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江川紹子の「事件ウオッチ」第134回

【『表現の不自由展』中止問題】津田大介氏による「お詫びと報告」に対して生じる疑問

文=江川紹子/ジャーナリスト

 

【『表現の不自由展』中止問題】津田大介氏による「お詫びと報告」に対して生じる疑問の画像1
「表現の不自由展・その後」に展示されていた少女像(写真:YONHAP NEWS/アフロ)


 この週末、愛知芸術文化センターに行ってきた。ここは、今話題の芸術祭「あいちトリエンナーレ」のメイン会場になっている。

 せっかくなので主な展示も見てきたが、私の主たる目的は、コンサートホールで行われたオペラ鑑賞だった。演奏した愛知祝祭管弦楽団は、愛知県内のアマチュア演奏家が集まってつくられたオーケストラだ。このオケの公演は、過去には「トリエンナーレ」のパートナーシップ事業となったが、今年はオケが申請しておらず関連は一切ない。

トリエンナーレから外されたオペラ公演


 演目は、ワーグナーの4部作『ニーベルングの指輪』のフィナーレ『神々の黄昏』。地元出身者を中心に、今のオペラ界で活躍する旬のプロ歌手を呼び、毎年1作ずつ4年間かけて夏に上演してきた。プロのオケでも演奏が難しいこの大作を、全曲上演するアマオケがあるのは、世界でもおそらくここだけではないか。今回はその集大成。音楽を愛する人たちが、1年間みっちり練習しただけあって演奏のレベルは高く、音楽への愛と熱意があふれた、実に感動的な公演だった。

 このオケは、2005年に行われた愛知万博をきっかけに県内の音楽愛好家が集まって演奏会を開いたのが始まり。その後も演奏活動を続け、2013年に初めてワーグナーのオペラ『パルジファル』を上演し、以後、ワーグナー作品に取り組んできた。ワーグナー・オペラの本場ドイツ・バイロイト音楽祭の合唱指導などの経験もある、指揮者の三澤洋史氏の指導や新進気鋭の演出家・佐藤美晴氏などの協力もあり、音楽評論家にも一目置かれる存在に成長。地域での文化創造のひとつの形をつくってきた。

 県が取り組む大がかりな文化イベント「トリエンナーレ」も、美術だけでなく、音楽プログラムもあり、前回まではメイン事業としてオペラ公演を行っていた。2010年の第1回にはオッフェンバックの『ホフマン物語』、2013年はプッチーニの『蝶々夫人』、そして前回2016年にはモーツァルトの『魔笛』を上演した。こちらは地元のプロオケである名古屋フィルハーモニー交響楽団の演奏で、演出もキャストも実に魅力的な人ばかりだ。

 しかし、今年はオペラ公演がなくなった。

「トリエンナーレ」の企画アドバイザーを務めていた批評家の東浩紀さんは、芸術監督の津田大介氏との対談で、オペラ中止は「かなり強引に津田色を出した」結果、と明かしている。津田氏も、「もうオペラはいいんじゃないのという空気をびんびん感じて、軽い気持ちでやめちゃいました」と応じていた。

 語り口が軽いのが気になったが、芸術祭にはいろんなやり方がある。メイン事業のひとつを取りやめるほど、「トリエンナーレ」は芸術監督に自由な裁量、強力な権限と責任を与えているのだと、私は肯定的に受け止めた。

 この芸術監督の権限と責任については、企画展「表現の不自由・その後」が開幕3日目で中止となった企画展の中止を決めた後、「トリエンナーレ」実行委員会会長である大村秀章・愛知県知事が定例記者会見で次のように述べている。

「私はトリエンナーレ実行委員会の円滑な運営、全体の管理・運営、予算面での対応等々、全体を円滑に進めていくということです。そのなかで芸術監督を決めた以上は、そこで作品の中身についてはお任せをする。基本的には芸術監督の責任で仕切ってもらう、という立て付けになっています」

 企画展についても「中身については芸術監督の津田監督が全責任を持ってやっている」と、津田芸術監督が全責任を負っていることを大村知事は強調した。

 ところが……。

芸術監督の権限と責任とは


 津田氏が15日に発表した「お詫びと報告」を読んで驚いた。

 この企画展に、どの作品を展示し、どの作品を展示しないかは、芸術監督である自身ではなく、元NHKプロデューサーの永田浩三・武蔵大教授やフリー編集者の岡本有佳氏ら5人による「表現の不自由展実行委員会」(不自由展実行委)が決定権を持っていた、と書かれているのだ。

 いったいどういうことなのか。とりあえず、津田氏の主張を整理しておく。

 津田氏によると、近年の公立美術館で展示拒否に遭うなどした他の作品を加えるよう提案したが、了承されたのは3作品のみ。東京都現代美術館から撤去要請された会田誠氏の『檄』や、警察からわいせつ物陳列にあたると「指導」を受けた鷹野隆大氏の男性の裸体写真、逮捕・起訴されたものの裁判でわいせつ性を否定されたろくでなし子氏の『デコまん』シリーズなどについても、提案したものの受け入れられなかった、という。

 会田氏については、不自由展実行委が「拒絶」。会田氏は、都内の美術館で開かれた個展が、「性暴力性と性差別性に満ちている」として激しい抗議を受けたことがある。同氏のツイッターによれば、抗議をした側のひとりが不自由展実行委のメンバーで、彼女の反対で出展は実現しなかった、という。もっとも、今回の『檄』は性的な作品ではなく、なぜ拒絶されたのかは明らかにされていない。

 ろくでなし子氏については、津田氏の説明では「スペースの都合で」とされているが、彼女の『デコまん』シリーズは、それほど大きいわけでもない。鷹野氏に関する説明も要領を得ず、不自由展実行委がなぜ受け入れなかったのかは、判然としない。

 いずれにしても、「表現の自由」の問題では、定番とも言うべき「わいせつ表現」が問題にされた作品の展示の機会は消え、慰安婦、天皇、憲法9条など、もっぱら政治色の強い課題をテーマにした作品展となった。

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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