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片山修「ずだぶくろ経営論」

マツダ、“比類なきデザイン美”を生み出す、他社とはまったく異なる開発手法の全容

文=片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家
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マツダ、“比類なきデザイン美”を生み出す、他社とはまったく異なる開発手法の全容の画像1マツダデザイン本部デザインモデリングスタジオ部長の呉羽博史氏

言葉を立体に置き換える力

 マツダ広島本社の広大な敷地には、組立工場、塗装工場、プレス工場、エンジン組立工場などが立ち並ぶ。いかにも機械油のにおいが漂ってきそうな年季の入った工場だ。その中で、一棟だけ趣の異なるスマートな佇まいのビルがある。デザインセンターだ。
 
 1階ロビーには2010年に発表されたビジョンモデル「SHINARI」が鎮座している。デザイントップの前田育男(現マツダ常務執行役員)が思いの丈を込めたモデルだ。デザイン本部のアドバンスデザインスタジオが、「匠モデラー」と共につくり上げた。

「美しいですね」と、思わず呉羽博史に声をかけた。呉羽の許可を得て、「SHINARI」にそっと手を触れさせてもらう。「魂動デザイン」の生命感を具現化したというだけあって、フォルムに命が感じられるようだ。その横には3体のデザインオブジェが並んでいる。野生動物のチーターの躍動感を表現した、その抽象的な造形は、現代彫刻のようで、まさしくチーターが獲物を追って疾走する姿を連想させる。

マツダ、“比類なきデザイン美”を生み出す、他社とはまったく異なる開発手法の全容の画像2SHINARIオブジェ

「これが、“ご神体”と呼ばれるものですね。何度もビデオを見たり、動物園にいったりして、チーターが疾走する姿、捕食する姿を観察してつくったんですよ」
 
 デザイン本部デザインモデリングスタジオ部長の呉羽はこう説明する。彼は30人に満たないクレイモデラーたちを率いている。
 
 当時デザイン本部長だった前田は、チーターのコーナリングの速さ、獲物を狙って飛び掛かるときの緊張感、疾走するときの瞬発力にほれ込んだ。その美しい動きをクルマのフォルムに取り入れたいと考えた。それをかたちにしてみせたのが、クレイモデラーたちである。

「肉食動物は捕食する瞬間、全エネルギーを一点に集中してグッと体を落とし込みます。その瞬発的な筋肉の動きを解析して、フォルムに置き換えていきました。最速で動く動物は、捕食するまで瞬きをせずに、目を開いたまま獲物を凝視する。だから、チーターの顔には、涙を流しているように見える線があります。それは、速さだとか獰猛さだとかの象徴でもある。オブジェも、この線を意識しています」

 オブジェである以上、チーターそのものではない。デザイナーの思いをくみ取り、目指すべきかたちの方向性を示唆するのだ。

「あえて、クルマではないものをつくる。クルマにしてしまうと、逆にデザインテーマが見えにくくなってしまうからです」

 マツダは、ビジョンモデルやテーマオブジェをことのほか大切にする。いったい、なぜなのか。

片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家

片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家

愛知県名古屋市生まれ。2001年~2011年までの10年間、学習院女子大学客員教授を務める。企業経営論の日本の第一人者。主要月刊誌『中央公論』『文藝春秋』『Voice』『潮』などのほか、『週刊エコノミスト』『SAPIO』『THE21』など多数の雑誌に論文を執筆。経済、経営、政治など幅広いテーマを手掛ける。『ソニーの法則』(小学館文庫)20万部、『トヨタの方式』(同)は8万部のベストセラー。著書は60冊を超える。中国語、韓国語への翻訳書多数。

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