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工藤会トップ裁判、直接証拠なき死刑求刑に無罪主張で全面対立…8月に注目の判決

文=編集部
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福岡地裁本庁(「Wikipedia」より)

 3月11日、日本唯一の特定危険指定暴力団・五代目工藤會のトップの野村悟総裁とナンバー2の田上文雄会長の公判が福岡地裁(足立勉裁判長)で開かれ、弁護側の最終弁論が行われた。検察側は1月14日の論告求刑公判で野村総裁に死刑、田上会長に無期懲役と罰金2000万円を求刑したが、弁護側は一貫して無罪を主張している。

 裁判は3月11日に結審し、判決は8月24日に言い渡される。指定暴力団トップに死刑が求刑されるのは史上初の事態だ。以前から工藤會関係者の冤罪事件などを取材し、四代目工藤會の溝下秀男総裁(故人)との共著もある、作家の宮崎学さんに聞いた。

「証拠のない裁判」にメディアも懐疑的?

 審理の対象となっているのは、元漁協組合長射殺(1998年)、福岡県警の元警部銃撃(2012年)、看護師襲撃(2013年)、歯科医師襲撃(2014年)の4つの事件で、元漁業組合長射殺事件は殺人罪、他の3件は組織犯罪処罰法違反の罪である。

 いずれの事件も野村総裁らの犯行を裏付ける直接的な証拠はなく、被告人と弁護側は「『推認』のみで証拠がない、でたらめな立証だ」と無罪を主張してきた。

 宮崎さんは、「この裁判は警察庁による『野村総裁の死刑ありき』で始められているので、間接証拠でもいいということでしょう。完全な出来レースですが、意外なことに、メディアはけっこうニュートラルに報道していますね」と分析する。

「直接的な証拠がないこととともに、今回の最終弁論の内容についてもわりと詳しく触れているんです。たとえば、3月12日付の西日本新聞は弁護側の主張を4つの事件についてそれぞれ紹介し、さらに弁護団の『証拠が全くない異様な裁判。これで有罪となれば司法の壊滅だ』とするコメントまで載せています。他に掲載するネタがなかったのかもしれませんが(笑)、これはおもしろいと思いました。

 他にも、複数のメディアが田上会長の法廷での『あまりにもひどい、ずさんな裁判だなと思っています』という言葉を取り上げています。特に毎日新聞は、田上会長の言葉として『裁判所にはまっすぐな目で、証拠に照らして的確な判断をお願いしたい』と載せています。以前なら、ここまで踏み込んで報じることはなかった気がしますね。

 それから、テレビ西日本はわざわざ『暴力団に詳しい』弁護士からコメントを取っているのに、『証言の積み重ねとか、そういう立証の難しさはあります』と言わせています。やっぱりプロから見ても難しいんじゃねえか、ということになるでしょう(笑)」(宮崎さん)

福岡県警本部長は工藤會壊滅に本腰

 一方で、警察庁はあくまでも強硬路線だ。

「2月の人事で福岡県警本部長に就任した野村護氏の前職は、警察庁組織犯罪対策部長です。就任会見で『社会全体で暴力団排除を促進させるよう、警察が前面にたって対策を講じ、暴力団の壊滅を目指す覚悟だ』『(工藤會の)壊滅に向けた対策の帰趨を決する重要な年だ』などと述べています」と宮崎さん。

「しかし、今回の裁判は弁護団の指摘通り、強引な印象は否めません。たとえば、審理されている元漁協組合長射殺事件をめぐっては、2002年に田上会長(当時は工藤會傘下・田中組若頭)ら4人が逮捕され、のちに田上会長は不起訴とされています。また4人のうち1人の組員は無罪判決が確定しています。

 このときの裁判は私も傍聴しましたが、捜査が杜撰すぎましたね。有罪率99%を超える日本の刑事裁判で現役の暴力団員が無罪判決となるのは珍しいと思いますが、実は工藤會の裁判ではけっこうあるんです。これは『ヤクザだから証拠なんかなくてもいい』というスタンスの警察の捜査に対して、弁護団は丁寧な弁論を組み立ててきたからだと思います」(同)

 そもそも捜査が強引であることは、メディアも気づいているはずだという。

「今はタブーのようになっていますが、射殺された元漁協組合長が元ヤクザだったことは、以前は報道されていました。また、2012年4月に銃撃された元警察官の事件についても、当初の報道はあまり問題視していなかったし、むしろ元警察官と工藤會との『ただならぬ関係』を指摘して、『自業自得』的な論調だった気がします。

 つまり、元警察官は工藤會関係者からカネを受け取って情報を漏洩していたのではないか、という疑惑です。こうした癒着は警察では珍しくはないのですが、福岡県警は特に多いですよね。この元警察官が銃撃された同じ2012年の7月には、現職の福岡県警警部補が工藤會関係者からカネを受け取って捜査情報を漏洩した疑いで逮捕されています。

 報道によれば、この警部補はパチンコなどで数千万円の借金があったそうですが、パチンコで数千万も負けるのはなかなか難しいですよ(笑)

 冗談はさておき、元警察官が銃撃され、被害者が工藤會関係者と親しかったという事態に警察庁幹部は激怒し、工藤會壊滅を強く進めることになったようです」(同)

 捜査関係者などの間では、「工藤會は(警官に銃口を向けるという)虎の尾を踏んでしまった」といわれているとも聞く。

「しかし、本当に田上会長が指示したのでしょうか。まず証拠はないし、公判でも会長は『元警察官を銃撃すれば警察が一丸となって工藤会をたたくことはわかる。私はそれほど愚かではない』と述べており、私も同感です。それでも犯人だと言いたいなら、裁判で説得力のある証拠を出すべきでした。裁判所は求刑通りの判決を言い渡すでしょうが、理由を考えるのに頭を抱えていると思いますよ」(同)

 検察側から説得力のある証拠は提出されないまま、8月の判決を待つことになった。裁判所は、どう判断するのか。

(文=編集部)

BusinessJournal編集部

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