東京五輪の強行開催はリスクが高すぎる!ワクチンで集団免疫獲得は困難、医療体制も不十分
2月8日開幕予定のテニスの全豪オープンに参加する選手らを乗せたチャーター便で、新型コロナウイルスの陽性者が確認されたことから、現地入りした錦織圭ら47人の選手が2週間の隔離を余儀なくされた。到着後2週間の隔離期間中は、もともと認められていた1日5時間の外での練習ができないことになった。
日本の東京五輪開催に関して論議が繰り広げられるなか、このニュースを重く受け止めるべきだろう。しかし、東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長(当時)は、2月3日に開催された日本オリンピック委員会(JOC)の臨時評議員会に出席し、「日本のアスリートのため。お客さんがいなくてもやりたいと(選手が)言ったら、やらせてやるしかない」と述べた。
この発言に対し、多くの不信の声が上がっている。海外事情にも詳しいスポーツファーマシストの石田裕子氏に話を聞いた。
開催には厳しい条件が必要
医療の観点からみて東京五輪の開催は、絶対に不可能というわけではないだろう。しかし、それには厳しい条件を満たす必要がある。第一に整えるべきは、医療体制である。
「現在でも、手洗い・消毒といった衛生意識が高まっているにもかかわらず、全国でクラスターが発生しています。つまり、どんなに感染症対策を行ったところで100%大丈夫ということはあり得ないといえます。海外からの選手たちの移動を、仮に空港、ホテル、競技開催場所だけに限定しても、選手間のクラスターが起きないとは限りません」(石田氏)
集団での行動をとっていれば、一人でも感染者が出ればクラスターが起きる可能性は高い。そして万が一大規模なクラスターが発生した場合には、それを受け入れるだけの医療体制を整える必要がある。しかし、現状の日本の医療体制では、大希望なクラスターには対応できないだろう。
「医療体制が十分に整わずに開催し、日本人を優先するか、海外選手を優先するか、命の選択をしなければならないといった最悪の状況を招くことは、避けなければなりません」(同)
開催規模の縮小
クラスターの発生リスクを最小限に抑えるには、開始規模の縮小も考えられる。
「観客を減らす、もしくは無観客での開催で、可能な限り人の流れを減らすこと。開会式や閉会式など多くの人が集まるであろうエンターテインメントショーも、規模の縮小または中止の判断が必要となります」(同)
しかし、中止等の判断は、予算等の面で難しくなるだろう。なぜなら、すでに販売したチケット代、テレビ放映権料の問題も解決しなければならないからだ。そういった背景からも、森喜朗会長は開催を強く主張するほかないのだろう。
「無事に閉幕すれば日本の評価は上がりますが、仮に感染症で問題が起きれば”記録的惨事”として扱われるでしょう。そのリスクを背負ってまでオリンピズムの『スポーツ・文化・教育』を体現する時期が、今なのかどうかは甚だ疑問です」(同)
観客、アスリートの両者を守るには
1月下旬からアメリカの新規感染者数は減少傾向にあるが、その背景にはPCR検査の実施と隔離の徹底が考えられるという。
「アメリカのコーネル大学では生徒・教員全員に対して毎週、PCR検査を実施しています。陽性者は偽陽性による不当な隔離を避けるために、フォローアップ検査を実施。無症状の陽性者を含め適格に隔離することで、結果的に有病率を減らしてキャンパスでの授業を可能にしています」(同)
アメリカの検査数に対して日本の検査数は少なく、発表されている感染者数は信頼できる数字とはいえないだろう。接触確認アプリ「COCOA」も有効に機能していなかったことが判明し、東京や神奈川県では陽性者との濃厚接触者を追跡しないなど、実際には検査をするべき人ができていないのが現状だ。
「ドライブスルー式のような検査体制を整えて検査数を増やし、それでも感染者数が少ないという安全の証明ができなければ、選手たちが安心して競技に集中できる環境はつくれないと思います。海外の声を聞いても、開催国の日本に比べて圧倒的に五輪開催に対する関心は薄いようです。日本でも『五輪どころではない』『中止すべき』という声のほうが多いのは明らかです」(同)
医療従事者のワクチン接種開始が目前に迫っているが、東京五輪開催までにワクチンによる集団免疫の獲得を終えることは難しいだろう。既存薬のコロナ治療への転用も研究されているが、いまだに有力な治療薬はない。
国民の健康を無視しての五輪開催はあってはならない。
(文=吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト)