新型コロナとの「戦争」に勝てるか? 政府の危機対応に見る『失敗の本質』の画像1
※画像:『失敗の本質 日本軍の組織論的研究』((中央公論新社刊)

 1月から始まった新型コロナウイルスの感染は世界に広がり、4月1日現在で感染者数85万人超、死者は4万人超となっている(ジョンズ・ホプキンス大学調べ)。


 わずか2カ月で世界は一変し、アメリカをはじめとした各国が非常事態宣言を発動。不要不急の外出が禁じられるといった厳戒態勢がとられ、フランスのエマニュエル・マクロン大統領はウイルスとの戦いを「戦争」と述べるなど、その様相は緊迫している。


 一方、日本政府の対応はどうか。


 3月20日から22日の3連休は外出する多く人が多く見受けられ、「#自粛疲れ」が報道された。安倍晋三首相や小池百合子都知事は緊急記者会見を開き、外出自粛を国民や都民に要請するのだが、そのぼんやりとして補償がない趣旨に、批判の声が上がる。


 そして、SNSでは「まさしく日本政府の対応では?」という指摘とともに、ある一冊の本のタイトルがあげられている。『失敗の本質 日本軍の組織論的研究』(戸部良一ほか著、中央公論新社刊)だ。

 

■ノモンハン事件の日本軍の敗北に見る既視感


 『失敗の本質』は、大東亜戦争において旧日本軍はなぜ敗北したのかを分析すべく、ノモンハン事件、ミッドウェー海戦、ガダルカナル作戦、インパール作戦、レイテ海戦、沖縄戦の6つの事例を取り上げながら、何が組織を破綻に向かわせたのかを解き明かす一冊だ。


 組織論の名著としても広く知られており、サントリーホールディングス社長の新浪剛史氏は「会社組織の経営に常に必要な“戒め”を学べる指南書です」と表紙にコメントを寄せている。


 ここにあげられている事例は、おそらく既視感を抱くものが多いだろう。


 例えばノモンハン事件。1939年に日本とソビエト連邦が国境をめぐって起きた紛争で、ソ連が勝利している。本書では日本軍の敗北の理由として次のようにまとめている。


・作戦目的があいまい
・中央と現地とのコミュニケーションが機能せず
・情報については受容と解釈に独善性が見られる
・戦闘では過度に精神主義が誇張された


 なるほど。たとえば3月28日に文化庁長官の宮田亮平氏名義で発表されたメッセージ(*1)は、「明けない夜はありません! 今こそ私たちの文化の力を信じ、共に前に進みましょう」という精神的な一文で結ばれ、メッセージの全体を読んでも具体的な施策や補償については触れられていない。


 また、ノモンハン事件の分析部分には次のように書かれている。


大兵力、大火力、大物量主義をとる敵に対して、いたずらに後手に回って兵力逐次使用の誤りを繰り返した。情報機関の欠陥と過度の精神主義により、敵を知らず、己を知らず、大敵を侮っていたのである。(p.68より)


 この一文はオリンピック開催・延期をめぐる議論と重なる。オリンピックの今年夏の開催については世界的に感染が爆発しても、森喜朗大会組織委員会会長はなお頑なに延期を否定し、安倍首相は「完全な形で」とお茶を濁すばかりだったが、3月24日、ついに延期が決まった。


 延期が決まったことについては安堵すべきだが、ここまで状況が悪化した状態まで引っ張るとは…と多くの人が思ったはずだ。


 さらに3月30日、小池都知事は記者会見で「2021年7月23日開催」を発表。これは1年後にコロナ禍が終息していることを見据えての判断なのだろうが、実際に1年後に終息する明確なシナリオは存在しない。


 森会長は安倍首相の延期日程決定に「2021年に賭けたと感じた」と話したと報道されているが(*2)、本当に「賭け」ならば、精神主義の最たるものと言えるだろう。

 

■短期決戦でも、長期的展望を持つことは必要


 『失敗の本質』の第二章では、事例分析からそこに共通する性格を見出している。「ノモンハン事件」と重複するものもあるが、箇条書きで出していこう。


・あいまいな戦略目的
・短期決戦の戦略思考(長期的展望なきままに戦争に突入)
・グランド・デザインの欠如と場当たり的な対応
・主観的で帰納的な戦略の策定
・狭くて進化のない戦略オプション
・学習を軽視した組織


 この3つめのグランド・デザインの欠如については、「日本軍は、初めにグランド・デザインや原理があったというよりは、現実から出発し状況ごとにときには場当たり的に対応し、それらの結果を積み上げていく思考方法が得意であった」(p.285より引用)としている。

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