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「加谷珪一の知っとくエコノミー論」

大方の予想とは逆に、コロナ下で食料・資源・運賃などあらゆる価格が高騰している理由

文=加谷珪一/経済評論家
大方の予想とは逆に、コロナ下で食料・資源・運賃などあらゆる価格が高騰している理由の画像1
「Getty images」より

 新型コロナウイルス感染症拡大の危機によって経済が深刻な打撃を受けているにもかかわらず、全世界的に食料やエネルギーの価格が高騰している。コロナ危機発生直後は、需要の極端な減少で価格が暴落し、全世界的にデフレが進行するとの声が多かったが、これは単なるイメージでしかない。確かに販売不振で価格が低下する商品もあるが、ビジネスの維持に必要となる必需品は、むしろ供給がタイトになり、不景気であるにもかかわらず物価上昇が進むケースが多い。

食料品の価格が暴騰している

 このところ全世界的に食料品の価格が急上昇している。国連食糧農業機関(FAO)が算出している食料価格指数(2014~2016年=100)は、2020年12月段階で107.5となり、2020年5月との比較で18%も上昇した。同指数はコロナ危機が深刻化した2020年前半に下落したが、すでにコロナ前の水準を突破する状況となっている。

 価格高騰は食料品だけの現象ではなく、コモディティ全般に広がっている。IMF(国際通貨基金)の調査によると、金属類は2020年11月時点で5月との比較で24%の上昇、燃料(原油や天然ガス、石炭の総合値)価格は90%近くの上昇となっている。天然ガスについては寒波による中国や韓国の輸入急増やプラントのトラブルといった特殊要因があるが、多くの商品価格が上昇しているのは間違いない。

 各国の株式市場では、コロナ危機で多くの企業が業績悪化に苦しむなか、株価だけが顕著に上昇するという、ある種の異常事態が続いてきた。ニューヨーク証券取引所のダウ平均株価は史上最高値を更新中だが、コロナ危機の最中に株価が上昇しているのは、ポストコロナ社会への期待感が原因とされる。

 今、相場をリードしているのはGAFA(米グーグル、米アップル、米フェイスブック、米アマゾン・ドット・コム)に代表される巨大IT企業である。コロナ危機をきっかけに社会のIT化が一気に進むと予想されており、その主役となる企業に買いが集まっているという図式だが、IT銘柄への期待感だけでここまで相場が上昇するとは考えにくい。背景には、コモディティ価格の上昇によるインフレ期待も大きく作用しているはずだ。

 コモディティ価格の高騰は、市場の混乱が最大の原因だが、IT銘柄の高騰と同じく、コロナ後の社会を暗示していると解釈することもできる。

 コロナ危機など緊急事態が発生すると、平時には隠れていた国家のエゴが丸出しになる。一部の国は不測の事態に備え、食料や資材の備蓄を増やしたり、輸出を一時的に制限するなど資源確保に走る。実際、2020年前半にはロシアやカザフスタンが小麦の輸出を制限したほか、中国は政府によるコメの買い入れを過去最高水準まで増やしている。日本では極度のマスク不足が発生したが、中国やドイツなどマスクの生産国は一時、輸出を制限する措置を実施していた。

従来型サプライチェーンが抱えるリスク

 ドイツも中国もマスクの輸出を再開したし、食料を備蓄した国も状況に応じて備蓄を放出していく。最終的には需要と供給のバランスは取れるはずだが、一時的であっても市場において需要と供給の不一致がもたらす影響は大きい。需要と供給のバランスが崩れるリスクが存在する状況では、企業は割高になっても数量を確保しようとするので、どうしても価格は上がってしまう。

 短期的な需給のバランスが改善しても中長期的には別の要因が加わってくる。それはサプライチェーンの混乱である。各国の企業は食料や資材、部品を調達するため全世界に巨大なサプライチェーンを構築している。近年は特にその傾が強く、1円でも安い商品を求めて地球の裏側からでも調達するのが当たり前となってきた。

 だが、こうした巨大な調達網は、その一部が滞っただけでも全体に大きな影響を与えてしまう。物資を輸送するルートや集約拠点で新型コロナウイルスのクラスターが発生すると、そこがボトルネックになり、最悪の場合、全体が止まってしまうのだ。

 天然ガスの異常な価格高騰の最大の原因は、プラントのトラブルとされるが、2020年に限って過去に例を見ない水準で天然ガスプラントにトラブルが発生した理由はよくわかっていない。各国で発生したトラブルの種類はさまざまだが、人員の配置や保守部品の調達、電力の確保などにおいて、コロナ危機が間接的に影響した可能性は否定できないだろう。

 コロナ危機は海運や空運にも大きな影響を与えている。

 経済活動の停滞や各国が実施している入国制限などの影響で、飛行機の乗客が激減していることは周知の事実である。船舶はモノの移動なので飛行機ほどの影響は受けていないが、各国の消費需要が減少しているので、やはり取り扱う貨物の量は減っている。

 では船舶の運賃は暴落しているのかというそうではなく、むしろコロナ危機以降、急上昇しているのが現実だ。フレイトス社が公表している全世界のコンテナ船運賃指数は大幅に上昇しており、2020年5月との比較で3倍近くに高騰した。

同じ傾向が長期的にも続く?

 今回のような経済危機が発生すると、需要が大幅に減少するので、価格が暴落するのではないかとイメージする人が多い。筆者はコロナ危機の発生直後から、出演するテレビ番組や寄稿するコラムなどにおいて、供給制限によって価格が上昇する可能性があると指摘していたが、ネットでは一部の人から「コイツは頭がおかしいのか」などと激しく批判(というよりも誹謗中傷)された。

 いわゆる専門家と呼ばれる人の一部にも、需要減少から激しいデフレが発生するのが当然であり、インフレなどあり得ないという声高な主張が見られたが、これは経済メカニズムに対する認識不足から来る誤解といってよい。

 確かに経済危機の発生で需要が減少すれば、価格が下がるのは価格理論上、当たり前のことだが、それは供給が変わらなければの話である。現実には、企業など経済主体の一部は、極端に需要が減少した場合、収益を維持するため一時的に損失を抱えてでも供給を絞り、利益率を維持しようとする。

 コンテナ船の運賃はまさにその典型で、船会社は船舶の供給量を絞ったことで船便が減少。コンテナが滞留するようになり、コンテナの調達がタイトになって価格が大幅に上昇した。結果として輸送量が減ったにもかかわらず、運賃が高騰する現象が発生している。

 先ほど、社会のIT化への期待から株価が上昇しているという話をしたが、社会のIT化が高度に進めば、全世界の物流をAI(人工知能)を使って最適化できるはずなので、同じ経済を維持するために必要な物流量を減らすことができる。

 つまり短期的な利益維持のための供給制限は、実は長期的な利益を維持するための供給制限にもつながってくる話なのだ。そうだとすると、食料価格の高騰や運賃の高騰というのは、今だけの話ではない可能性についても考えなければならない。いずれにせよコロナが終わればすべて元に戻るという感覚は持たないほうがよいだろう。

(文=加谷珪一/経済評論家)

加谷珪一/経済評論家

加谷珪一/経済評論家

1969年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に著書に『貧乏国ニッポン』(幻冬舎新書)、『億万長者への道は経済学に書いてある』(クロスメディア・パブリッシング)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)、『ポスト新産業革命』(CCCメディアハウス)、『教養として身につけたい戦争と経済の本質』(総合法令出版)、『中国経済の属国ニッポン、マスコミが言わない隣国の支配戦略』(幻冬舎新書)などがある。
加谷珪一公式サイト

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