ビジネスジャーナル > 医療ニュース > 健康な子宮や卵巣、手術で切除横行
NEW
北條元治「自分の家族を守るための医療の話」

健康な子宮や卵巣を不必要な手術で切除横行…医師免許持たない理事長の産婦人科病院で

文=北條元治/セルバンク代表取締役、医学博士
健康な子宮や卵巣を不必要な手術で切除横行…医師免許持たない理事長の産婦人科病院での画像1「Gettyimages」より

 日本大学アメリカンフットボール部で起こった不祥事の報道を見ていると、大学トップの理事長である田中英寿氏に関するものも多く見受けられる。理事長としての責任は回避できないという論調がほとんどである。私もそれにはまったく同感なのだが、そもそも理事長の責任論としてではなく、もっと根源的な問題、つまり日本大学の理事長職に田中氏が君臨していること、それ自体に問題があるのではないかと考えてしまう。歯に衣を着せずに言ってしまえば、学問を知らない田中氏が、大学という学問のトップに座っていることに対する根源的な違和感だ。

 確かに大学スポーツは、日大のアイデンティティの一部を形成し、かつ社会的にも重要な地位を得ているが、原理原則からいえば、大学はスポーツの最高権威ではない。学問を究める組織には、学問を究めた人がトップに立つべきであり、スポーツを究めた人のみがスポーツを究める組織のトップに立つべきだ。

富士見産婦人科病院事件

 医療法人のトップである理事長にも医師しか就任できない。

 かつて、医療法人の理事長には医師でなくとも就任できる時代があった。むしろ経営のイロハも知らない世間的に無知な医師が病院経営を行うよりも、経営のプロが医療法人を経営したほうがうまくいくという論調もあったくらいだ。

 しかし、医師ではない者が病院のトップに座っていることに起因した医療事件が起こった。この医療事件とは、昭和55年(1980年)に発覚し、のちに「乱診乱療」と呼ばれることになった富士見産婦人科病院事件である。健康な子宮や卵巣を不必要な手術により切除されてしまったとして、元患者である女性ら63人が民事訴訟を起こした。結局、この民事訴訟は最高裁判所までいき、医師側に約5億円の支払いを求めるかたちで結審した。しかし刑事罰が医師側に科されたかというと、そうではなく、6名の医師は全員が起訴猶予となるという非常に不思議な事件であった。

 事件当時、富士見産婦人科病院の医療法人の理事長は医師である病院長の夫であったが、彼は医師ではなかった。理事は病院長やほかの医師だったが、理事長は病院長の上に君臨していた。通常、患者と病院の利害は完全に一致する。患者は病気を治してもらうという医学的利益を享受する。病院はその治療行為の対価を手にする。一見ここには利益相反はないように見える。しかし、事はそう単純ではない。病院の利益、つまり治療行為そのものが患者の不利益になるような、いわば利益相反関係だってあり得る。建前上、病院経営は利潤を追求してはならないことにはなっているが、利潤を出さなければ病院は倒産もするし、リストラもしなければならない。治療症例を一定数以上確保しなければならない。しかし、患者は治療により受ける不利益よりも利益のほうが大きい場合だけ治療が行われることになる。ここに利益相反の根が隠されている。

 富士見産婦人科病院では、超音波(エコー)で子宮に腫瘤が見つかった症例に、かなりの頻度で子宮摘出術を勧め、それを行っていた。その当時のある学術論文では、この腫瘍は悪性化すると書いてあったが、別の学術論文ではしばらくは経過観察でもいいと書いてあった。医師であれば、これらの相反する2つの学術論文の一方を盲目的に信じるのではなく、自身の医学的知識を背景に、症例ごとにきめ細かく、子宮を摘出することによる患者の医学的利益(がん予防)と医学的不利益(妊孕性の喪失)を天秤にかけて考えて、最終的に治療(手術)をするかしないかを決定する。

 この決定には経営的見地など一切の邪念が入ってはならない。もちろん、正確な医学的知識を持たない者には医学的利益を過大に評価してしまう可能性もあり、その患者の利益・不利益のバランスを正確に判断することなどできない。富士見産婦人科病院では、医師ではない理事長がエコーの診断に意見を付けたり、自分自身でもエコーを操作していたことなどが明らかになった。彼は医師法違反で逮捕されたが、理事長には明確な悪意はなかったのかもしれないが、経営サイドの視点しか知らない理事長は「悪性化する」という表層のファクトを根拠に、配下の医師たちに有形無形の圧力をかけていた可能性は否定できない。

 もちろん医師のなかにも経営的視点を持つ者もいるが、医学的バックグラウンドがなく経営サイドの視点を持つということと、医学的バックグラウンドを持ち、かつ経営サイドでモノを考えるということはまったく意味合いが違う。

日大アメフト問題との共通点

 この事件をきっかけに、国も動いた。事件発覚後の昭和60年(85年)年12月27日に「法律第109号をもって公布された医療法の一部を改正する法律」を公布した。その法律で、「例外を除き医療法人の理事長は医師(歯科医師)以外が就任してはならない」と規定された。翌年の局長通達(健政発第410号)でも、この法律の意図は「医師又は歯科医師でない者の実質的な支配下にある医療法人において、医学的知識の欠落に起因し問題が惹起されるような事態を未然に防止しようとするものである」とされた。

 学校法人と医療法人は、学生や患者の人生を大きく左右する事業を行っている。今回の日大アメフト事件の根底には、学問の見識がない者が運営のトップに就いていることがあると考えてしまうのは、はたして私だけだろうか。
(文=北條元治/セルバンク代表取締役、医学博士)

北條元治/セルバンク代表取締役、医学博士

北條元治/セルバンク代表取締役、医学博士

株式会社セルバンク代表取締役、東海大学医学部非常勤講師、形成外科医(1999年、専門医取得。更新せず失効)、医学博士。

YouTubeチャンネル
北條元治 | 形成外科医・肌の再生医療の専門家

Twitter:@hojomotoharu

Instagram:@hojomotoharu

健康な子宮や卵巣を不必要な手術で切除横行…医師免許持たない理事長の産婦人科病院でのページです。ビジネスジャーナルは、医療、, , , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!

RANKING

23:30更新
  • 医療
  • ビジネス
  • 総合