたり、チーズやホワイトソースを入れたり、ナイフとフォークを使って食べたりします。もともと、蕎麦は日本に冷蔵庫がなかった時代に生まれ、「腐らないように」と濃いしょうゆをかけて食べ始めたのですが、現代の日本ならもっと違う食べ方があっていいはず。そこで思いついたのが“塩蕎麦”です。
――さまざまな選択肢のなかから、塩だしを選んだのはなぜですか?
八木 たとえば、ポン酢にも「ポン酢=黒い」という思い込みがあります。塩だしでつくった“塩ポン酢”があってもいいじゃないですか。そんな思いつきで試作してみたのですが、これがおいしくて大成功! その流れで生まれたのが、究極の塩だし蕎麦でした。
音を聞いただけでその音名がわかる能力を「絶対音感」といいますが、僕には「絶対味覚」のようなものがあって……。一度食べた味や「こんなものをつくりたい」という味を再現できる能力があるみたいなんです。
――川越達也シェフなどが持っているといわれる能力ですね。昔から料理が好きだったんですか?
八木 いえ、全然(笑)。飲食店で働いた経験もなかったのですが、23歳のときに地元の後輩に料理の基礎を教わり、居酒屋を始めたんです。その店で1カ月がんばったら、100万円ぐらい儲かった。それで「商売って意外と簡単じゃん!」とすっかり調子に乗ってしまって……。