
「毎日1万歩ずつ歩けば健康になれる!」と思っていませんか?
これは単なる都市伝説であって科学的根拠は存在しない、という主旨の記事が米国の医学専門誌に発表されました【注1】。それどころか、1万7000人の高齢女性を対象に追跡調査を行ったところ、1日に4400~7500歩くらい歩いている人の寿命がもっとも長いことがわかったそうです。
1日1万歩は必要がなかったのです。1日1万歩の話があまりにも有名になったばかりに、「そんなに歩くのは無理」と考える人も少なからずいて、とくに高齢者の運動に対する意欲をそいでしまっていると考える研究者さえいます。
前述の記事によれば、この1万歩神話は、1965年に日本で発売開始された「万歩計(R)」がヒット商品となり、そのキャッチコピーが「1日1万歩運動」だったことで生まれました。時あたかも東京オリンピックが終わったばかりで、国民の生活に余裕も生まれ、運動熱が高まっていました。万歩計を開発した会社のホームページによれば、当時、ジュディ・オングさんのコマーシャルも話題づくりに一役買っていたようです。
そもそも、歩くことは本当に体に良いのでしょうか? もしそうなら、どれくらい歩けばいいのでしょうか?
実は、日々歩いている歩数と健康寿命との関係を調べたデータは、すでにたくさんあるのですが、「両者に関係ありとしたもの」と「関係なしとしたもの」がそれぞれあって、結論がはっきりしていませんでした。幸い、ここ数年、新たな視点でこのテーマに取り組んだ研究の成果が相次いで発表されていますので、以下、代表的なデータを紹介します。
健康長寿のための正しい歩き方
わかってきたのは、「歩数」よりも「歩く速さ」が大切だという事実でした。米国ハーバード大学など複数の研究機関で行われた研究では、2万人を超える男性を対象にして、9.4年間にも及ぶ追跡調査を行い、死亡率が分析されました。その結果、意識的に時速6.5キロメートル以上の速さで歩いている人は、そうでない人に比べ、9.4年間に死亡した人が37パーセントも少なくなっていました【注2】。そのほかの調査でも、結果はほぼ同じです。