2024年1月26日に公開されるヒーロー映画『唐獅子仮面/LION-GIRL』。『デビルマン』や『マジンガーZ』で知られる巨匠・永井豪が書き下ろしたオリジナルのキャラクターデザインを、『KARATE KILL/カラテ・キル』などを手がけた光武蔵人監督が実写化。公開直前にして、永井は令和6年能登半島地震で被災し、自身の記念館が焼失する被害に遭った。激動の最中で、メガホンを撮った光武が映画や永井への想いを語った。
ーー『唐獅子仮面/LION-GIRL』は、永井豪原案のオリジナルのキャラクターデザインを実写化した作品です。どういう経緯で永井さんとコラボすることになったのでしょうか?
もともと東映ビデオのプロデューサーから、「一緒に作品を撮りましょう」とオファーを頂いており、いくつか企画を出していました。そこで私が永井先生の大ファンだと公言したところ、東映ビデオも永井先生と懇意にしていると聞き、それなら永井先生の原作から実写化をしようという運びになりました。
最初は『デビルマン』や『キューティーハニー』などの案を出していたのですが、原作に忠実なヌードやバイオレンスを再現するのが難しいなどという理由から、実写化に難航していたんです。
その時に手を差し伸べてくれたのが永井先生でした。逆提案という形で、わざわざ映画化のために唐獅子仮面を書き下ろしてくれたんです。唐獅子仮面は悩殺美女系のヒーローで、コスチュームは露出度が高く、顔の部分にはマジンガーZを彷彿とさせるようなデザインで、いかにも永井先生らしいキャラクターなんです。最初に見た時は、デザインにサインまで付いていて、1ファンとしてとても感無量でしたね。
企画段階では、先生の名作をリメイクしたいという気持ちもありましたが、ここまで永井先生に動いて頂いたことに感動しました。東映ビデオさんも「ぜひ実写化しましょう!」と躍起になって、映像化が実現しました。
ーーキャラクターの設定はどのように固めていきましたか?
永井先生からは、強くセクシーな女性を描きたいということで、“現代を生きる任侠ヤクザの末裔”という設定や、“サウナに入ると変身する”というコンセプト提示されました。そこから「サウナに入ると入れ墨が浮かび上がるのはどうか?」などと提案し、ディテールを詰めていきました。
ーー作品のコンセプトや世界観なども、2人で擦り合わせていったのでしょうか?
まず大前提として、永井先生原案の作品であることが伝わるよう、世界観は永井先生の『バイオレンスジャック』を踏襲しました。同作品は、巨大地震によって無法地帯と化した関東に、暴力によって支配しようとする悪者が現れて社会が混沌とするなか、正義感のある主人公が闘っていく物語です。
『唐獅子仮面』でも、舞台はあらゆる生物や文明が絶滅した後の地球で世紀末です。生き残ったファシストが暴政し、さらに必ず死に至る疫病も流行している。そうしたカオスな世界で、唐獅子仮面が世の中の治安を守っていく勧善懲悪なストーリーを描きました。
女主人公はヤクザという設定ですが、もともとヤクザの起源は、政府が機能しておらず、田舎まで警察機構がなかった時代に、村や町を守るための自警団だったという説もあります。そうした“強気をくじき弱きを助ける”という任侠イズムも、唐獅子仮面のキャラクター性に合致してました。
それに永井先生の漫画では、よく反政府がモチーフに使われるんです。権力を握ってる政府はろくでもないやつで、役人に虐げられてる人民がいて、その状況をヒーローが救うという展開は、まさに永井先生イズム。永井先生に世界観を共有したときも一発でオッケーをもらい、打ち合わせはスムーズに進んでいきました。
ーー作品の輪郭はスムーズに決まったということですが、撮影は順調でしたか?
それがまったく順調ではなく……。実は作品の打ち合わせ時期はコロナ前で、ようやく物語を書き始めようとしていた時期にコロナ禍に突入するんです。
私はロサンゼルス在住なのですが、当時現地では日没以降は外出禁止となり、そのうえトランプ政権が滅茶苦茶だったんです。リアルに終末感のある世の中が訪れてしまったので、フィクションで混沌とした世界を描いていた自分としては参ってしまった。作品のパンチが薄れたり、過激な描写を入れると不謹慎だと思われたりと、なにかと窮屈でクリエーションできなくなってしまったんです。
ーーコロナ禍で進行が止まったわけですが、そこからどのように物語を完成させていくのでしょうか?
もう割り切って、コロナに対する鬱屈や、トランプに対するヘイトをぶつけようと考えました。ある意味で永井先生の描いてきた作品の世界と、コロナが到来した世の中を重ねながら制作していきました。そういう意味では、『唐獅子仮面』はフィクションだけど私信が強く反映されています。
私自身、映画に携わる人間として、人との直接的なコミュニケーションがないと仕事が成立しないわけです。対面で話せる世の中が戻って来ないという不安と、フィクションがうまく思いつかないジレンマで、コロナ禍は鬱っぽくなるほど追い込まれてしまった。
その時に救いになったのが、『唐獅子仮面』を制作している時間でした。自分が好きな漫画家を実写化できるという喜びで、私もなんとかコロナを乗り越えられたんです。ストーリーとしては勧善懲悪で、エログロやバイオレンスなシーンも多い一作ですが、そうした自分の熱量も伝わっていればいいなと思います。コロナは収まっていますが、まだまだ物価高など世知辛い世の中は続いているので、この映画を観て鬱屈を吹き飛ばして欲しいですね。
ーー作中ではエログロな描写もあったり、スプラッターな描写もあるヒーローもので、ジャンルレスな作品の印象を受けます。
セクシーな女主人公が、バイオレンスアクションを展開するヒーロー設定でありながら、海外の人にも伝わるようアレンジする必要もありました。そうした意味ではかなりジャンルの垣根を超えた作品になっています。そのぶん観客が混乱しないよう、物語の展開はシンプルにしようと意識しました。「唐獅子仮面の正義感」と「悪役の憎たらしさ」を対比をわかりやすくすることで、過激な描写を詰め込んでも混乱しないようになっているかと思います。
印象としては過激な作品に映るかと思いますが、よく観ると家族再生の物語であったり、1人の女性ヒーロー独り立ちする話であったりと、感動できると自負しています。まあ映画自体はR-15指定なので、好き嫌いがわかれるとは思いますが(笑)
ーー撮影は全編アメリカで行ったと聞いています。あくまでも日本の物語ですが、ディテールやリアル感を演出するために意識されたことはありますか?
私がロサンゼルス在住ということもあり、アメリカで撮影するのは決まっていました。設定自体は日本の物語ですが、あくまでフィクションなのでそこは割り切って撮影しましたし、アメリカだからこそ臨場感を出せるポイントもありました。
例えば、ロケ地のロサンゼルスの郊外はあたり一帯が砂漠なので、人類や生物が滅亡した後の舞台設定にはぴったりだったんです。あとはアメリカだからこそ実銃を使えるんです。実際に、現地の映画の小道具を扱うショップでは実銃が借りられ、そこで44マグナムやコルトガバメントモデルの実銃を借りて撮影しました。
ーーかなりリアリティーやスケールも感じられる作品になっていそうですね。
やはり永井先生の醍醐味は、女性キャラクターのヌードであったり、エログロで残酷な描写に宿っているので、そこを忠実に再現できていたらいいですね。
これまでも永井先生の作品は数多く映像化されていますが、個人的に牙が抜かれたものが多いなという印象です。制作会社が大きくなればなるほどコンプラや制約も厳しくなりますし、マーベルのような人気作品に物足りなさを感じてる人にハマって欲しいですね。
ーーありがとうございます。最後に永井先生への想いもお願いします。
先生の1ファンである私が、先生の原作から実写化する企画を出したら、逆に先生がオリジナルキャラクターを描いてくれたという夢のような展開でした。もし『唐獅子仮面』が実現しなかったら、コロナ禍でメンタルがやられていた自分はどうかしていたと思います。
そういう意味では、『唐獅子仮面』は先生に宛てたラブレターのようなものです。いま永井先生は能登半島の地震で、自身の記念館が焼失するという大変な状況に置かれているので、この映画でつらい現実を忘れてくれればと思いますし、この作品で恩返しができたら嬉しいですね。
(構成=佐藤隼秀)