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「1円」販売に苦言の楽天モバイル、自社はiPhone投げ売りの二枚舌のワケ

文=竹谷栄哉/フリージャーナリスト
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楽天グループの三木谷浩史社長(撮影=編集部)

 iPhoneの投げ売りが横行している。「一括1円」などと称し、新規回線契約や携帯電話番号はそのままで自社キャリアに乗り換えるMNP(携帯電話番号ポータビリティ)を条件として、端末を大幅に値引きする手法によるものだ。2019年に総務省が打ち出した「通信料金と端末料金の完全分離」規制が骨抜きにされるのを防ごうと、同省はNTTドコモなど大手キャリアにルール遵守を呼びかけているが、安売り合戦は激しさを増しているのが現状だ。

iPhone 13 miniなど最新機種を販売代理店が「一括1円」に、転売目的の購入相次ぐ

 都内の家電量販店などの携帯電話売り場をのぞくと、最新機種「iPhone 13 mini」「iPhone 12 mini」「iPhone SE」などが「一括1円」といった激安で販売されている光景はごく普通に見られる。アップルの公式サイトによると本体価格はそれぞれ64GBの容量で、13 miniが税込8万6800円、12 miniが6万9800円。これが1円になるとは驚きだが、iPhone以外のグーグル製の「Pixel 5a」などの機種でも正規価格から大幅に安くなる案内が出ている。

 タダ同然の価格で手に入れた最新機種を大量に仕入れ、転売する「転売ヤー」も出ている。フリマアプリ「メルカリ」などで、端末が正規価格から値引きした価格で販売されており、例えば13 miniを7万5000円で売れば、購入者は正規価格より1万円安く買える計算になり、販売者は7万5000円を丸々利益とすることができる。

 格安スマホ業者からなるMVNO委員会は、こうした転売行為は本当に欲しいユーザーの手に届かなくなる懸念がある上、反社会的勢力の資金源になり得ると指摘している。

総務省、19年の法改正で販売奨励金による回線契約増の商慣行に歯止め

 日本では最近まで携帯電話大手が販売店で自社回線の契約をした場合に高額な端末価格を「実質1円」「実質タダ」などとうたって大幅に下げる慣行が続いていた。これは携帯大手が販売代理店に端末の割引原資である販売奨励金を配って契約者数を増やし、契約後に入ってくる割高な通信料で奨励金を回収するモデルをとってきたためだ。

 このモデルはiPhoneなどハイエンド端末の普及に貢献した一方、一律に奨励金にかかったコストを割高な通信料の形で徴収され続けることにより、端末を⻑く使う顧客などが割を食う構造になっていると問題視されていた。また、奨励金のコストを負担できる大手キャリア3社の寡占状態を固定化し、国内携帯料金が高止まりする要因と批判されてきた。

 総務省はこれらの問題点を踏まえ、2019年の改正電気通信事業法で「通信料金と端末代金の完全分離」を打ち出し、2年をめどに根絶する方針を示した。具体的には、それまでの手法に制限をかけ、回線契約を条件に端末を購入する場合の値引き上限を税引き2万円とすることを決めた。

「1円」投げ売りが復活、規制の抜け穴つく携帯大手、販売代理店の狡猾さ

 総務省のこの規制強化により、20年くらいまでは「端末代金が高い」と消費者が買い控える動きが出ていたが、今になって「一括1円」などの投げ売りが復活したのは「抜け道」があったからにほかならない。

 今回の規制は、あくまで回線と端末をセットで販売する際の値引きを対象としたものであり、端末単体の販売は単なる物販となり範囲外となっている。携帯キャリア大手と販売店は、回線とのセット割引の上限2万円に加えて、回線契約条件なしの店舗の「独自割引」などを実施することで、「1円」という驚異的な値下げが実現したというわけだ。

「ただの物販なら独占禁止法上の『不当廉売』に該当しない限り、規制はかからない」(携帯大手関係者)

楽天が「一括1円」販売に苦言も、安く買いたいユーザー向けに楽天市場で端末投げ売り

 この状況を不利に考えた後発組の大手携帯キャリアの楽天モバイルは4月11日の総務省のワーキンググループで、「一括1円」の投げ売りに苦言を呈した。提出資料によると、ユーザーが新規電話番号で回線契約し、その直後に解約するケースでは、他社にMNPで転出する事例が多く、高額端末の値引き狙いが原因で値引き競争を誘引すると指摘している。値引き抑制をめぐる各社の取り組みが不十分な場合、新規の電話番号契約でMNPの受け付けを拒否できるような関連制度の改正の必要性も訴えた。

 ただ、かくいう楽天も3月、1人1台の購入との制限はあるものの、「楽天モバイル公式楽天市場店」でiPhoneシリーズについて、端末単体で2万円、回線との同時契約で2万円の計4万円の値引きを行っている。さらにiPhone 12に限ると、楽天モバイルショップでの受け取りでさらに2万5000円安の最大6万5000円引きのキャンペーンを実施するなど、投げ売りで対抗している点は否めない。ある携帯大手関係者は「菅義偉政権で大手キャリアが強制的にメインブランドの値下げをさせられ、手頃なサブブランドまで出てきた上、サービスがどこもほとんど変わらないとなれば、携帯端末の価格くらいでしか差別化できない」と話す。

 今回の「一括1円」投げ売りは、契約者数を増やしたい携帯キャリア、営業成績を上げたい店舗、安く最新端末を買いたい消費者の思惑が一致したところで発生したものであり、強い規制がない現状では止めようがないのが実態だ。

 菅政権により通信料金は安くなったのは消費者としては歓迎すべきことだが、端末投げ売り合戦のコストが通信料金の再値上げとして跳ね返ってこないとも限らない。MVNO委員会は転売業者を規制するため、「(iPhoneシリーズなどの)希少性の高い商品の購入は1人1個に制限すべきだ」と提言しているが、行きすぎた値引き競争が起きないように、そうした工夫や規制は必要だろう。

(文=竹谷栄哉/フリージャーナリスト)

竹谷栄哉/フリージャーナリスト

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