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安倍政権「地方創生」、国主導で地域の実態と齟齬…外部コンサル等に“丸投げ”の実態

文=山田稔/ジャーナリスト
安倍政権「地方創生」、国主導で地域の実態と齟齬…外部コンサル等に“丸投げ”の実態の画像1地方の人口減少に歯止めがかからない

 地方創生は、安倍晋三政権の目玉政策のひとつである。2019年度の地方創生関連予算(政府案)は3兆円近い。その内訳は、地方創生推進交付金1000億円、地方大学・地域産業の創生101.3億円、総合戦略等を踏まえた個別施策7668億円、まち・ひと・しごと創生事業費1兆円、社会保障の充実1兆994億となっている。

 注目したいのは、自治体に交付される地方創生推進交付金だ。人口減少、雇用減少が続く地方の活性化のために、地方自治体が独自に作成した地方再生の基本計画「地方版総合戦略」が内閣総理大臣の認定を受けた場合、計画に記載された事業について国から自治体に交付金が交付される。

 18年3月と8月に公表された地方創生推進交付金の対象事業(18年度)を見ると、「しごと創生」「地方への人の流れ」「働き方改革」「まちづくり」の4分野で合計2452件、総額622億円の交付金の交付が採択されている。

 いったい、どんな事例があるのか。内閣府地方創生推進事務局が「特徴的な取組事例」として紹介しているのは15事業。

「しごと創生」分野には、群馬県、前橋市、高崎市、昭和村の「協働チーム」による付加価値創出・海外販路開拓という事業がある。交付金採択額は5584万円。農畜産物の輸出拡大事業で、「重要業績評価指数(KPI)」(成果目標)は18年の輸出額10億6400万円を23年に14億7200万円にするというものだ。

「地方への人の流れ・働き方改革」には北海道更別村の「さらべつ版CCRCプロジェクト」が取り上げられている。交付金採択額は1315万円。人口減少抑制の取り組みでKPIは「本事業期間(5年間)で増加する移住者数50人」としている。

 47都道府県すべての自治体に対して交付金交付が採択されていて、交付対象事業総数は3742事業となっている(広域連携事業の申請で重複がある)。

「地方版総合戦略」を自ら策定した自治体は2割強しかなかった

 地方創生推進交付金申請の前提となる「地方版総合戦略」だが、今月初旬、東京新聞が『計画策定 外部委託が多数』と報じていた。地方自治を研究する公益財団法人「地方自治総合研究所」による調査で、2016年までにほぼすべての自治体で策定された総合戦略の7割超が、東京の企業など外部に委託され、受注額は21億円超に上っていたことが判明したというのだ。

 この調査は「地方創生政策が浮き彫りにした国-地方関係の現状と課題」という論文にまとめられている。筆者は坂本誠氏。調査は17年11月に全国1741の自治体にアンケートのかたちで実施された。有効回答は1342市町村で、このうち1037市町村(77.3%)がコンサルタントやシンクタンクなど外部に委託していた。

 調査結果を少し詳しく見てみよう。

・外部委託をした自治体の規模。外部委託をした1037自治体の内訳を人口規模でみると、もっとも多かったのが「10万人以上15万人未満」で88.6%。「5000人未満」の小さな自治体は平均以下の73.6%だった。

・外部委託の理由。委託した理由の上位は「専門知識を補うため」「職員の事務量軽減のため」「国からの交付金があったため」の順。総合戦略策定にあたり、国から1自治体に1000万円の予算措置が行われた。

・委託を行わなかった理由。もっとも多かったのは、「職員で策定すべきだから」。次が「経費を削減できるから」。

・策定された総合戦略の満足度。委託をした自治体では約80%が満足(「十分に満足」「まあまあ満足」の合算)で、18.4%が不満(「あまり満足していない」「まったく満足していない」)。委託しなかった自治体では、約86%が満足(同)、不満は12.8%(同)だった。自前で策定した自治体のほうが、満足度が高い。

1社で93件受注のケースも

安倍政権「地方創生」、国主導で地域の実態と齟齬…外部コンサル等に“丸投げ”の実態の画像2東京一極集中はむしろ加速

 調査は外部委託先や委託金額にも及んでいる。いずれかを回答した自治体は652(委託先は626。委託金額は598)。

・委託金額:502市町村(83.9%)が400万円以上1000万円未満。
・委託先都道府県:委託先の本社がある都道府県は東京都が件数、金額ともに断トツ。件数は338でシェアは54.0%、金額は約21億6878万円で同53.3%。京都府、北海道、大阪府などの企業が続くが、いずれもシェアは1ケタ。
・受注数上位:東京都の出版系企業が93件、総額5億943万8050円でトップ。1自治体当たりの平均受注額は約621万円だ。2位は京都府の都市計画系企業で37件、約2億5660万円。3位は東京都の都市計画系企業で28件、約2億1697万円と続く。興味深いのは、受注トップ企業への満足度が52.7%(満足49、不満42)と低い点。もっとも満足度が高かったのは、北海道の研究機関(受注件数9、金額約5647万円)で88.9%(満足8、不満1)だった。

 国の地方創生政策に対する自由記入回答では、「交付金の運用が硬直的で制約が大きく、活用しづらい」「計画(総合戦略等)の策定や事業実施に伴う事務負担が大きい」「国主導の強いコントロールの下で進められており、地域の実態に見合った運用になっていない」などの回答が寄せられた。

 東京を中心とする特定企業やコンサルタントに依存する地方自治体の総合戦略策定の舞台裏や、国の地方創生政策に対する自治体の本音がうかがえる貴重な調査結果である。

 安倍政権が14年9月に、まち・ひと・しごと創生本部を設置してスタートした地方創生政策。今年の秋で丸5年になるが、人口の東京一極集中は一向に改善しないどころか、むしろ加速している。

 今回の総合戦略の外部委託をみても、問題は深刻だ。自治体の“丸投げ姿勢”を批判するのは簡単だが、それだけで済む話ではない。予算と権限、国と都道府県、市町村の関係性、そして地域特有の事情や課題。国のコントロールだけで簡単に解決はしない。

 地方の実情に精通している人物が旗振り役となり、地方の生の声を柔軟に反映させながら、国と地方が連携して進めていくことが必要ではないだろうか。
(文=山田 稔/ジャーナリスト)

山田稔/ジャーナリスト

山田稔/ジャーナリスト

1960年生まれ。長野県出身。立命館大学卒業。日刊ゲンダイ編集部長、広告局次長を経て独立。編集工房レーヴ代表。経済、社会、地方関連記事を執筆。

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