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5日オープンのツタヤ図書館、官製談合疑惑浮上…不正だらけの実態を暴く内部告発資料

文=日向咲嗣/ジャーナリスト
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和歌山市民図書館 HP」より

 南海電鉄和歌山市駅前にできた「関西初進出のツタヤ図書館」は、昨年秋の開館予定が何度も延期になっていたが6月5日、ついにグランドオープンした。5月18日に一部オープンしていたものの、1階のカフェエリアや4階のキッズエリアなどは閉められたままだったため、ようやく全館フルアクセスが可能になった。

 図書館の運営を担っているのは、TSUTAYAを全国展開しているカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)。日本で6番目のツタヤ図書館としてデビューを飾ったわけだが、その裏で、これまで隠蔽されていた新事実が次々と暴かれ始めた。

 一昨年7月、筆者が同市に請求して開示された新図書館建設までのプロセスがわかる1400枚の会議録は、97%が黒塗りで中身の解読はほぼ不可能だったが先日、ついにその原本数十枚のコピーを入手。そこから、官製談合などの不正を疑わせる記述が何カ所も見つかったのだ。

 5月18日付当サイト記事『和歌山・ツタヤ図書館、市が公募前にCCCを内定か…事前に市長と面談、内部資料を独自入手』でも報じたように、和歌山市が図書館の運営者を公募する1年以上前に、CCCが市長にプレゼンをしていたことが記録されていた。

 この件について担当部署に問い合わせてみると、「当時の記録が何も残っていないので、詳細はわからない」とのことだった。だが、これから事業者を公募しようという時期に、特定候補だけがフライングして市長にプレゼンしていた事実は、明らかに市がCCCを優遇していたことを示す、動かぬ「証拠」ともいえる。

 行政問題に詳しい関係者は、こう指摘する。

「公募前に入札情報を漏洩すると、独占禁止法違反や刑事罰に問える可能性があります」

 実は、これは筆者が入手した会議資料原本コピーのほんの一部にすぎない。数十枚にわたる“爆弾資料”には、不正を疑わせる記述がほかにも何カ所も見つかったのだ。

 黒塗りなしの会議録原本コピーを見て筆者が真っ先に違和感を覚えたのは、関係者会議の初回となった2014年6月3日の会議録にある、以下の記述だ。

<アール・アイ・エーとは再開発のコーディネーター・景観を意識したトータルデザイン、竹中工務店とはオフィス棟の設計施工を中心に契約する>

 この発言者は、南海電鉄。アール・アイ・エー(RIA)が正式に設計業務を落札したのは、2年後の16年8月15日。竹中工務店が再開発エリアの施工者(南海辰村建設と浅川組のJV)に正式に選定されたのは、3年後の17年3月だった。

南海電鉄とRIAが主導してツタヤ図書館を誘致か

 南海電鉄は「自社のプライベートな部分について契約した」としているが、私設部分を担った事業者が、そのまま巨額の補助金が投入される公的部分の設計・施工を担う事業者として選定されていことに、あらためて驚く。

 和歌山市駅前の再開発に関して、県と市に南海電鉄を加えて発足した調整会議は、尾花正啓市長が初当選する2カ月前の14年6月からスタートした。賑わいの象徴だった高島屋の撤退が決まり、寂れつつある駅ビルをどうするかが大きな課題で、耐震改修も含めてさまざまなプランが検討された。そこに、にわかに浮上してきたのが、市民図書館を駅前に移転するプランだった。

 スタートしたばかりの時期の会議録からは、南海電鉄が積極的に図書館を誘致することで集客したいという意欲が、ひしひしと伝わってくる。同社の発言の一部を以下に引用する。

「市民図書館を誘致したい。タイミングを逸したくない思いがある。新市長に直接話しをさせていただいて、トップダウンで決断をお願いしたいと思っている」(平成26年6月27日)

「本社の意向として、市民会館と市民図書館の両方あったほうがコミュニティをつくりやすいが、優先順位が高いのは市民図書館」(平成26年6月27日)

 一方、和歌山市のほうは、駅前に市民図書館を持ってくると、専用駐車場の収容台数が現状よりも大きく減って不便になることなどから、当初、南海電鉄の提案に難色を示していたが、そのほかの条件が整っていったためか、次第に軟化していくさまが会議録から見てとれる。

 財政再建を優先したため、保守系議員から、その在任期間を「失われた12年」とまで揶揄された大橋建一前市長の退任に伴って市長選が行われたのは、この翌々月のこと。県の土整備部長から転身した尾花正啓氏が当選し、ここから大規模な開発プロジェクトが次々と立ち上がっていくのだった。

 ある図書館関係者は、この間の経緯をこうみる。

「14年6月3日と27日、7月3日の調整会議では、市民図書館を(再開発エリアに)組み込むかどうかは“新市長の判断”と、市は述べています。一方で、南海電鉄のほうは新市長に直接話してトップダウンで決断してもらおうと、図書館移転を強く求めています。それからすれば、ツタヤ図書館誘致は南海電鉄とRIAによってもたらされたといえるのではないでしょうか」

未完成の宮城県多賀城市のツタヤ図書館を“成功事例”として紹介

 駅前の再開発について話し合う調整会議が発足して3カ月後の14年9月6日、民間コンサルタントによる新図書館の事例紹介が行われていた。

 説明に立ったのは、RIA。同社は、CCCのフラッグシップである代官山蔦屋書店の開発を手掛けるなど、とりわけCCCと関係が深い。そのRIAが語ったのは、多賀城市立図書館の事業計画についてだったのだから、筆者はひどく驚いた。

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上は和歌山市が開示した2014年9月8日の会議資料。下がその原本のコピー。RIAの担当者が、CCCが指定管理者となった多賀城市と武雄市の事例について説明している。

 というのも、この時点では、多賀城市の新図書館は、まだこの世に存在すらしていないからだ。同図書館の完成は2年後の16年1月、開館は同年3月。13年7月に多賀城市がCCCと連携協定を発表した際に決まっていたのは、「東北随一の文化交流拠点づくり企画提案」にすぎず、かろうじてこの3カ月前にCCCが指定管理者に決まったばかりだった。

 その事業計画立案と建築設計の実務を担当したRIAが、まだ存在していない図書館を成功事例として紹介していることには、違和感しかない。

 またこのとき、13年に新装開館した元祖ツタヤ図書館である佐賀県武雄市の事例も少し紹介しているが、そちらはあくまで既存の建物の改修であって新築ではない。駅前に集客した事例でもないため、和歌山市のケースとは直接関係してこない。

 適切とは思えない事例を、同社が南海電鉄サイドのコンサルタントとして和歌山市と和歌山県の関係者に披露していたのだから、すでにこの時点で何か着地点が用意されていたのではないかと考えざるを得ない。

 南海電鉄側のコンサルタントとして14年9月以降、調整会議に毎回出席するようになったRIAは同時に、和歌山市からも仕事を依頼されていたことがわかっている。

 同社は12年度から15年度まで、市が依頼していた国交省系列の公益社団法人・全国市街地再開発協会の下請けとして、市のまちづくりに関する計画策定に携わっていた。驚いたことに、市がその報告書を基に14年9月に発表した都市計画(『まちなかエリア 公共施設の課題整理と再整備の方向性について』)でも、このときの会議と同じく、まだ存在していない多賀城市の事例が詳しく紹介されていた。

 つまりRIAは、利害が一致しないはずの南海電鉄と和歌山市(協会を通して)双方からカネをもらって仕事をしていたわけで、どちらの利益を優先しているのかわからない。

 建物完成後に買い取る約束で、和歌山市は新しい市民図書館の建設を随意契約で南海電鉄に委託した。その点で、下の図に示すように和歌山市は発注者、南海電鉄は受注者の立場なのだが、同じ時期に双方に助言行為をしたRIAの行為は、いわゆる「利益相反」にあたるのではないのかとの疑念も湧いてくる。

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 南海電鉄は、巨額の補助金がもらえて集客ができそうな図書館の駅前移転を望んでいたが、和歌山市民とすれば、移転せずに耐震補強して、図書館の中身を充実させたほうが、利便性もよく、はるかに負担が少なかったかもしれない。それにもかかわらず、税金を使って南海電鉄だけが得をする計画が立てられたわけだ。

公募を装い、実態はデキレースにする筋道を画策

 この日の会議録の最後には、同社のアドバイスとして、こんな仰天発言も記録されていた。

「CCCと連携するには、市長と社長をグリップさせて始まるイメージで、積み上げていく話ではない」(平成26年9月8日)

「市長と社長をグリップ」とは、いったいどういう意味なのだろうか。また、一般的な行政の手続きとして行われている、市民の声を聞いたり、図書館を管掌する教育委員会に諮ったりといった「積み上げていく話」を全否定しているようにも解釈できる。

 ある図書館関係者は、これらの発言について、こう分析する。

「RIAの担当者は、CCCと連携するには、こんな会議で検討する次元の話ではない。市長が直接CCCに申し入れて、手を携えて協同で進めるようにしろと言っているのでしょう」

 13年の武雄市がそうだったように、市長とCCCの増田宗昭社長による“トップ会談”だけでツタヤ図書館の誘致を決めてしまえというわけだ。さらに、この図書館関係者は、会議録の末尾にある記述を、こう解釈する。

「『海老名市みたいにコンペ方式も探っていければ。コンペで通ったから、指定管理者については随意契約をしますの方がよいのでは』との発言もあります。これは、表面上は公正を装い、裏では筋書き通りに進めるというやり方をアドバイスしたものだと思われます」

 15年にCCCと図書館流通センター(TRC)のJVを、中央図書館の指定管理者にして新装開館した神奈川県海老名市の場合、14年にプロポーザル方式で公募は行ったものの、結果的にこの二者しか応募がなかった。それを念頭に置いた発言であることは明白だ。

 現実に、先述の通り、図書館の指定管理者が公募される1年度以上前の16年7月8日、CCCのみが市長プレゼンに訪れていたことが会議録にしっかり記録されていたのだから、これこそ言い逃れのきかない不正な事業者選定の証拠だろう。

巨額の税金を投入する再開発事業を、市民の意見も聞かずに断行

 この会議が行われた翌々月の11月には、調整会議のメンバー総勢15名が大挙して13年4月にオープンした元祖ツタヤ図書館のある佐賀県武雄市に視察に出掛けていたことが判明している。

 前出の図書館関係者は、このときに和歌山市がツタヤ図書館誘致を内定したのではないかと指摘する。

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2014年9月8日の会議資料では、RIAの担当者がCCCとの連携について、社長との直接交渉や契約方法などについても事細かにアドバイスしていた。

 調整会議が始まった翌年の15年5月、和歌山市と南海電鉄は記者会見を開いて「南海和歌山市駅活性化構想」を発表した。

 駅ビルを建て替えてホテルや商業施設の入る建物に市民図書館も入居させる、総事業費123億円の一大プロジェクトだった。そのうち64億円が補助金で、図書館の建築費用30億円も含めると、公金は合計94億円にも上るが、事業計画の詳細については、このときにはまだ明らかにされていなかった。

 当初、南海電鉄とは「随意契約するほうが安くついて効率的と、和歌山市は主張していた。だが、市の負担だけでも補助金18億円、図書館建設自己負担15億円(国が半額負担)の計33億円は、本当に有利な条件だったのだろうか。しかも、それとは別のランニングコストとして、図書館運営そのものを民間委託したため年間3億円を超える指定管理料がかかってくる。

 それだけの費用をかけて和歌山市が水面下で推進しようとしていたのが、武雄市で年間入館者のべ90万人の“賑わい創出”に成功したといわれているツタヤ図書館だった。

 だがCCCの図書館運営は、大量の古本購入が問題になったり、巨額の費用がかかるわりに利便性に貢献していない独自分類や、貸出カードに「Tカードを導入するなど、専門家たちの評価は、お世辞にも高いとはいえない。

 それどころか、指定管理者としての適性を問われるような不祥事が続出している。昨年2月、CCCは、100%子会社で基幹事業のTSUTAYAが、景品表示法違反を消費者庁から認定されて1億円を超える課徴金を課せられている。

 動画配信サービス「TSUTAYA TV」で、2016年4月から2年以上にわたって、全作品を見放題であるかのように宣伝ていたことが違法認定された。このとき、同社が運営する図書館についても「年間何十万人」とした来館者数は、施設全体の来場者数にすぎないのに、あたかも図書館だけの来館者数にようにアピールしているのは、誇大広告ではないのかとの声も出てきたが、進出自治体は、どこもCCCのこうした表示を問題視しなかった。

 この市民図書館を移転・新築する計画の発表までに和歌山市は、市民の意見を聞いた形跡は、どこにも見られない。いったい誰のための再開発事業なのか。市民は、「開館してしまった今となっては、プロセスはどうであれ、きれいな図書館ができてよかったと、割り切れるのだろうか。

(文=日向咲嗣/ジャーナリスト)

日向咲嗣/ジャーナリスト

日向咲嗣/ジャーナリスト

1959年、愛媛県生まれ。大学卒業後、新聞社・編集プロダクションを経てフリーに。「転職」「独立」「失業」問題など職業生活全般をテーマに著作多数。2015年から図書館の民間委託問題についてのレポートを始め、その詳細な取材ブロセスはブログ『ほぼ月刊ツタヤ図書館』でも随時発表している。2018年「貧困ジャーナリズム賞」受賞。

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