手越祐也は活動休止、黒川氏は訓告処分…ジャニーズ事務所と首相官邸の危機管理能力の“差”
国会議員秘書歴20年以上の神澤志万です。
5月29日の12時半過ぎ、都内上空を航空自衛隊のアクロバット飛行チーム「ブルーインパルス」の6機が飛行しましたね。ご覧になった方も多いかと思います。今回の飛行は、新型コロナウイルスに対応している医療従事者への感謝と敬意を示すためだそうで、スモークを使った白いラインが空に描かれました。
永田町の住人たちも昼休みを利用して、みんなでカメラ小僧になりましたよ。神澤も、勇姿をしっかりと拝見しました。空も青く、素晴らしい! の一言。つかの間の癒やしでしたね。
緊急事態宣言が全面解除されたとはいえ、まだまだ医療現場は疲弊しています。神澤は、先日たまたま貧血で倒れた女性に遭遇して119番通報したのですが、救急車が来るまで20分以上もかかりました。似たような話は、ほかでも耳にしています。
こうしたことからも、現場の逼迫した様子をうかがい知ることができます。インターネット上では「飛行よりもカネをくれ」という声も出ていたようですが、医療従事者のみなさまへ、心より感謝を申し上げます。
霞が関では“個人タクシーの行列”が復活
6月17日の閉会を前に、国会も慌ただしくがんばっていますが、やはり「国会は国内でもっとも柔軟性のない場所なんじゃないの?」と思ってしまいます。
緊急事態宣言が解除された翌日から、都内では飲食店などが短縮していた営業時間を元に戻し、企業によっては在宅勤務から通常出勤になり、東京都などは学校再開や休業要請緩和に向けてのロードマップを示すなど、それぞれ動き出していますよね。
それなのに、国会はなかなか変わりません。売店や郵便局など施設の営業時間は緊急事態宣言中と同じなのです。国会議員やスタッフは通常勤務に戻っているので、正直とても不便です。
思えば、国会内でマスク着用が義務づけられたのも3月に入ってからでした。すべてにおいて出遅れていて、危機管理の意識が感じられませんね。
緊急事態宣言中も、各省庁の職員たちは国会対応や新型コロナ対策のための補正予算対応で連日、遅くまで仕事をしていました。少し前ですが、官僚とタクシー業者の癒着が内部告発で問題になったことから(いわゆる「接待タクシー」や「居酒屋タクシー」問題ですね)、タクシーでの帰宅は自粛されていましたが、今はそんなことも言っていられません。夜中の霞が関では、「個人タクシーの行列」が復活しています。
そうやって自分たちの生活を犠牲にして働いてくれていた公僕のみなさんは、黒川弘務・前東京高等検察庁検事長の辞任劇をどのように見ていたのでしょうか。想像すると、心が痛みます。
黒川検事長は辞めたがっていた?リークの裏側
「黒川さんは、実はもう辞めたいみたいだよ」
そういう噂は、大型連休明けの5月上旬から永田町に広まっていました。
「まぁ、そうだよね。本人もだけど、黒川さんのご家族も『こんなに批判されてまで検事総長になりたいの?』と思われるの、つらいよね……」などと話題になっていたのです。
そんなときに「週刊文春」(文藝春秋)へのリークがあり、あの「賭け麻雀記事」が報じられ、黒川氏は辞任するに至りました。タイミング的に「国家のために勇気をふりしぼってリークしてくれた人がいたんだ」と感謝しましたが、実情を聞いてがっかりです。
産経新聞社の記者同士のやっかみや妬みからの情報提供だったそうで、「検察官の定年を延長する法案の成立を阻止しよう」「官邸にえこひいきされている黒川さんが検事総長になったら、三権分立が脅かされる」などという正義感からではなかったようなのです。
文春の記事によると、黒川氏と賭け麻雀をしていたのは、朝日新聞社の社員が1人、産経新聞社の記者が2人とありますが、その朝日新聞の記者も実は産経出身者だそうです。朝日新聞はとばっちりを受けた形となり、気の毒とも言われています。だからこそ、いち早くコメントを発表し、処分も下したのでしょうね。
この文春の記事が公になる前に、黒川氏は「週刊新潮」(新潮社)のある記者に、文春から問い合わせが来たことを相談したそうです。そして、「デイリー新潮」では「文春オンライン」より前に、具体的な日時も載せて黒川氏擁護の記事を出しています。こういうことは“スクープ潰し”といって、メディア業界ではルール違反にあたるのだそうです。
それを知らずに新潮の記事を引用して委員会質疑を行った立憲民主党の中谷一馬衆議院議員は、「結果的に、新潮による文春のスクープ潰しを後押しした」として、国会対策の担当から外されました。まだ1年生議員なのでルールを知らなかったのかもしれませんが、忠告してくれるベテラン秘書はいなかったのでしょうか。
しかしながら、最近の官邸の危機管理能力の低さは「情けない」の一言ですね。黒川氏の麻雀問題も、官邸側は「懲戒免職もやむなし」という姿勢で法務省と折衝すべきでした。そうなれば、「停職3カ月程度」などの“落としどころ”が見えたはずです。それを官邸側から訓告という軽い処分にするように伝えるなんて、世論が納得するわけがありません。
ネット上では、コロナ禍で飲み会を開催していた人気アイドルグループ・NEWSの手越祐也さんに対するジャニーズ事務所の処分との違いが話題になっているそうですが、無期限の芸能活動休止という処分は、危機管理上は素晴らしいと思いました。
厳しすぎる処分をすれば、手越さんのファンや世論が「そこまでやるなんてかわいそう」となりますから、結果的に手越さんの復帰も早まるという流れになります。ジャニーズ事務所の狙い通りですね。
官邸は、そこまで読めなかったのか、危機管理がお得意の菅義偉官房長官は、なぜあえて口を出さなかったのでしょうか。真相はいかに。
(文=神澤志万/国会議員秘書)
『国会女子の忖度日記:議員秘書は、今日もイバラの道をゆく』 あの自民党女性議員の「このハゲーーッ!!」どころじゃない。ブラック企業も驚く労働環境にいる国会議員秘書の叫びを聞いて下さい。議員の傲慢、セクハラ、後援者の仰天陳情、議員のスキャンダル潰し、命懸けの選挙の裏、お局秘書のイジメ……知られざる仕事内容から苦境の数々まで20年以上永田町で働く現役女性政策秘書が書きました。人間関係の厳戒地帯で生き抜いてきた処世術は一般にも使えるはず。全編4コマまんが付き、辛さがよくわかります。