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藤和彦「日本と世界の先を読む」

なぜ今、未曾有の世界的金融危機への警戒上昇?各国の国債が一斉急落の理由は?

文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー
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FRBのHPより

 世界の株式や債券の価値が急減している。インフレの勢いが衰えず、米連邦準備制度理事会(FRB)をはじめ世界各国の中央銀行が一段と金融引き締めの姿勢を強めているからだ。2022年4~9月に合計44兆ドル(約6300兆円)消失し、半期ベースで過去最大となった。44兆ドルという数字は、世界のGDPの約半分に相当する(10月2日付日本経済新聞)。

 個別にみてみると、世界の株式時価総額は24兆ドル減少した。減少幅はリーマンショック後の2008年10月~2009年3月(11兆ドル減)を上回っている。世界の債券残高も20兆ドル減少した。ドイツ銀行は「世界の債券市場は第2次世界大戦直後の1946年以来76年ぶりの弱気相場だ」と指摘する。信用力の低い社債(ジャンク債)の利回りも急上昇しており、発行企業は借り換えができない状況になりつつある。ローン金利の急騰のせいで米国の住宅市場も急速に冷え込んでいる。今年の住宅価格は11年ぶりに下落する見通しだ(10月3日付日本経済新聞)。

 原油や金属などの国際商品の下落も鮮明になっている。総合的な値動きを示すリフィニテイブ・コアコモディティーCRB指数は、直近のピークだった6月上旬よりも2割安くなり、2月下旬にロシアがウクライナに進行する前の水準に戻っている(9月28日付日本経済新聞)。

 8月下旬に米国で開催されたジャクソンホール会議でのパウエルFRB議長の講演を機に、市場で膨らんでいた早期の利下げ期待が後退し、安全志向を強めた投資家が現金に逃避し、リスク資産が総崩れになった形だ。4~9月のリスク資産の損失があまりに大きかったために、欧州市場ではシステミックリスク発生につながりかねない事例も発生し始めている。

国債の利回りが急上昇

 世界の金融市場に暗雲が立ちこめている中で、筆者が注目しているのは世界各国の国債の利回りが急上昇していることだ。米バンク・オブ・アメリカ・グローバル・リサーチは9月末に公表した調査報告書で「今年の世界の国債からの流出額が1949年以来、73年ぶりの大きさになる」との見通しを明らかにした。1949年といえば、世界経済が第二次世界大戦からの復興の緒に付いたばかりの時期だ。世界の国債市場のパフォーマンスの悪化ぶりは注目に値する。

 世界経済が様変わりしていることが関係しているのではないだろうか。ウクライナ危機の長期化でグローバル化の反転の流れは明確になり、以前のような物価の安定が戻ることはなくなった感が強い。史上初の世界同時金融引き締め局面に入った現在、低金利で資金調達が可能だった環境は過去のものとなり、いわゆる「イージーマネー」の時代が幕を閉じつつある。スイス国立銀行が9月下旬に金利を引き上げた結果、大規模な金融緩和を維持しているのは日本銀行だけだ。

 世界の中央銀行はディスインフレの下で長年、低金利政策を維持し、結果的に過剰な借り入れを助長してきたとの指摘があるが、歴史的なインフレに直面した中央銀行は一斉に金融引き締めに舵を切らざるを得なくなっており、「史上最大規模のバブルが破裂するのは時間の問題ではないか」との不安が広がりつつある。

 そのためだろうか、世界中の債券の価格は急落しており、最も信用度が高い国債までも売られる状況になっている。冷戦崩壊以降、世界の金融市場は、西側諸国、特に米国政府が発行する国債が中心となって取引されてきた。取引される他の金融商品は国債との信用スプレッドを元に値決めされていた。だが、高インフレという未経験の状況に世界の投資家たちが動揺し、市場の基準ともいうべき国債の信用にまで疑義を持ち始めているのだ。

頼れないオイルマネー

 国債市場は以前も不調になりかけたが、これを救ってきたのはオイルマネーだった。景気拡大の恩恵を受けたオイルマネーは、米国をはじめ西側諸国の国債を積極的に購入した。ロシアのウクライナ侵攻に起因するエネルギー価格高騰のおかげで石油輸出国機構(OPEC)の今年の原油輸出収入は9070億ドルとなる見込みだ。2000年以降の年間平均5770億ドルを大きく上回るが、「以前のオイルマネーブームのように西側諸国の金融市場は恩恵を受けることはないのではないか」という気になる指摘がある。

 西側諸国がロシアの外貨準備(ドルとユーロなど)を凍結したからだ。「人権問題などで批判を受けやすいペルシャ湾岸諸国は将来、ロシアと同じように虎の子の金融資産が奪われてしまうことを恐れ、西側諸国への投資を控える」というのがその理由だが、足元の状況はこの指摘が正しかったことを証明しているのかもしれない。世界の国債市場の歴史的な不調を目の当たりにして、投資家心理は2008年の金融危機(リーマン・ショック)以来、最低の水準になったといわれている。投資家からは聞こえてくるのは「世界経済がリセッション入りするのは確実であり、問題がその深度だ」との嘆き節ばかりだ。

 世界の金融市場の基盤とも言える国債のバブルが崩壊するような事態になれば、世界規模で流動性ショックが起きるのは確実だ。未曾有の金融危機が襲来してしまうのではないだろうか。

(文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー)

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

1984年 通商産業省入省
1991年 ドイツ留学(JETRO研修生)
1996年 警察庁へ出向(岩手県警警務部長)
1998年 石油公団へ出向(備蓄計画課長、総務課長)
2003年 内閣官房へ出向(内閣情報調査室内閣参事官、内閣情報分析官)
2011年 公益財団法人世界平和研究所へ出向(主任研究員)
2016年 経済産業研究所上席研究員
2021年 現職
独立行政法人 経済産業研究所

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