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「相馬勝の国際情勢インテリジェンス」

中国、“コロナ失業者”が3000万人か…大半が失業保険を受給できず、過去最悪の不況

文=相馬勝/ジャーナリスト
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「Getty Images」より

 中国では新型コロナウイルスの感染拡大で、今年に入ってから3カ月間で500万人が一時帰休などの名目で職を失っており、年内に3000万もの労働者が失業するとの見通しが明らかになった。その大半が失業保険を受給する資格がないことから、農民工(出稼ぎ農民)を中心に大規模な抗議デモが起こっており、出動した武装警察部隊との衝突に発展するなど、中国政府は取り締まりに躍起になっている。

 中国は4月に入ってようやく経済復興に向けた緊急経済対策を打ち出したばかりで、軌道に乗るまで時間がかかることが予想されるだけに、習近平指導部は政権維持に向けて厳しい正念場にさしかかっている。中国に生産拠点を置く日本企業も大きな影響を受けるとみられ、中国経済の不調は日本経済に直接打撃を与えそうだ。

都市封鎖や厳しい移動制限

 英経済誌「エコノミスト」の調査部門である「エコノミスト・インテリジェンス・ユニット」の王丹アナリストは中国が震源地となった新型コロナウイルスの感染拡大で、中国では少なくとも3000万人の失業が出ると予測。今後の経済活動が停滞すれば、さらに5000万人にまで拡大する可能性もあるとしている。中国では2008年9月のリーマンショックの影響で、09年の失業者は2000万人にも達したが、今年はその数を優に上回ることは確実だと指摘する。

 北京政府は当時の経済不況の教訓から、労働者保護のために、この10年間で失業救済金として5817億元(約9兆9000億円)を支出したが、今年は1年間だけで、これ以上の失業者救済のための予算が必要となるとみられている。

 しかし、中国の場合、失業保険を受給する資格が厳しく、10年間毎月雇用保険を払い続けなければならない。現在、中国には臨時工の身分で約3億人にも上る農民工がいるとされるが、その大半は失業保険の受給資格はないのが現状だ。

 中国人力資源・社会保障部の統計によると、今年1月と2月の2カ月間で失業保険を受給できたのは229万人で、失業者数の半分にも満たなかった。しかも、その額は最高でも毎月1815元(約3万円)でしかなく、2年間で12カ月しか支給されない。いまや北京などの都市圏でアパートの賃貸料は最低でも2500元ほどであり、失業保険だけでは赤字になるのは確実だけに、失業者が生きていくのは極めて難しいといわざるを得ない。

 さらに、農民工の場合、今年に入っての新型ウイルスの感染拡大に伴い、都市部では都市封鎖や厳しい移動制限が敷かれており、建設工事が軒並み中止になった。飲食店などのサービス業や映画館などの娯楽産業が休業に追い込まれており、労働者の3カ月間の給与総額647億元(約1兆1000億円)が支払われず、労働者側の損失となっている。本来ならば、受け取れるはずの給与が手に入らなかったために、農民工など労働者の貧窮に拍車をかけることになった。

 香港を拠点にして、中国全土の労働問題を調査している「中国労工通信(チャイナ・レーバー・ブルティン)」は、直接聞き取りができただけで、3月の1カ月間で50件の労働争議が起きていることが確認されたが、実際の数字は少なくともこの10倍の500件になるのではないかと予測している。運輸・建設・サービス業が主で、このなかには新型コロナウイルスの震源地とされる湖北省武漢市で、急増の病院の建設作業に当たった労働者も含まれているという。

日本経済に深刻な影響

 中国の民間のシンクタンクは今年1月から3月までの成長率について、去年1年間の6.1%から大幅に落ち込み4%程度にとどまるという見方を示しており、年間の経済成長率も目標の6%から大きく落ち込むことも予想される。

 これは日本経済にも確実に悪い影響を与える。まず、中国国内の生産や消費の停滞により日本の対中輸出が減少することが見込まれる。次に、中国での部品工場の操業停止などで日本での生産に支障をきたことが予想される。実際に日産自動車の九州にある工場は、中国からの部品調達が滞っているとして一時的な生産停止に追い込まれてしまった。

 3つめは中国人観光客が減少することによって国内消費が冷え込むことが予想されることだ。去年日本を訪れた中国人旅行客は外国人旅行客全体の3分の1近くを占めていたが、3月までの間に団体旅行だけで40万人がキャンセルしたとみられ、宿泊や飲食などサービス産業が深刻な打撃を受けている。

 このようなことから、今後もこの状態が続けば、日本経済に深刻な影響を及ぼすことは不可避。安倍政権は自国の感染拡大防止とともに、中国経済悪化の日本に及ぼす悪影響の回避策を講じることが急務であろう。

(文=相馬勝/ジャーナリスト)

相馬勝/ジャーナリスト

相馬勝/ジャーナリスト

1956年、青森県生まれ。東京外国語大学中国学科卒業。産経新聞外信部記者、次長、香港支局長、米ジョージワシントン大学東アジア研究所でフルブライト研究員、米ハーバード大学でニーマン特別ジャーナリズム研究員を経て、2010年6月末で産経新聞社を退社し現在ジャーナリスト。著書は「中国共産党に消された人々」(小学館刊=小学館ノンフィクション大賞優秀賞受賞作品)、「中国軍300万人次の戦争」(講談社)、「ハーバード大学で日本はこう教えられている」(新潮社刊)、「習近平の『反日計画』―中国『機密文書』に記された危険な野望」(小学館刊)など多数。

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