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著作権は市議会に属する?地方議会、傍聴人の録音・SNS投稿禁止ルールの法的問題

文=Business Journal編集部、協力=山岸純弁護士/山岸純法律事務所代表
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新藤加菜氏の公式Twitterアカウント

 元NHK党広報担当で“ゆづか姫”として知られる新藤加菜氏(29)がTwitterやInstagramなどのSNSに投稿した投稿した大阪府議会・本会議場での記念写真に端を発する騒動は、新藤氏が24日、自身の公式Twitterアカウント上で謝罪したことで終息を見た。

「大阪府議会の議場見学をした際、ルールを知らないまま撮影した写真をSNS投稿してしまい、関係各所にご迷惑・ご心配をおかけしてしまいました。とても反省しています。該当する画像・投稿は削除済みです。諸先輩方の指導を仰ぎ、再発防止に努めていきます」

 新藤氏は19日午前、Twitter上で「【お知らせ】新藤加菜は知事に就任しました なんちゃって」と投稿し、議会本会議場の“知事席に座っている”ポーズ写真を投稿した。同写真は大阪維新の会の野上らん市議が撮ったものという。

 新型コロナウイルス感染症対策として府議会の一般公開が中止されていることなどから、一連の投稿にSNS上で疑問の声が上がった。

 それをスポニチアネックス(スポーツニッポン新聞社)や読売新聞がそれぞれ『「ゆづか姫」の“知事席でポーズ写真”が波紋広げる…SNS投稿NG 吉村知事は騒動「初めて知った」』『「知事に就任、なんちゃって」と女性が知事席に座る写真投稿…維新府議が紹介し議場見学』などと報道し、騒動が拡大した。

無人の議場で撮影した写真をSNS上に投稿してはいけない?

 この騒動で、大手メディアは”2つの問題”をクローズアップした。ひとつは一般府民が見学できない時期に、なぜ新藤氏や維新の会の関係者が本会議場に入場し、写真撮影していたのか、という点。もうひとつは同議会が「SNSへの写真投稿は控えるよう要請している」のに、写真をSNSに投稿したことが“ルール違反だ”と指摘している点だ。

 一点目に関しては、「議員からの希望があれば入場、撮影は許可している」と報道されている。では、議場で撮影した写真をSNS上に投稿したことが最大の問題だったということなのか。

 議会開会中の本会議場や委員会室では、大手メディアに属する報道関係者を除いて、議員や一般傍聴人による議場での撮影や録音を、議会規則や条例などで禁止する地方議会は多い(後述)。しかし閉会中の無人の議会で撮影した画像をSNSに上げることは、どのようなルールに抵触するのか。

 議場は公共施設だ。一部の自治体の議会では、参加者が議場の首長や議長席に座ることができるような見学ツアーも組まれている。政治家や地方選挙の立候補予定者が、閉会中の議場で撮影を行い、自身の政治団体の広報誌などに写真を使うこともままあることだ。

 確かに政界を震撼させている“旧統一教会と政治家との癒着問題”でも、「有力政治家が教団の関連団体の会合などに出席すること」が「教団の信用と付与した」などと問題になっている。特定の団体や個人が、議会で撮影した写真を悪用する可能性もあるのかもしれない。

 大阪府議会事務局総務課の担当者は「(SNSへの画像アップについて)議会規則で明文化されたものではなく、あくまでお願いベースでお控えいただいているというものです」と説明する。「お控えいただいている」理由について「(“知事でない人物が知事に就任しました”といった)府民に誤解を招くような情報発信や、営利目的での利用が危惧されることなどがあります」と語った。

 コロナ禍による混乱が拡大している中、大阪維新の会と新藤氏の振る舞いが適切だったかのかどうか。今回の騒動は“議会規則違反”というより“道義的な問題”だったのだろう。

全国の地方議会で広がる“撮影・録音禁止”の謎ルール

 新藤氏の騒動は閉会中の本会議場での話題だったが、本会議中の議場での“一般人”の撮影、SNS上での発信についても、ここのところ論争がある。より多くの有権者の関心を集めることが求められている地方議会にとって、そこでの議員活動や審議内容をもっと広く世の中に知らしめていくことは重要なはずなのだが……。

 東京新聞が2019年4月に報じた『本会議、ネット配信しているのに…議場での撮影NO 1都6県31市区議会』では、記者が関東1都6県の県庁所在地、政令市、東京23区の計31市区議会にアンケートを実施。「全ての議会が本会議の映像を配信していたが、半数以上の議会が傍聴者に議会内での撮影や録音を認めていない。専門家から『開かれた議会』に合っていないとの指摘も出ている」(内容は19年4月時点)などと報じた。

 同記事によると、それぞれの議会規則の理由は「『議事運営に支障が生じる恐れがあるため』(北区)、『議会の申し合わせ』(中央区、文京区)など抽象的な説明が目立つ」という。こうした動きは首都圏に限ったことではない。

 撮影や録音の禁止以上に最近目立つのは、議会のネット中継に対する「著作権」の主張だ。例えば、大阪府堺市議会の公式サイトには以下のような注意書きがある。

「『堺市議会インターネット中継』に掲載されている個々の情報は(文字、写真、映像等)の著作権は堺市に帰属し、著作権法により保護されています」

 公開が原則の議会の審議内容を、自治体職員が撮影し自治体の公式サイトに公開している映像に「市議会や自治体の著作権」はあるのだろうか。また宮崎県延岡市議会の公式サイトには以下のような文言が記されていた。

「延岡市議会では、延岡市議会傍聴規則の規定により、議長の許可を得たもの(報道関係者)以外の議場内での写真、映画(動画)等の撮影や録音等を禁止しております。

 したがいまして、報道関係者以外の傍聴者の方につきましては、傍聴時の写真・動画等の撮影をお控えいただきますと共に、撮影した写真等をSNS、ホームページ等に掲載することも、行わないようお願いいたします。なお、すでにSNS等に当該写真等を掲載している場合は、削除していただきますようお願いいたします。

 また、ホームページ上で、延岡市議会として配信している本会議の映像及び音声の著作権は、延岡市議会に帰属しており、録画映像の画面あるいは内容・アドレス等を許可なく他のウェブサイトや著作物等へ転載することを禁止しておりますので、こちらにつきましても、ご理解・ご協力をお願いいたします」

 同市議会事務局の担当者は次のように語る。

「いろいろ考え方はあるとは思うのですが、議員が行った質疑に創造性があるもの、発想とか、アイデアとかそういったものは著作物になり得るという考え方があるのかな、というところです。また事務的なところではあるのですけれども、(撮影した際の)カメラワークやアングルとか、そういったところも表現と言えるのかな、と考えております。

 学説とかいろいろあると思います。当市が議会動画の配信を始めてまだ2~3年目ですので、今後も社会状勢を見ながら検討していきたいと考えています」

 山岸純法律事務所代表の山岸純弁護士は、地方議会が主張する動画配信などの著作権について、以下のように著作権法第40条を挙げた。

(政治上の演説等の利用)

第四十条 公開して行われた政治上の演説又は陳述及び裁判手続(行政庁の行う審判その他裁判に準ずる手続を含む。第四十二条第一項において同じ。)における公開の陳述は、同一の著作者のものを編集して利用する場合を除き、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。

2 国若しくは地方公共団体の機関、独立行政法人又は地方独立行政法人において行われた公開の演説又は陳述は、前項の規定によるものを除き、報道の目的上正当と認められる場合には、新聞紙若しくは雑誌に掲載し、又は放送し、有線放送し、地域限定特定入力型自動公衆送信を行い、若しくは放送同時配信等を行うことができる。

3 前項の規定により放送され、有線放送され、地域限定特定入力型自動公衆送信が行われ、又は放送同時配信等が行われる演説又は陳述は、受信装置を用いて公に伝達することができる。

 そのうえで、山岸氏は次のように述べる。

「基本として、議会の画像、映像、音声などの利用は、自由です」

(文=Business Journal編集部、協力=山岸純弁護士/山岸純法律事務所代表)

山岸純/山岸純法律事務所・弁護士

山岸純/山岸純法律事務所・弁護士

時事ネタや芸能ニュースを、法律という観点からわかりやすく解説することを目指し、日々研鑽を重ね、各種メディアで活躍している。芸能などのニュースに関して、テレビやラジオなど各種メディアに多数出演。また、企業向け労務問題、民泊ビジネス、PTA関連問題など、注目度の高いセミナーにて講師を務める。労務関連の書籍では、寄せられる質問に対する回答・解説を定期的に行っている。現在、神谷町にオフィスを構え、企業法務、交通事故問題、離婚、相続、刑事弁護など幅広い分野を扱い、特に訴訟等の紛争業務にて培った経験をさまざまな方面で活かしている。
山岸純法律事務所

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