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藤和彦「日本と世界の先を読む」

医療崩壊、過剰な病床数が要因…1病床当たりの医師数が米国の4分の1 、OECDで最低

文=藤和彦/経済産業研究所上席研究員
医療崩壊、過剰な病床数が要因…1病床当たりの医師数が米国の4分の1 、OECDで最低の画像1
「Getty Images」より

 英国政府は12月23日、「新型コロナウイルスの新たな変異種を確認した」と発表した。すでに見つかった変異種よりも感染力が強いといわれているが、ロンドン大学は「変異種は他種に比べて感染力が56%強い」との調査結果を公表している。英国では上記の変異種よりもさらに感染力が強い新型コロナウイルスの変異種も見つかっている。

 第2の変異種は南アフリカからもたらされた可能性があるという。過去1週間で感染者が52%増加しているナイジェリアの疾病予防管理センター(CDC)は12月24日、「国内で新型コロナウイルスの変異種が確認された」ことを明らかにした。英国や南アフリカで確認されている変異種とは異なるとしている。

 世界各地で新型コロナウイルスの変異種の出現が相次いでいるなか、日本でも新型コロナウイルス感染者数が連日のように過去最高を更新している。12月24日の新規感染者数は3742人、重症者数は644人と共に過去最多となったが、政府関係者からは「変異種が日本に侵入すれば1日当たりの感染者数が6000人を超え、医療崩壊が起きてしまう」という悲鳴の声が上がっている。

 12月21日、日本医師会など9団体は「このままでは、新型コロナウイルス感染症のみならず、国民が通常の医療を受けられなくなり、全国で必要なすべての医療提供が立ちゆかなくなる」として医療緊急事態宣言を出した。新型コロナ感染症の治療に当たる医療スタッフたちは大変なのは十分に理解できるが、欧米に比べてはるかに感染者や死者の数が少ない日本で医療崩壊が本当に起きるのだろうか。

 筆者は12月15日付コラムで日本の医療体制の問題点について述べたが、今回のコラムではさらにこの問題について深掘りしてみたいと思う。誠に時宜を得た書籍『医療崩壊の真実』(渡辺さちこ他著/エムディエヌコーポレーション)が12月23日に出版されたからである。

医師や看護師の分散

 著者の渡辺氏は「医療崩壊の危機を引き起こしている要因は、過剰な病床数が招いた医師や看護師の分散にある」としているが、まず最初に新型コロナ患者治療の最前線に立っている急性期病院について見てみよう。急性期病院とは、重症患者の治療などを24時間体制で行っている大きな病院のことであり、医療崩壊が懸念されているケースのほとんどが急性期病院である。

 渡辺氏の調査によれば、今年2~6月に新型コロナ患者を受け入れた341の病院のうち、ECMOや人工呼吸器などを用いての治療を行うことができる集中治療専門医や救命救急専門医が勤務していたのは193の病院(57%)にとどまっていた。専門医がいない病院が4割強にも上っていたのである。一方、新型コロナ患者を受け入れていない266の病院のうち、35の病院(13%)に集中治療専門医や救命救急専門医が、89の病院(33%)に呼吸器内科専門医が勤務していた。

 日本救急医学会によれば、日本全体の集中治療専門医は1955人、救急科専門医は約5000人と国際的に見てけっして高い水準ではないが、急性期病院数が諸外国に比べて多いことから、専門医の分散を招き、現場が崩壊寸前になっているのである。

 さらに医療体制全体では、医療従事者の数に対して病床の数が圧倒的に多いという構造的な問題が存在している。日本の人口1000人当たりの医師の数は2.4人であり、OECD平均(3.5人)を若干下回る水準にあり、看護師も同様の傾向にある。これに対して日本の人口1000人当たりの病床数は13.1であり、OECD平均の4.7と比べて桁違いに多い。このため、日本の1病床当たりの医師の数はOECDで最低の0.2人であり、米国の4分の1以下である。日本の1病床当たりの看護師の数も米国の4分の1以下であるが、新型コロナ対応で特に負担が深刻化しているといわれており、「ブラック労働」化した職場から次々と看護師が離れるという異常事態が生じている。

急性期病院の連携強化

 「医療従事者のために外出を控えろ」との批判の高まりを受けて、政府は12月23日、コロナ対策の特別措置法改正に向けた調整を本格化させている。営業時間の短縮や休業に応じた店舗への支援措置を明記し、要請に応じない場合には罰則を科すとの内容である。来年1月召集の通常国会に特措法改正案の提出を目指しているが、これだけでは構造的な問題を抱えた日本の医療崩壊を防ぐことはできないだろう。

 日本の医療崩壊を防ぐためにただちに実行すべきは、専門医が分散している急性期病院の連携強化である。民間病院の比率が8割に上る日本において、都道府県知事は個別の病院に対して特定の医療行為を行わせる権限を有していないことから、行政によるコントロールは困難である。だが日本の医療体制が抱える問題を明らかにすることで国民的なコンセンサスを得ながら、医療関係者の協力を得るための環境づくりを整備することはできる。

 このような努力を実施すると同時に、改正特措法のなかに「緊急時に地域の医療体制をコントロールできる権限を都道府県知事に付与する」という条項を追加すべきである。飲食店の営業時間短縮や休業の要請に罰則を設けるのなら、知事の要請に応じない病院に対して罰則を設けることも検討されるべきだろう。

「政府のコロナ失政は戦前の日本と同じだ」との論調が出ているが、失敗の本質は「『必要なところに資源を投入し、長期戦に備える』というロジスティックス(兵站)の発想の欠如にあった」と筆者は考えている。「構造改革」を掲げる現政権にとって、「パンデミックにも対応できる強靱かつ効率的な医療体制」を構築することが最優先課題のひとつなのではないだろうか。

(文=藤和彦/経済産業研究所上席研究員)

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

1984年 通商産業省入省
1991年 ドイツ留学(JETRO研修生)
1996年 警察庁へ出向(岩手県警警務部長)
1998年 石油公団へ出向(備蓄計画課長、総務課長)
2003年 内閣官房へ出向(内閣情報調査室内閣参事官、内閣情報分析官)
2011年 公益財団法人世界平和研究所へ出向(主任研究員)
2016年 経済産業研究所上席研究員
2021年 現職
独立行政法人 経済産業研究所

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