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舘内端「クルマの危機と未来」

物流業界、エンジン車からEVへ移行本格化…絶大なコスト削減&人手不足解消の効果

文=舘内端/自動車評論家

 MEBでは、FFばかりか容易にAWDの展開も可能だ。後輪を駆動する1個か2個のモーターを取り付けるだけでよく、エンジン車のAWDに必要なプロペラシャフトが不要だからである。さらに、モーターはインバーターのプログラムの変更で出力、トルクを容易に変えられる。AセグメントからDセグメント、さらに個数を1台から4台へと増やすことで大型SUVにも同じモーターを使える。うまく設計すれば、動力系は1種類のモーター、インバーターですみ、開発費の大幅な軽減が可能となる。

 こうしたEVの特長を使うと、低費用でさまざまな商用車の開発、展開が可能になる。参入障壁が低いEVは、業務車両の開発・生産にも革命を起こすのは必定だ。

疲労が少なく運転が容易なEVトラック

 EVは運転の疲労が少ないことはよく知られている。騒音、振動が少ないことに合わせて、変速が不要で、トルクが大きいので発進、加速でもたもたせず、軽快だからである。しかも、BMWのi3に始まり、リーフ、e-Golfはアクセルペダル一つで加速、減速、場合によっては停止も可能である。もちろん、EVトラックも同様だ。

 このEVの特性は、トラックでは長距離を運転するベテランドライバーの疲労を軽減するばかりか、運転に不慣れな女性を含めた新人ドライバーの物流業界への参入を容易にする。特に街中の配達では頻繁に繰り返さなければならない変速操作が不要という特徴は、大きなメリットである。運転の疲労が少ないことは、事故の削減にもつながる。これもまた業者の経費削減効果が大きい。

EVに替えると燃料代が激減

 全バス・トラックの電動化を目指す三菱ふそうトラック・バス (MFTBC)は、すでにEVトラックのeCanterをヤマト運輸、セブン-イレブンに納入、国内で38台販売し、19年中に50台に増やす計画である。

 eCanterは、1万キロメートル走行当たりの経費を1000ユーロ(およそ12万3000円)削減できることを売り物にヨーロッパに進出している。年間10万キロメートル走るとすれば、1万ユーロ(123万円)の経費削減だ。

 燃料代はどうだろうか。エンジン(ディーゼル)車のCanterの燃費は市街地でおよそリッター8キロメートルである。年間10万キロメートル走ると燃料代は155万円となる。

舘内端/自動車評論家

舘内端/自動車評論家

1947年、群馬県に生まれ、日本大学理工学部卒業。東大宇宙航空研究所勤務の後、レーシングカーの設計に携わる。
現在は、テクノロジーと文化の両面から車を論じることができる自動車評論家として活躍。「ビジネスジャーナル(web)」等、連載多数。
94年に市民団体の日本EVクラブを設立。エコカーの普及を図る。その活動に対して、98年に環境大臣から表彰を受ける。
2009年にミラEV(日本EVクラブ製作)で東京〜大阪555.6kmを途中無充電で走行。電気自動車1充電航続距離世界最長記録を達成した(ギネス世界記録認定)。
10年5月、ミラEVにて1充電航続距離1003.184kmを走行(テストコース)、世界記録を更新した(ギネス世界記録認定)。
EVに25年関わった経験を持つ唯一人の自動車評論家。著書は、「トヨタの危機」宝島社、「すべての自動車人へ」双葉社、「800馬力のエコロジー」ソニー・マガジンズ など。
23年度から山形の「電動モビリティシステム専門職大学」(新設予定)の准教授として就任予定。
日本EVクラブ

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