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岡田正彦「歪められた現代医療のエビデンス:正しい健康法はこれだ!」

サマータイムは命を縮める、海外で研究多数…推進する安倍政権と森喜朗氏の愚行

文=岡田正彦/新潟大学名誉教授
サマータイムは命を縮める、海外で研究多数…推進する安倍政権と森喜朗氏の愚行の画像1「Gettyimages」より

 本年1月、フィンランド政府は、EUの加盟各国に対し「Daylight Saving Time(DST: 日光を慈しむ時間)」の廃止を提案するとの声明を出しました【注1】。理由は、疲労、うつ病、心臓病など健康被害の原因となっていることがわかったからです。国内では報じられなかったこのニュースは、今、われわれ日本人にとって重大な意味を持つことになりました。

 DSTとは、話題のサマータイムのことです。東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長が、「酷暑対策として夏の間、標準時を2時間繰り上げるサマータイムの導入」を政府に要請したからです。これを受けて与党は、秋の臨時国会で議員立法での成立を目指すとも報じられています。

 サマータイムには1918年、戦時下の米国で戦争を遂行するために国民のエネルギー消費を制限する手段として導入された、という暗い歴史があります。米国では1966年に改めて制定された法律のもと、現在も多くの州でサマータイムが導入されていて、3月の第2日曜日の深夜2時に時計を1時間進め、11月の第1日曜日に元に戻すという操作が行われています。目的はいろいろあり、子供たちが公園で遊ぶ時間を増やし日光を慈しんでほしいとの願いも込められていました。

 しかしサマータイムは、「日光を慈しむ」どころか、むしろ健康に重大な被害をもたらすことが多くの研究で明らかにされつつあるのです。まず、もっとも被害を受けるのは、慈しみを受けるべき青少年だったという話から紹介しましょう。

 米国で高校生だけを対象に、サマータイムが睡眠に与える影響を調べる研究が行われました【注2】。分析の結果、サマータイムが導入された直後の1週間、睡眠時間が1日平均で32分少なくなり、また注意力を測定する検査を受けてもらったところ、明らかに集中力も低下してしまっていたそうです。

 成人病が気になる中年以上の人たちの場合、影響はもっと深刻です。サマータイムと病気、特に重大な心筋梗塞との関係を調べた研究が世界中で多数行われていて、1000人以上の患者を対象にした大規模な調査の結果を報じた論文も5編ほどあります。それらの結論はほぼ一致していて、サマータイムに切り替わったあとの3日間が特にリスクが高く、心筋梗塞の発病が、そうでない週に比べて16~29パーセントも多くなっていました【注3】。

 ドイツで行われた調査では、サマータイムと心筋梗塞との関係は必ずしも明確ではなかったものの、すでに心筋梗塞を経験している人、あるいは血圧の薬を服用している人では、やはり明らかな因果関係が認められたそうです【注4】。

国民の健康を保障した憲法第25条に反する

 米国を旅行すると気づくことですが、時差に加えてサマータイムによる時間差があるのは、旅行者にとっても大変なストレスです。私の場合、サマータイム直前に航空チケットを予約・購入して渡米したのですが、帰国する際、搭乗便の出発時間がどちらに合わせてあるのかわからず、パニックになったことがあります。

 東京オリンピック・パラリンピックの準備は、あまりに組織が複雑なため、ごたごた続きです。特に大勢の政治家や官僚、そのOBたちが関わっていて、「ちゃんと五輪は開催できるのか?」とは多くの国民が感じていた不安でした。唐突なサマータイム導入のニュースを聞き、不安が的中したと思ったのは筆者ひとりではなかったようです。

 あまりにも愚かな発想にはあきれるばかりですが、国民の生命を脅かす重大事ですから、笑って見過ごすわけにいきません。全国民がこぞって反対すべきものであり、万一、不幸にして法案が通ってしまった暁には、みんなでサマータイムは無視することにしましょう。国民の健康を保障した憲法第25条にも反するため、筆者としては訴訟も辞さない覚悟です。
(文=岡田正彦/新潟大学名誉教授)

参考文献
【1】Berner: Finland to propose that EU abolish daylight savings time. Helsinki Times Jan 26, 2018.
【2】Medina D, et al., Adverse effects of daylight saving time on adolescents’ sleep and vigilance. J Clin Sleep Med 11: 879-84, 2015.
【3】Manfredini R, et al., Daylight saving time and myocardial infarction: should we be worried? a review of the evidence. Eur Rev Med Pharmacol Sci 22: 750-755, 2018.
【4】Kirchberger I, et al., Are daylight saving time transitions associated with changes in myocardial infarction incidence? results from the German MONICA/KORA Myocardial Infarction Registry. BMC Public Health 15: 778. doi: 10.1186, 2015.

岡田正彦/新潟大学名誉教授

岡田正彦/新潟大学名誉教授

医学博士。現・水野介護老人保健施設長。1946年京都府に生まれる。1972年新潟大学医学部卒業、1990年より同大学医学部教授。1981年新潟日報文化賞、2001年臨床病理学研究振興基金「小酒井望賞」を受賞。専門は予防医療学、長寿科学。『人はなぜ太るのか-肥満を科学する』(岩波新書)など著書多数。


岡田正彦

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