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中国への対決姿勢を強める米国

文=中島精也/福井県立大学客員教授
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米国ホワイトハウスのHPより

 米国のバイデン大統領は2021年の就任以来、「世界は民主主義と専制主義の闘いに直面している」と繰り返し述べてきたが、2022年10月に発表された「国家安全保障戦略」では「中国は国際秩序を変更する意図を持ち、かつ実行する経済、外交、軍事、技術パワーを有する唯一の米国の競争相手である」との認識を示している。

 そのうえで中国は海洋進出を強めてインド太平洋地域での影響力を拡げているが、それに止まらず世界覇権の野望をもっており、世界のルールを中国に都合の良いものに書き換えようとしている、「一帯一路」は中国マネーを使って途上国を支配するプログラムであり、中国軍の軍備増強と近代化を通じて、米国の軍事同盟を破壊する意図を持っていると非難している。

 そして、専制国家中国に対抗して米国は自由、オープン、繁栄、安全な世界を守るため、(1)米国のパワーの源である国内資源や技術に投資する、(2)グローバル戦略を構築し、共有する問題解決のために、できる限り多くの国と緊密に連携する、(3)戦略的競争の時代に備えて米軍の近代化と増強を行うと表明している。

 本来、米国では民間活力や市場を重視する傾向が強いが、今や世界は大きな転換点を迎えており、急速な技術進歩、グローバル・サプライチェーンの寸断、市場原理を無視して暴走する中国、気候変動危機などの問題には民間と市場の力だけでは対応できず、政府が公共投資を使って強い産業とイノベーションの基盤を築き、競争力を押し上げることが不可欠だと考えている。この「産業政策」重視の方針で高度なサイバーセキュリティで重要インフラを守り、技術流出を防いでサプライチェーンを守り、政府調達の活用でイノベーション需要を刺激する戦略である。

 特に米国の競争力と安全保障にとって半導体サプライチェーンが極めて重要であるとの考えから2022年8月に成立した「CHIPS及び科学法」は2800億ドルの規模で半導体、先端コンピュータ、次世代通信、クリーンエネルギー技術、バイオテクノロジーなど重要分野でのR&D投資に対して資金援助や税額控除を与える意欲的な試みである。

 安全保障に関しては自由、民主的な国家との連携が戦略の核心であるが、ルールに基づく国際秩序を支持する国であれば、民主、人権で立場を異にしていても、できる限り行動を共にする「包括的連携」を進める方針である。同盟国との共同防衛に関しては、NATO、AUKUS(米英豪安全保障協力)、QUAD(日米豪印戦略対話)を軸に防衛、技術、テロ対策、サイバー防衛でも実践的な協力を推進することで合意している。更に米欧同盟とインド太平洋同盟の統合を念頭に、協力関係強化を推進するとしている。

 米国の軍事力についてはウクライナ戦争でも認知されたようにドローンの使用、情報通信技術等の進展により戦争の様式が大きく変化しており、戦争の進化に対応すべく、サイバーテクノロジー、宇宙開発、ミサイル、AI、量子コンピュータ分野への投資を積極化させることを打ち出している。もちろん、米国は核抑止力を軍事的最優先事項と位置づけており、核大国の中国やロシアが核兵器の近代化、通常核と地域戦略核など核戦力部隊編成の多様化を進めていることに対抗して、核インフラの近代化と共に、command(指令)、control(制御)、communication (情報伝達)など核の3Cの精緻化を進める方針である。このように米国があらゆるリソースを使って中国の覇権阻止に動いていることから、総書記3期続投を決め、国内的には一強体制を確立した習近平だが、その前途は極めて多難と言わざるを得ない。

(文=中島精也/福井県立大学客員教授)

中島精也/福井県立大学客員教授

中島精也/福井県立大学客員教授

1947年生まれ。横浜国立大学経済学部卒。ドイツifo経済研究所客員研究員(ミュンヘン駐在)、九州大学大学院非常勤講師、伊藤忠商事チーフエコノミストを経て現職。丹羽連絡事務所チーフエコノミストを兼務。著書に『傍若無人なアメリカ経済─アメリカの中央銀行・FRBの正体』(角川新書)、『グローバルエコノミーの潮流』(シグマベイスキャピタル)、『アジア通貨危機の経済学』(編著、東洋経済新報社)、『新冷戦の勝者になるのは日本』(講談社+α新書)等がある。日経産業新聞コラム「眼光紙背」と外国為替貿易研究会「国際金融」に定期寄稿。

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