我が国の公的年金制度の最大の問題は、老後の防貧機能を堅持しながら、年金財政の持続可能性をいかに高めていくかにあるが、先般(2019年8月下旬)、厚生労働省は2019年・財政検証の結果を公表した。次回の財政検証は2024年であるが、2019年の財政検証では、名目運用利回りや実質賃金の伸び等の異なる条件で6ケース(ケースⅠ~ケースⅥ)を検証している。
新聞やテレビ等の報道では、金融庁の報告書「老後2000万円問題」の影響もあるため、将来の年金額が減るのか増えるのか、年金財政は本当に破綻しないのか、といった内容が中心となった。このような報道では、モデル世帯の「所得代替率」に注目するものが多かった。
所得代替率とは「現役男性の平均的な手取り収入に対するモデル世帯での年金の給付水準の割合」を示す。2029年度以降の実質GDP成長率が0.4%となる「ケースⅢ」では、2019年度の所得代替率61.7%が2047年度以降で50.8%になるという推計結果となっている。この推計結果は、2019年度の年金額と比較して、モデル世帯の年金額は実質的に約2割カット(=1-50.8÷61.7)となることを意味する。
しかし、モデル世帯の年金額は「現実の年金分布」とは相当かけ離れている。まず、2019年度におけるモデル世帯の年金額は、夫の年金額が年間約186万円(=月額15.5万円)、妻の年金額が年間約78万円(=月額6.5万円)で、合計約264万円(=月額22万円)で、一人当たりの平均は年間約130万円である。他方、厚労省「年金制度基礎調査(老齢年金受給者実態調査)平成29年」によると、現在でも、年間120万円未満の年金しか受け取れない高齢者は46.3%、年間84万円未満の年金しか受け取れない高齢者は27.8%もいる。
年間84万円未満のケースの多くは、基礎年金しか受け取らない高齢者も多いはずであるが、この関係で重要なのは、所得代替率のカットの中身である。
モデル世帯では、1階の基礎年金部分と2階の報酬比例部分の2つを受け取る高齢者を想定しているが、2019年度の所得代替率61.7%の内訳は、基礎年金部分が36.4%、報酬比例部分が25.3%で、それらの合計が61.7%になっている。
それがケースⅢでは、2047年度以降で所得代替率が50.8%になるが、その内訳は、基礎年金部分が26.2%、報酬比例部分が24.6%となっている。これは、1階部分(基礎年金部分)の給付が約28%カット(=1-26.2÷36.4)される一方、2階部分(報酬比例部分)の給付が約3%カット(1-24.6÷25.3)されることを意味する。基礎年金部分を28%もカットすると、低年金の問題を一層深刻化させる。
問題改善の方法と効果
このような問題が発生する理由は何か。あまり知られていないが、国民年金と厚生年金の財政運営は基本的に分離されており、年金の給付調整(厳密には「マクロ経済スライド」による実質的な給付)は2段階で行われる。