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現役眼科医に聞くブルーライトカット眼鏡の“本当の有用性”…医療団体が抱く憂慮と危機感

文=編集部
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大手眼鏡量販店で大々的に販売されているブルーライトカット眼鏡。今回問題となっている「ブルーライト」の目への影響については、以前より医学界で多くの議論が交わされてきたのだという。(画像は東京都内のZoff店舗)

 4月14日に、日本眼科学会や日本眼科医会などの6団体が連名で発表した「小児のブルーライトカット眼鏡装用に対する慎重意見」という声明が話題を呼んだことは、先日当サイトでも報じた通りだ。

●ZoffとJINSに「ブルーライトカットは無意味?」聞いてみた…日本眼科学会の声明で

「眼病予防や眼精疲労を軽減できるアイテム」としてここ数年、パソコン仕事の多いビジネスパーソンに人気だったブルーライトカット眼鏡。近年は、スマホやパッドを長時間視聴することも多い現代っ子向けに、「小児用」の販売もさかんであった。

 ところが6団体連名での今回の声明では、デジタル端末から生じるブルーライトについて、網膜に障害を生じることのないレベルであることや、ブルーライトに眼精疲労を軽減する効果がまったくないという研究結果があることを説明。さらに、小児にとってブルーライトカット眼鏡の装用は、近視を進行させるリスクが高まり、ブルーライトそのものの害よりも近視リスクのほうが大きくなってしまう可能性があると警鐘を鳴らし、波紋を広げることとなったわけである。

Zoffは「ブルーライトカット眼鏡を過度に着用をすることが問題ではないか」とコメント

 上記の本サイト記事では、ブルーライトカット眼鏡を扱っている大手眼鏡量販店Zoff、JINSの2社にこの声明に対しての見解を聞いた。回答では両社ともに、留保つきながらも、小児用を含めたブルーライトカット眼鏡の販売自体は継続する意向を明かした。

 特にZoffを運営する株式会社インターメスティックは、「小児にとって【編注:ブルーライトが含まれる】太陽光が心身の発育に欠かせないものであるという研究結果は弊社も承知しておりました」としつつも、「今回のブルーライトカット眼鏡に関する発表は、小児に対して必要以上の状況においてブルーライトカットを推奨することに対する意見と認識しております」と回答。あくまでも、過度に着用をすることが問題ではないかとの見解を示した(同社は、Zoff公式サイト内で同様の見解を掲載)。

 では、果たしてこうしたコメントにある通り、ブルーライトカット眼鏡は「過度に使用しさえしなければ有用性はある」といえるのだろうか。これについて、「以前よりブルーライトカット眼鏡の効果については疑問を持ってた」と異を唱えるのは、埼玉県内で開業する50代の眼科医だ。

「ブルーライトカット眼鏡は、羞明、いわゆるまぶしさを軽減する効果こそあると考えられますが、そもそも網膜への保護効果はほぼないのではないでしょうか。また、小児に対しては必要のないものだと考えています」

 この眼科医はブルーライトカット眼鏡についてこのように懐疑的な見方を示したが、実際、今回問題となっている「ブルーライト」の目への影響については、以前より医学界で多くの議論が交わされてきたのだという。

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Zoffを展開する株式会社インターメスティックは、今回の報道を受けての声明を公式サイトで発表している。(画像はZoff公式サイトより)
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日本眼科学会などが連名で「小児のブルーライトカット眼鏡装用に対する慎重意見」との声明を発表。小児の装用は近視を進行させるリスクが高まり、ブルーライトそのものの害よりも近視リスクのほうが大きくなってしまう可能性があると警鐘を鳴らし、波紋を広げることとなった。(画像は日本弱視斜視学会公式サイトより)

「スマートフォンが発するブルーライトが失明させることはない」との米学会による声明

 ブルーライトが及ぼす目への影響については、世界的に知られる英学術誌「ネイチャー」を出版するネイチャー・リサーチ社によって展開されているオンライン学術誌「サイエンティフィック・リポーツ」に掲載された岐阜薬科大学(岐阜県)の研究グループによる論文が知られている。

 2014年6月に同誌に掲載されたこの論文は、マウスの視細胞に青、白、緑の3色のLEDを用いて光を照射したところ、ブルーライトを含む青と白のLEDを照射した視細胞には障害が起き、ブルーライトが含まれない緑のLEDでは障害が見られなかったという内容。

 また同誌は2018年7月にも、目の網膜に存在するレチナール物質が、ブルーライトが長時間照射されることによって毒性変化を起こし、光受容細胞を攻撃してしまうというトレド大学(米国オハイオ州)の研究グループによる論文を掲載。

 こうしたなかで、目に対するブルーライトのネガティブな影響が世界的に取り沙汰されることとなった。

 しかし、後者の論文が発表された翌月の2018年8月には、米国眼科学会(American Academy of Ophthalmology)が「No, Blue Light From Your Smartphone Is Not Blinding You」(いいえ、スマートフォンが発するブルーライトが失明させることはない)との声明を公開。

 このなかでは、トレド大学による上記論文の著者のひとりに、この研究はデジタル端末が発したブルーライトによって失明することがあることを示すのかを尋ねたところ、「あり得ない」との回答を得たことを紹介。そもそも論文内で示された現象は人体を含む自然界ではまず起こらないとし、ブルーライトが及ぼす影響について過剰に反応すべきではないと結論づけてみせたのだ。

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米国眼科学会が2018年8月に出した声明「No, Blue Light From Your Smartphone Is Not Blinding You」(画像は同学会公式サイトより)

日本眼科学会など6団体が今回の声明を出すに至った背景にある憂慮と危機感

 こうした経緯を見ても、医学界の見解としては、「PCなどから発せられるブルーライトや自然界におけるそれが、人間の目に大きな悪影響を及ぼすとはいえない」というのが大勢のようだ。

「日本眼科学会など眼科系の医療団体が今回のように6団体共同でこうした一般向けの声明を出すなどというのは、かなりレアなことです。それだけ、小児へのブルーライトカット眼鏡装用を推奨する流れについて危惧していたということでしょう。ブルーライトカット眼鏡は小児に対してはほとんど効果のないものであり、むしろ小児の視力発育に悪影響を及ぼす可能性さえある。にもかかわらず、小児に対して有用だともいう科学的根拠のない誤った見解が広まるのを防止したいという強い意志のあらわれと考えてよいでしょうね」(前出の眼科開業医)

 冒頭で述べた6団体共同の声明にもある通り、PCなどデジタル端末の画面から出るブルーライトは、自然光に含まれるブルーライトよりもはるかに少量なのだという。網膜に障害を与えることはまずないというそうした微量のブルーライトを過剰に恐れ、その対策として、特に小児へはリスクとさえなりかねないブルーライトカット眼鏡の装用が眼鏡量販店のプロモーションによって日本で一般化していくことに対し、眼科医療にかかわる各団体が大きな憂慮と危機感を以前より抱いていた、ということのようだ。

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日本近視学会の公式サイトには、「眼鏡による近視予防」について、あまり効果は期待できないことが記載されている。

ブルーライトカット眼鏡は、「ほぼ効果なし」と結論づけられた「近視抑制眼鏡」と同じ運命をたどるのか

 ちなみにこの眼科医によれば、眼科分野においては過去にも、今回のブルーライトカット眼鏡と同様、その効果について疑問のある商品が売り出されたことがあるという。

「以前、近視抑制効果があるという眼鏡が売り出されたことがありましたが、実際にはその効果は極めて限定的だということが医学的にはっきりし、結局は販売中止されていますね」(前出の眼科開業医)

 日本近視学会の公式サイトによれば、近視予防効果を期待された眼鏡として、「累進屈折力レンズ眼鏡」と「非球面レンズ」の 2種類を紹介。

 累進屈折力レンズ眼鏡とは一般的には老眼鏡として知られ、学童期の子どもにおいて近視を抑制する効果が認められはしたものの、その効果が極めて小さいために一般的には推奨されていないという。一方の非球面レンズを用いた眼鏡にいたっては、その効果を医学的に証明するような結果は得られなかったとされ、両眼鏡ともに近視抑制効果はほぼないと結論づけられているようだ。

 果たして、今回世間の注目を集めたブルーライトカット眼鏡は、この近視抑制眼鏡と同様いずれ消えゆく商品となるのか、あるいは一定の効果アリとして受容されていくのか。今後の行方を見守りたい。
(文=編集部)

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