松岡久蔵「空気を読んでる場合じゃない」~【絶望の自衛隊・2】

湯浅陸幕長の暴走、更迭か…閣議決定を無視し予算要求せず 後任候補の「入浴祭り」事件

「陸上自衛隊 HP」より

 陸上自衛隊トップの湯浅悟郎陸上幕僚長が3月の人事で更迭されるとの観測が強まっている。閣議決定された現行の中期防衛力整備計画で輸送力強化のために陸自が輸送艦艇を取得することになっていたところ、「個人的な意向」で取得を拒否し予算要求すらしなかったことが、文民統制の大原則から逸脱したと岸信夫防衛相以下、防衛省上層部が判断したためだ。

 本連載第1回目で報じた通りになったわけだが、湯浅氏が後任として推す竹本竜司西部方面総監も防衛大出身特有の悪しき体育会系の伝統を色濃く継承しており、陸自トップとしての資質が疑問視されている。

岸防衛相、異例の記者発表で怒りを露わ

「岸防衛相は異例の時期に輸送艦艇の配備について記者発表をして、湯浅陸幕長のワガママは許さんぞという意思を示した」。2月16日の閣議後記者会見で岸氏が輸送艦艇の取得を発表したことの背景について、ある防衛省幹部はこう話す。

 この輸送艦艇は、中国公船が領海侵入を繰り返す沖縄県・尖閣諸島周辺の離島への弾薬や燃料、食料の供給網を構築するのが狙いだ。南西諸島に配備し、陸自の部隊に物資を運ぶ中型と小型の輸送艦計3隻を2024年に導入するという。18年12月18日に閣議決定された現行計画には「島嶼部への輸送機能を強化するため、中型級船舶(LSV)及び小型級船舶(LCU)を新たに導入する」と明記されている。この輸送艦は計画の最終年度の23年度末までに当初、配備される計画だったため、計画通りに進めることを改めて周囲に示した格好だ。先の防衛省幹部はこう内幕を明かす。

「通常この規模の輸送艦であれば、契約後3年かけてメーカーに代金を支払う形を取るので、23年度に間に合わせるためには、今20年度中に予算要求をしておかなければ間に合いません。湯浅氏のワガママでこれまで予算要求されていなかったことに気付いた岸防衛相が、整備計画を絶対に遅らせてはならないという意思表示をし、湯浅氏の責任を明確化したというわけです」

 もし湯浅氏が来年度での予算要求をしていれば、改めて記者会見で示す必要はまったくない。会見前の14日に事前報道があったが、あえて防衛官僚がリークすること自体、湯浅氏の「個人的意向」を許さないという防衛省上層部の強い意志の表れだろう。陸幕長などの幹部級人事は3月に出るが、岸氏から不信感を持たれた湯浅氏は順当に退官するとみられている。

湯浅氏の後任は時代錯誤の「入浴祭り」を承認

 さて、湯浅氏の後任の有力候補として名前が挙がっているのは、竹本竜司西部方面総監だ。防衛大電気工学科出身で、湯浅氏の後輩にあたる。竹本氏については「技術畑のため、湯浅氏、戒田氏のようなパワハラ気質ではない」(陸自幹部)という。ただ、「戦略眼に乏しく物事の優先順位をつけられない」(防衛相幹部)ため、陸自トップとしてはふさわしくないとの評判が少なくない。

 そんな竹本氏だが、18年8月から19年8月まで東京・練馬駐屯地の第1師団長を務めた際の同師団創立57周年記念行事では、陸自の「体育会系」丸出しの入浴支援「練馬の湯」が話題となった。

 19年5月19日に練馬駐屯地で開催されたこの行事では、往年のお笑いグループ「ザ・ドリフターズ」の楽曲『いい湯だな』を大音量でかけ、トレーラーを使用した災害時の野外入浴セットを披露。トレーラーだけを公開するのであればなんの問題もないが、なんとトレーラーには「男湯」と「女湯」ののぼりが立てられ、半裸の男性自衛官とかつらをかぶり女装した男性自衛官が実際に入浴したのだ。そのときの様⼦が、情報提供者から入手した以下の写真である。

 いかにも「体育会系」の身内の祭りという感じだが、女性自衛官からはひんしゅくを買っていたという。この行事開催の背景について詳しい陸自幹部はこう明かす。

「この行事は『人を癒す、人を直す、力強い』という、いかにも男社会の自衛隊というコンセプトで開かれたものですが、当時の竹本団長の歓心を買いたいだけの後方支援部隊長が企画しました。練馬駐屯地は都内で防衛省のある市ヶ谷に近いこともあり、中央の有力者が集まっており、竹本氏も『面白い余興だ』くらいに思って許可したとのことです。

 ただ、常識的に考えてこういう宴会芸のような醜態を一般人も参加できる公開行事でさらすこと自体、時代遅れだといわざるを得ません。自衛隊は女性自衛官も熱心に募集していますが、これをみてセクハラと感じるという視点がまるでない。トレーラーで入浴していた男性自衛官は気にしていないのかもしれませんが、今後、無理矢理やらされる人が出ないとも限らず、闘う組織で働く自衛官の尊厳を失わせる行為だといえます」

「体育会系」では自衛隊は中国に負け、米国にも見放される

 筆者はこれまで、湯浅氏、「ハカイダー」こと元第一空挺団長で運用支援訓練部長の戒田重雄氏などのパワハラ幹部に共通するのは「体育会系の人間関係」だと書いてきた。特に防衛大学で培われた先輩後輩の上下関係があまりに人事上の評価に影響を与えており、一般大卒などが公正に評価されていない。米軍では、軍人養成学校卒、一般大卒、社会人の3つのグループが均等な数で入隊しており、常に外部からの知識や感覚を吸収できる構造になっている。それに、「パワハラ」「セクハラ」などしようものなら厳罰が下る。

 ハラスメントが横行すると士気にかかわるばかりか、部下が建設的な意見を言えなくなり、どんどん隊の質が下がっていくのはいうまでもない。「やればできる」の根性論が横行しているのも問題で、ドローンのような最新機器を積極的に導入しないアンテナの鈍さも論外だ。

 湯浅氏は部下の言うことに聞く耳を持たず、戒田氏のようなお気に入りを、たとえハラスメントの明らかな「前科」があったとしても重用し昇格させてきた。これでは優秀でまともな部下ほど心を病んだり除隊したりするのは当然だ。挙句、“気分”で最重要同盟国の⽶国との共同訓練に協⼒しなかったばかりか、閣議決定された輸送艦導入についてワガママで予算要求せず「文民統制」の大原則を犯す始末だ。

 近年、中国が東シナ海で現状変更の圧力をかけてくるなか、米軍との協力関係が今後より重要視される。⽇本式組織の悪弊である「体育会系」を少しでも是正できる人物こそが、次の陸自トップに求められる最低限の素質だろう。

(文=松岡久蔵/ジャーナリスト

松岡久蔵/ジャーナリスト

 記者クラブ問題や防衛、航空、自動車などを幅広くカバー。特技は相撲の猫じゃらし。現代ビジネスや⽂春オンライン、東洋経済オンラインなどにも寄稿している。
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Twitter:@kyuzo_matsuoka

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