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藤和彦「日本と世界の先を読む」

インド、最悪のコロナ感染爆発を生んだ「楽観論」と「ヒンズー教至上主義」

文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー
インド、最悪のコロナ感染爆発を生んだ「楽観論」と「ヒンズー教至上主義」の画像1
「Getty images」より

 「(新型コロナウイルスが猛威を振るうインドの状況は)悲痛の域を超えている」 

 世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は26日の記者会見で危機感を露わにし、「WHOはすべての手を尽くして、支援を急いでいる」と述べた。インドの1日当たりの新規感染者数は連日30万人を超え、世界最多となっており、コロナ感染の治療に使う医療用の酸素が不足するという異常事態となっている。モディ首相は25日「感染の『嵐』がインドを揺るがしている」と嘆いたが、「その責任はヒンズー教至上主義を掲げるモディ政権自身にある」との批判が高まっている。

 インドでは今年初めから「新型コロナウイルスを克服した」という楽観的な観測が広がったため、4月半ばに大規模な宗教行事が予定通り開催されたが、これが致命傷となった。その宗教行事とはヒンズー教の教えに基づく「クンブメーラ」である。12年に一度行われるインド最大の宗教行事であり、インド北部の聖地ハリドワールなどで12日から開催され、400万人以上の巡礼者が集まったといわれている。

「神聖な水(ガンジス川)で沐浴すれば神様は新型コロナから守ってくれる」と信じる巡礼者の多くは、マスクを着用せず、ソーシャルディスタンスも保っていなかった。だが、その願いが神に届くことはなかった。医療関係者が危惧していたとおり、新型コロナの感染爆発が起きたせいで、ヒンズー教の指導者らの反発を懸念して祭りの開催を中止できなかったモディ政権が窮地に追い込まれているのである。

 世界経済への影響も懸念され始めている。全米商工会議所幹部は26日、「インド経済が新型コロナウイルス感染急拡大で大不況に陥り、世界経済の下押し要因になる恐れがある」との見方を示した(4月26日付ロイター)。

 100年前にパンデミックを引き起こしたスペイン風邪(1918~1920年)により、世界全体で数千万人以上の犠牲者が出た。その半分はインドで発生したといわれているが、新型コロナでもインドは世界最大の犠牲を余儀なくされてしまうのだろうか。当時のインドは英国の植民地だったが、現在のインドは世界で重要な役割を担う大国の一つに数えられる存在になっている。

米国の態度を一変させた中国の動き

 中国の拡張主義を牽制するため、日本や米国、豪州はインドとともに「クアッド」を形成、今年3月に初めての首脳会議を遠隔で行った。中国などのワクチン外交に対抗するため、クアッドは「来年末までに10億回分以上のコロナワクチンを東南アジア地域に供給する」ことで合意したが、その中心的な役割を期待されていたのは世界のワクチン大国インドだった。しかし肝心のインドが新型コロナのパンデミックで大打撃を受け、国内で急増する感染者向けの供給で手一杯となってしまった。

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

1984年 通商産業省入省
1991年 ドイツ留学(JETRO研修生)
1996年 警察庁へ出向(岩手県警警務部長)
1998年 石油公団へ出向(備蓄計画課長、総務課長)
2003年 内閣官房へ出向(内閣情報調査室内閣参事官、内閣情報分析官)
2011年 公益財団法人世界平和研究所へ出向(主任研究員)
2016年 経済産業研究所上席研究員
2021年 現職
独立行政法人 経済産業研究所

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