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黒川智生の「アパレル、あばれる」

中国企業幹部が東京を視察して鋭く指摘した“日本のアパレル”の本質的課題とヒント

文=黒川智生/VMIパートナーズ合同会社代表社員

「強みは、他人に見つけてもらうのがよい」といわれる。もがき、苦しむ日本のアパレルについても同じことがいえると、強く感じる出来事が先日あった。

中国企業幹部が東京を視察して鋭く指摘した“日本のアパレル”の本質的課題とヒントの画像1
PIXTAより

 晩秋のある1週間、中国福建省厦門(アモイ)に本部を置く、ファッションブランド幹部の皆さんの東京研修に立ち会うこととなった。彼ら(P集団)は中国各地で複数のブランドを展開し、かつ海外にも商品開発の拠点を持ち、古くから国際的に活躍している。

 彼らが東京を巡りながら、何が刺さり、何がいまひとつだと感じるのか? 嗜好の違いがあるし、長く良いと言われるものには本質があるから議論しても仕方ない、という意見もあるが、違いに目を向け、魅力発見の素を探せると思い、たびたびこのような役割を私は引き受けている。

ある日の午後

 六本木ヒルズへ行く。こちらは、都内でも有数の商業施設である。それは売上高だけではなく、海外からのお客様が買い物しやすいか、という視点からである。

・国内外の有名ブランド店舗が、洋服以外も含めて多数ある。

・レストランやカフェの種類も多く、内装やサービスのイメージが良い。

・上層階に展望台(スカイデッキ)があり、東京を一望できる。

 これにヒルズがもつ“独特の回遊性”が加わり、P集団の皆さんにも刺さったようだ。

 2時間ほど各自で見て歩いた後で、彼らにその感想を話してもらった。

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集まって感想を共有するP集団のみなさん(筆者撮影)

「海外ブランドを含め、何か買い物しやすい! 店内の商品の数は少ないのに。それが不思議だ。自分達はできるだけ多くの商品を並べれば良い、と信じてきたのに。店員も押し付け感が少ない、これも影響しているかもしれない」

「これだけ大規模なセレクトショップが複数あり、また、ビジネス対応や高級カジュアルなど、それぞれの特徴をはっきりさせている。自分たちの国では、この状態は実現できていない。商品を集めることはできるが、その特徴や背景を含めての接客も課題だ」

 東京へ何度も来て見ている人もいれば、初めての人も半分くらいいたが、この2つは彼らに共通する素直な本音であり、日本のファッション店舗の強みともいえるだろう。

ある日の夕方

 座学の後は地下鉄日比谷線で銀座へ。中国から来る視察団の多くは、1日バスを貸し切って移動するケースが多い。人数の関係もあるが、普段から自動車での移動に慣れていることがある。しかし、P集団は公共交通機関を使う。「そこにいる人々が実際にどう生活しているか、足を使って感じなさい」というのが、ブランド総裁の意見だからだ。形式的な企業訪問も嫌い、あくまで生活者の視点を重視している。

 銀座に着いて、日本出自ブランド(無印良品やあるミセス向けブランドなど)を見た後でたどり着いたのが、ドーバーストリートマーケットGinza(DSM Ginza)だった。

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DSM Ginzaのホームページより

 この店舗は、コムデギャルソンの川久保玲が仕掛けるコンセプトショップであり、2004年にロンドンにある高級住宅街メイフェアのドーバーストリート沿いにつくられたのが、その名前の由来である。それは「美しいカオス」とも表現される無二の存在である。中国のファッション関係者にも知られ、今回東京に来た彼らが一番見たかった場所でもあるという。

「北京にも昨年オープンしただろう?」と彼らに質問すると、「東京のDSMを見たい。川久保玲は東京から世界へ活躍するデザイナーであり、その視点を吸収したい」ということだった。唯一無二であることや“東京独自”の事情が、彼らの好奇心を刺激しているのだろう。入口で別れた後、近くのGINZA SIXを含めて多くの時間を費やしたことは、いうまでもない。

そこでしか感じられない体験とは?

 座学や視察の後は、やはり味わいに関心が向く。これは万国共通。「どこかお薦めの居酒屋はありませんか?」の問いかけに、神田駅付近の大衆居酒屋をアテンドした。

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筆者撮影

 厦門という海が近い地域に活動拠点がある彼らは、海鮮物にも慣れており、焼き物を注文した後はその内容を友人たちとシェアするためにスマホでのSNS投稿に集中。これもみな同じである。

 お楽しみの時だったが、「日本の百貨店にある中級クラスのブランドや商品をどう感じる?」と余計な質問を投げかけてみた。

中級の国内ブランドは、中国のそれと比較してもコスパが良いように見える。着やすい素材を選んでいるだろう。でもコスパがすべてではない。着る人の個性を出せる服としてどうだろうか? むしろシンプルで、少し老いた感じも受ける」

 これは、営業責任者の意見である。

 一日の終わりに厳しめの言葉であったが、彼女の指摘には同意できる人が多いのだろう。彼女とて、自分の国では多くの競争に晒され苦労しているがゆえの発言かもしれない。「せっかく日本ですから、清酒を飲みます!」と彼らは注文を続けたが、異なる国で同じ仕事に携わる者として、考えさせられる時間であった。

 折しも、日本百貨店協会より、19年10月のインバウンド売上が、前年対比金額で13.8%減(購買客数は14.9%減)との状況が公表された。金額は2カ月ぶりの減だが、客数では5か月連続の減という。この機会にインバウンド消費のなかで大きなボリュームを占める中国勢力、そのなかでも商品の性格や細部を理解する人たちから、次の“あばれるヒント”をもらうこともできるだろう。

(文=黒川智生/VMIパートナーズ合同会社代表社員)

黒川智生/VMIパートナーズ合同会社代表社員

黒川智生/VMIパートナーズ合同会社代表社員

1988年 國學院大學文学部史学科卒。株式会社ワールド入社。
コルディア部営業、ファッションコンビニエンスストア「ITS‘DEMO」開発、株式会社ダブルジェイ事業推進部長を担当。
2006年3月 MINTCAFEとして、東アジア圏のファッション小売における知識創造へ貢献をテーマに独立。以後、日本国内外のファッション系小売各企業様を対象に活動中。
2008年5月 VMIパートナーズ合同会社設立。
現在の活動
一般財団法人ファッション産業人材育成機構IFIビジネススクール 講師(2009年より現在まで)
(PFクラス 事業計画+物流基礎、ロジスティクス研究会運営)
学校法人 文化学園  文化服装学院 講師(2020年より現在まで)
(ファッション流通専門課程)
日本マーケティング学会 所属
VMIパートナーズ合同会社ホームページ

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