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これも“ツタヤ図書館方式”?千葉・木更津でも官製談合疑惑…公募以前から癒着か

文=日向咲嗣/ジャーナリスト
これもツタヤ図書館方式?千葉・木更津でも官製談合疑惑
木更津市庁舎が入るスパークルシティ木更津(「Wikipedia」より)

 千葉県木更津市は昨年10月28日、市民交流プラザの基本設計・基本計画を担う事業者に、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が代表企業を務める共同事業体を選定したと発表した。

 全国でツタヤ図書館を運営する同社が、これから建設される公共施設の基本計画・基本設計を担当することになっただけで、運営者に決まったわけではない。ところが、ある出来事をきっかけに早くも「木更津に“ツタヤ図書館”ができる」との観測が流れ始めている。

 今回の選定に関して、すでに2年前からCCCに決まっていたことを示す決定的な証拠が出てきたからだ。市議会の特別委員会でも、選定プロセスに関する“爆弾質問”が飛び出した。もしそれらが事実ならば、官製談合として逮捕者が出かねない悪質な事案だ。

 木更津市で、いま何が起きているのか。「賑わい創出」「地方創生」の名の下に繰り広げられる官民癒着の実態をレポートする。

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 木更津市では昨年10月、市民交流プラザについて基本設計と基本計画を策定する事業者を募集した。同プラザは、4年後の完成をめざして整備が進められている新庁舎(複合施設)内に設置される施設だ。

 事の発端は、その一次審査を通過した事業者にのみ送られた、役所の担当部署から一通のメールだった。

“提案資格を有すると認め、本日、提案資格確認結果通知書を発送いたしました”

 そう書かれたメールには、「中活コーディネーター業務報告書」と題された交付資料が添付されていたのだ。

 どのような施設にしていくのかというプロポーザル(提案書)を作成するにあたっては、先行して行われている木更津市の市民交流スペースのあり方に関する調査報告を参考にしてほしい――。そんな主旨で、市から一次審査を通過した事業者に送られた参考資料だったが、その中身は実に衝撃的だった。

 この文書には、応募事業者がこれから作成しようとしているプロポーザルの“模範解答”とも思えるような内容が、詳細な調査データとともに要領よくまとめられていたからだ。

 そしてアンケート調査の末尾には、その後“最優秀提案者”として選定されることになる「カルチュア・コンビニエンス・クラブ」と実施機関名がクレジットされていた。

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 マラソンにたとえれば、一人だけ先にスタートして40キロ地点で待っているようなもの。結果は、レース前にすでに決まっていたのかと批判されて当然だろう。この事件の背景を取材していくと、不可解な事実が次々と浮かび上がってきた。

 そもそも、CCCが作成した「中活コーディネーター業務報告書」とは、いったいなんなのか。筆者は、出来レース疑惑が持ち上がった昨年10月末頃から、木更津市市民活動支援課に対して、疑惑の大元になったこの報告書を開示するよう求めていたが、同課では「一般公開を前提としていない文書である」ことを理由として、頑なに開示を拒んでいた。

 取材を進めていくと、この報告書にまとめられた調査をCCCに依頼していたのは、木更津市ではなく「一般社団法人まちづくり木更津」であることが判明。同団体は、木更津市の中心市街地活性化事業を担当する第三セクターである。

 担当者によれば「2020年の9月頃、新庁舎に市民交流プラザを設置する案が持ち上がってきたので、それについての市への提言として、CCCに調査を委託した。CCCとはそれまでも付き合いがあったので、その縁でお願いした」とのこと。

 しかし、CCCが作成した肝心の報告書の開示を同団体に求めると、こちらも拒否。その際、同報告書の作成にあたっては、国の特別交付税交付金の措置を受けて実施されたことを同団体が認めたため、「公金が投入された事業の報告書が開示されないのはおかしい」として改めて開示を求めるとともに、その特別交付税の措置をされた金額はいくらなのかを問い合わせた。だが、それについても「答えられない」の一点張り。

 そんななか、取材を始めてから1カ月半後の12月13日、それまで頑なに開示を拒んでいた市民活動支援課から突然「市民交流プラザの応募者に提供した資料をメールで開示します」と連絡があり、翌日3本に分割した、問題の資料が送られてきたのである。

 同じ日に、市議会の市庁舎整備特別委員会で、CCC選定プロセスについての厳しい質問があったことから、市としても、もうこれ以上隠しきれないと判断したのだろうか。

 下の画像は、その報告書の一部である。

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「中活コーディネーター業務報告書」より

 117ページにわたる報告書の結論部分には、「市民交流スペースに必要な機能・提供する価値」として「セレクトされた1万冊規模の学び図書」「美術館のような定期企画展」「学びのプロジェクト型イベント」という3つの要素が掲げられており、まるでツタヤ図書館を思わせるようなイメージが提示されていた。

 CCCが運営するツタヤ図書館は現在、全国に7館ある。図書の貸し出しはせず館内閲覧のみの“ツタヤ図書館もどき”=市民活動センターの2館(延岡エンクロス、丸亀マルタス)も含めた9館は、いずれもオシャレなスペースに同社経営のスターバックスと、書店または物販店が出店されている。館内では、イベントや市民活動も常時開催されている。

 そのイメージをそのまま踏襲するかのような調査報告書の内容は、木更津市の市民交流プラザの基本設計・基本計画の土台となるものといえる。つまり、募集時点ですでに木更津市に“ツタヤ図書館もどき”をつくるという基本計画の原案はできており、事業者もCCCに内定し、形式だけ公募にしたのではないのか――。そう思われても仕方ないほど、決定的な証拠が出てきた。

 下の表は、今回問題になった市民交流プラザのコンペ(基本計画・基本設計)に応募を検討している者からの質問に対する木更津市の回答一覧である。このなかで、ある事業者が「プロポーザル作成にあたって、計画施設(市民交流プラザ)の図面を提供してもらえないか」との問い合わせをした。これに対して、木更津市担当課は、「現在、庁舎整備事業者と協議を行っている段階ため」として、提供を拒否している。

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「(仮称)市民交流プラザ整備基本計画策定及び基本設計業務委託プロポーザル 質問及び回答」より

 ところが、CCCが木更津市に提出した応募プロポーザルには、図面がなければそこまで踏み込めないだろうと思われる配置図がいくつも描かれていることがわかった。

 筆者は、最優秀提案者の「提案書」(全14ページ)を独自に入手した。それをみると、2階と3階部分については「配置計画案の基本的な考え方」を詳細に解説したうえで、それぞれのフロアの具体的な「イメージレイアウト」と称した配置図が描かれていた。

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CCCのグループが木更津市に提出した提案書には、提供されていないはずの図面を基にしたとしか思えない、各階の“イメージレイアウト”が掲載されていた。

 木更津市から施設内の図面は一切提供されていないにもかかわらず、である。参考になりそうなのは、報道用に一般公開されている建物外観のパースのみ。ある建築関係者は、こう指摘する。

「(外観の)パースを見れば、奥がコア=EV(エレベーター)や設備バックヤードの可能性は高いですが、図面が提供されていない以上、そうと決められる根拠はどこにもありません。それなのに自信満々にこのような提案書を出してくるということは、CCCのグループだけは何か別の根拠があったと思わざるを得ません。そもそも、具体的な配置プランを競うプロポーザルではないはずなのに、CCCサイドがこれだけのページ数を配置計画に割いているのですから、他社とは差がついて当然でしょう」

 さらに、追い打ちをかけるような決定的な証拠まで出てきた。

 この募集に参加して、木更津市にプロポーザルを提出したのは、CCCが代表企業を務めるグループを含めて3者と発表されているが、事前の質問票で質問をしているのは、ほとんど一者であり、その一者は落選していたことが筆者の取材によって判明したのだ。

 募集要項の内容が複雑なため、真剣にプロポーザルを作成しようとすれば、どのグループも、木更津市の担当部署へ事前の質問による確認は欠かせないはずだ。それなのに、残り2者にはそれが必要なかったということか。それは、何を意味するのか。ある関係者は、こう指摘する。

「当選者がほとんど質疑していないのは、ありえないですね。残る1グループも当選者が用意したダミーかもしれません」

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事業者からの全11問の質問のうち、9問までが落選した一事業者によるものだった。残り2問は、いずれも個人事業主の場合の提案方法、提出書類についての質問だったため、構成員がすべて法人であるCCCのグループからの質問は1問もなかったことになる。

 昨年1月、富山市が整備を進めている、つり橋工事の設計業務をめぐる官製談合事件で、市の建設部長と業務を受託した企業の社員2名が逮捕された。この事件でも、市の職員がこれら企業の社員に受託できるように、市が求めるコンセプトなどを公表前に漏らしていたことが直接の逮捕原因となった。

 今回の木更津市の官製談合疑惑は、この富山市の事件の構造とそっくりだと指摘する声が早速あがっている。その一方で、ある図書館関係者は、こう指摘する。

「巨額の新庁舎整備のなかで起きた木更津市の市民交流プラザの件は、富山市の談合事件のような牧歌的な談合とは、その構造も規模も、まるで違うように思います」

 2013年4月に佐賀県武雄市でCCCが管理運営する初の“ツタヤ図書館”ができてから、もうすぐ10年になる。この間、同社が受託した7つの図書館と2つの市民交流センターにおいて、不祥事や疑惑事件が続発した。市場価値の低い古本選書、書店式独自分類、高層書架に飾ったダミー本、Tカード導入による個人情報不安などが取り沙汰され、昨年12月には館内で営業するスターバックスと蔦屋書店の賃料決定などに不正があるとして、和歌山市の市民団体が住民監査請求を提起したばかり。

 それでも同社を“優れた事業者”として選定する自治体が出てくるのは、なぜなのか。次回、官製談合の温床ともいわれる、木更津市による事業者の選定方式に詳しく迫っていきたい。
(文=日向咲嗣/ジャーナリスト)

日向咲嗣/ジャーナリスト

日向咲嗣/ジャーナリスト

1959年、愛媛県生まれ。大学卒業後、新聞社・編集プロダクションを経てフリーに。「転職」「独立」「失業」問題など職業生活全般をテーマに著作多数。2015年から図書館の民間委託問題についてのレポートを始め、その詳細な取材ブロセスはブログ『ほぼ月刊ツタヤ図書館』でも随時発表している。2018年「貧困ジャーナリズム賞」受賞。

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