政府と民間企業が出資する産業革新投資機構(JIC)の社長に、金融業界出身の横尾敬介氏が就任する。JICに関しては、運営管理を主導する経済産業省と前経営陣がこれまでにも報酬制度などをめぐって対立した。政府としては、大手証券会社の社長を務め、実業界と太いパイプを持つ横尾氏の登用によってJICの信頼回復を目指したいところだろう。
ただ、現時点でJICが役割期待を果たせるか不透明な部分が多い。その要因の一つとして、政府に求められることと、民間の役割には根本的な違いがあることがある。日本の官民ファンドの運営実態を見ていると、この点が十分に理解されているか疑問を覚えざるを得ない。また、多くの官民ファンドが、資金を出資した案件から付加価値を生み出すことができていない。
突き詰めて考えると、政府(官)には採算性という概念が乏しい。民間企業は限られた経営資源を効率的に活用し、付加価値を生み出さなければならない。この違いは大きい。政府は民間に任せることは任せ、人々が常にチャレンジしやすい環境の整備を目指すべきだろう。そのなかで、官民ファンドがどのような役割を発揮できるか、焦点を絞った議論が必要と考える。
報酬をめぐる政府とJIC旧経営陣の対立
JICの運営には、さまざまな問題がある。なかでも重要と考えられるのが、報酬に関する政府と民間の考え方の違いだ。経済のグローバル化に伴い、日本企業は成長期待の高い海外に進出し、収益獲得を目指している。海外でのビジネスに日本の常識が通用するとは限らない。M&A(企業の合併と買収)には法律やファイナンスなどに関する高度な知識と経験も求められる。その上で、日本の企業はグローバル化が進んだ組織を一つにまとめ、経営しなければならない。
それが、国内企業による“プロ経営者”や専門性の高い人材の登用につながった。プロ経営者をはじめ実績のある人材は引く手あまただ。報酬も高い。専門性が高く経験豊富な人材を活用していくために相応の報酬を支払うことは避けられない。
これは、日本全体が冷静に考え受け止めるべき事実だ。その上で、成果をどのように評価し、報酬の水準が適切か否かを見定め仕組みを整えることが日本には求められている。この考えに基づいてJICの運営を考えると、官民の発想の違いがよくわかる。政府は、長期的な経済利得よりも、目先の世論の反応を重視してしまったように見える。