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深野康彦「あなたと家族と日本のための、お金の話」

政府はNISA恒久化より、投資する資金がない中間層の所得増加策を優先すべきだ

文=深野康彦/ファイナンシャルリサーチ代表、ファイナンシャルプランナー
岸田文雄首相(首相官邸のHPより)
岸田文雄首相(首相官邸のHPより)

 岸田文雄首相が掲げる「資産所得倍増プラン」が動き出しています。金融庁は2023年度の税制改正に向け、NISA(少額投資非課税制度)を恒久化するように要望するようです。恒久化することにより、生涯どのタイミングでも非課税で投資ができる仕組みにして、国民が中・長期で柔軟に資産形成できるよう促す模様です。

 あわせて年間の非課税投資枠の上限の拡大も要望する予定です。現行の非課税投資枠はNISAが年120万円、つみたてNISAが年40万円で、両制度の併用はできず投資家がどちらかを選択する仕組みです。上限案ではNISAが年240万円、つみたてNISAを年60万円とし、両制度の併用を可能にして年300万円の非課税投資枠とするようです。

 金融庁はかなり大胆な要望を出したと思いますが、要望案がすべて通るかは年末に向けての税制改正の議論によって決定されます。筆者は財務省は金融庁の要望に満額回答は出さないのではないかと危惧しています。

 金融庁の要望を、株式や投資信託などを活用して資産形成を行っている人、証券業界(銀行を含む)は諸手を挙げて歓迎するのでしょうが、岸田首相が当初掲げた「分配重視」の御旗からはずいぶん離れてしまったように感じられます。「持つ者と持たざる者、収入が安定(高所得を含む)している者と不安定(低所得を含む)な者」の格差をより助長させるとしか思えないからです。資産所得倍増プランよりも、失われた中間層の収入を増やす政策を重点的に行うことがまず必要だと思います。

日本の賃金は低水準に甘んじている

 NISAは2014年、つみたてNISAは2018年からスタートしましたが、2022年3月末現在で口座開設数はNISAが1112万4332口座、つみたてNISAが586万9555口座の合計1699万3887口座です。口座開設数を多いと思うか少ないと思うかは人それぞれですが、筆者はかなり少ないと思っています。

 やや時期がずれますが、総務省統計局の人口推計によれば、NISA口座を開設できる20歳以上の人口は2022年8月1日の概算で1億473万人です。口座開設可能者数から見ると、実際の口座開設割合は2割にも満たず、16.22%しかありません。日本は資産形成を含む投資教育が不十分なため、「投資は怖い」「元本が保証されていない金融商品は忌避すべき」などと感じている人が多いのは仕方ありません。「これから投資教育を行っていけば大丈夫」というのが金融業界のスタンスかもしれませんが、一理あるものの、投資教育だけでは根本的な解決にはならないと思われます。

「先立つものがない」、つまり投資のような資産形成に振り向ける資金がないという人が多いことを見逃しているからです。やや強引ですが、国税庁が毎年公表している「民間給与実態統計調査」によれば、民間企業の平均給与額は2008年のリーマンショック前の水準を超えるのに11年かかり、また1997年の過去最高額467万円を四半世紀近くも更新していないのです。ちなみに2020年は433万円です。

 当時より相対的に給与が低い高齢者や女性の就業者が大幅に増えているので、単純には比較できませんが、諸外国の賃金上昇を見るにつけ、日本の賃金は低水準に甘んじていると思えてなりません。NISAの恒久化等の改正も必要ですが、中間層を分厚くするために勤労者の収入アップを先に行うとともに、永続化させるための施策を打たなければ、NISA口座の開設者数が大幅に増えることはないと思われます。

(文=深野康彦/ファイナンシャルリサーチ代表、ファイナンシャルプランナー)

深野康彦/ファイナンシャルリサーチ代表、ファイナンシャルプランナー

深野康彦/ファイナンシャルリサーチ代表、ファイナンシャルプランナー

AFP、1級ファイナンシャルプランニング技能士。クレジット会社勤務を3年間経て1989年4月に独立系FP会社に入社。1996年1月に独立し、現在、有限会社ファイナンシャルリサーチ代表。テレビ・ラジオ番組などの出演、各種セミナーなどを通じて、投資の啓蒙や家計管理の重要性を説いている。あらゆるマネー商品に精通し、わかりやすい解説に定評がある。

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