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イチロー引退で注目の「翼状片」、充血改善の市販点眼薬は要注意…充血や異物感で視力低下も

文=高橋現一郎/眼科医
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イチロー引退で注目の「翼状片」、充血改善の市販点眼薬は要注意…充血や異物感で視力低下もの画像1「Getty Images」より

 イチロー選手の引退会見を見ていて、両目の目頭が充血していることに気がついた方も多かったのではないでしょうか。「翼状片」といわれる良性の病変ですが、一部では引退の原因として、翼状片に関連した視力低下を挙げる医師もいるようです。

 実際に、イチローの引退と翼状片に関連があるかは不明ですが、今回は翼状片について概説します。

眼球に歪みが生じて視力に影響も

 白目の表面を結膜という半透明の膜が覆っています。なんらかの原因でこの結膜の下の細胞が増えて、黒目(角膜)に伸びていくのが翼状片です。ほとんどの翼状片は、目頭から三角状に黒目に入り込みますが、外傷や角膜潰瘍などで生じるものは偽翼状片と呼ばれ、目尻側にできることもあります。

 屋外で長時間活動する人に多く見られることから、原因は紫外線や埃などが挙げられていますが、詳細は不明です。高齢者に多くみられ、両目に起こることもあります。

「白目が黒目に入っている」と美容的な点を気にされる方も多く見受けられますが、代表的な症状は、充血、異物感です。多くの翼状片では表面に太い血管が走っていることがあり、血管のない黒目に入り込んでいるので充血が目立ちます。翼状片が盛り上がっているので、まばたきにより擦れて炎症が起き、異物感をおぼえるとともに充血がより一層目立ってきます。

 目頭が充血する疾患として、翼状片以外にも「瞼裂斑」(けんれつはん)や「強膜炎」(きょうまくえん)などがあります。瞼裂斑は翼状片のように紫外線や埃が原因と考えられていますが、角膜内に伸びることはありません。強膜炎は、充血や疼痛の症状がみられますが、全身疾患の眼症状として出ることもあり、翼状片とは性質の異なる病気です。

 眼球は柔らかいボールのようなものです。翼状片が角膜の中に伸びてくると、眼球の一部が引っ張られたり、押されたりして歪みが生じて乱視の原因になります。どの程度角膜内に伸びたら乱視が生じるかは、個人差がありますので、イチローの翼状片がどの程度視力に影響を与えているかは、見た目だけでは判断できません。

 また、一言で乱視といっても、メガネで矯正できる乱視(正乱視)と、矯正しきれない乱視(不正乱視)があり、翼状片により眼球の一部が歪んでくると不正乱視が進行してくる可能性があります。つまり、メガネやコンタクトレンズで矯正しても、くっきりと見えなくなり、視力が低下してくるのです。

市販されている充血改善用目薬には要注意

 翼状片の治療として、充血や異物感が強い時には、ステロイド剤など消炎作用のある点眼薬を用います。しかし、このような点眼治療は、あくまで症状軽減の対症療法であり、翼状片が治癒することはありません。

 また、充血をとる効果をうたった市販の目薬もありますが、このような点眼薬にはたいてい血管収縮剤が含まれており、使用にあたっては注意が必要です。点眼すると、血管を強制的に収縮させ、充血が引き白くなります。しかし、見かけだけ白くなっても、病気そのものを良くしているわけではありません。しかも、充血が収まると病気が治ったと誤解してしまうかもしれませんし、炎症の程度が判断できなくなってしまいます。また、血管収縮剤を連用していると、薬の効果が切れたときに、かえって充血してしまうという「リバウンド現象」がおきます。

 さらに、眼科を受診する前に点眼すると、充血が見られないため、正しい診断ができなくなる可能性があります。このように、血管収縮剤をむやみに使用することには問題が多く、お勧めできません。

再発も多く、決定的な治療方法がない翼状片

 点眼で充血や異物感などの症状が軽快しない場合や、乱視で視力が低下したり、黒目の中央まで伸びてきたり、見た目が気になるなどあれば、手術治療が必要になります。単純に翼状片を切除する方法や翼状片を切除した部分を健常な結膜で覆う方法、再発予防のために低濃度の抗がん剤を塗布する方法など多くの術式が考えられています。

 多くの手術方法があるということは、裏返せば決定的な方法がないともいえます。翼状片は再発の多い病気であり、どのような方法で手術をしても、ある一定程度は再発することがあります。また、翼状片を切除するときに、角膜を一部削ることがありますが、この操作が新たな乱視の原因になることもあります。手術を受けたら乱視がきれいになくなると思っていると、期待はずれになることがあります。

 白目が黒目に入っているという見た目の問題や充血・異物感をおぼえるようになったら眼科で治療方法を相談してください。特に進行してしまうと、視力低下の原因にもなりますので、早めに受診することをお勧めいたします。
(文=高橋現一郎/眼科医)

高橋現一郎/眼科医

高橋現一郎/眼科医

 1986年、東京慈恵会医科大学卒業。98年、東京慈恵会医科大学眼科学教室講師、2002年、Discoveries in sight laboratory, Devers eye institute(米国)留学などを経て、2006年、東京慈恵会医科大学附属青戸病院眼科診療部長、東京慈恵会医科大学眼科学講座准教授、2012年より東京慈恵会医科大学葛飾医療センター眼科診療部長。2019年より現職。
 日本眼科学会専門医・指導医、東京緑内障セミナー幹事、国際視野学会会員。厚労省「重篤副作用疾患別対応マニュアル作成委員会」委員、日本眼科手術学会理事、日本緑内障学会評議員、日本神経眼科学会評議員などを歴任。

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