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グーグル、地熱発電に巨額投資の真の狙い…再エネの死角「24時間・脱炭素」

2025.12.08 2025.12.08 00:11 経済

グーグル、地熱発電に巨額投資の真の狙い…再エネの死角「24時間・脱炭素」の画像1

●この記事のポイント
・グーグルが世界初の次世代地熱「EGS」で電力調達を開始。再エネの弱点である夜間・無風時を補う“24時間脱炭素”戦略の核心を解説する。
・米国は地熱革命を国家戦略として後押しし、2035年までにコスト90%削減を目指す。地熱は“シェール革命の再来”として急拡大が進む。
・日本は地熱タービン世界シェア7割の技術力を持ち、EGS普及で巨大市場の主役となる可能性が高い。“日本の逆転技術”となり得る分野である。

 世界の脱炭素競争は、いま第二幕に突入している。太陽光と風力の普及で“再エネの量”は増えたものの、「天気に左右される」という根本的な弱点は依然として解消されていない。

 こうした中、世界のエネルギー関係者を驚かせる動きが米国で起きた。グーグルがネバダ州で、世界初となる「EGS(地熱増産システム)」による電力供給を開始し、地熱開発ベンチャーへの投資を急加速させているのだ。

 すでにグーグルは2017年時点で、世界中のオフィス・データセンター消費電力を“年間総量では”すべて再エネで賄っている。しかし同社が掲げる新たな目標はもっと野心的だ。

「24/7 Carbon-Free Energy」――1時間単位で、完全にカーボンフリーな電力だけで事業を動かす。

 太陽は夜に沈み、風は止まる。だがデータセンターは24時間365日動く。この「再エネの死角」を埋めるために、グーグルが選んだ答えが次世代地熱だった。

●目次

「再エネ100%」は幻? グーグルが抱える“夜の問題”

 2017年、グーグルは世界最大級の再エネ買い手として、「再エネ100%達成」を宣言した。しかしこれはあくまで年間ベースの買い取り量であり、その瞬間瞬間の電力をすべて再エネでまかなっているわけではない。

 エネルギー政策の専門家である佐伯俊也氏は言う。

「太陽光・風力は“安いが不安定”。現在の再エネ100%は“会計上の達成”です。真にゼロカーボンに近づくには、24時間安定して供給できるクリーン電源が欠かせません」

 たとえば夜間、太陽光の発電量はゼロになる。風が弱い日や無風状態では風力も極端に低下する。結局、サーバーを止められないデータセンターは、化石燃料由来の電力を系統から買わざるを得ない。

 そのためグーグルは “第二段階の脱炭素”として「24時間・完全脱炭素」を掲げ、不安定な再エネを補完するベースロード電源の脱炭素化を強く求めるようになった。

 では、原子力ではなく、なぜ地熱なのか。佐伯氏は続ける。

「地熱は、世界でも数少ない“天候に左右されない再エネ”です。火力並みに安定し、原子力のような長期の政治リスクも小さい。データセンターの足元に欲しい電源だといえます」

「EGS」が起こす地熱革命 —— 人工的に“蒸気を作る”

 今回、グーグルが採用したのは、従来とはまったく異なる地熱発電だ。

 従来の地熱は、「高温の蒸気や温水が天然に存在する場所」に井戸を掘って発電するため、適地は限られていた。日本では温泉地や国立公園が多く、規制や調整がハードルとなっていた。

 しかし、EGS(Enhanced Geothermal Systems=地熱増産システム)は違う。

▼EGSの仕組み

 1.地下深くにある“高温の岩盤”を探す
 2.水を高圧で注入し、人工的に微細な亀裂(水路)をつくる
 3.その亀裂を通った水が熱せられ、蒸気や高温水として戻ってくる
 4.それを地上で蒸気タービンに通して発電する

 つまり、「熱い岩」さえあればどこでも地熱発電所がつくれる。これまでの「地熱=場所が限られる」という常識を完全に覆す技術だ。

「EGSは“地熱の民主化”です。従来のボトルネックだった『適地探し』が不要になり、世界のどこでも地熱開発が可能になります」(同)

 このEGSで注目されるのが、米スタートアップFervo Energy(ファーボ・エナジー)だ。同社はシェール革命で培われた水平掘削技術と光ファイバー温度計測を地熱に応用し、世界で初めて商用プラントを稼働させた。

 ネバダ州のパイロットプラント「Project Red」は3.5MW規模ながら、すでに送電網に電力供給を開始。さらにユタ州では400MWの巨大プロジェクトが進行中だ。

 グーグルが支援する理由は明確だ。風も太陽も要らない、24時間安定した電源を手にできるからだ。

政府も本気…米DOEが掲げる「コスト90%削減」計画

 地熱革命の追い風となっているのが、米国政府の強力な支援だ。これはバイデン政権だけでなく、トランプ政権時代から続く超党派的な国家戦略である。

 米国エネルギー省(DOE)は「Enhanced Geothermal Shot」を掲げ、2035年までに次世代地熱のコストを90%削減し、1kWhあたり4.5セント(約7円)にまで引き下げる目標を定めた。

 これは太陽光発電とほぼ同レベルであり、実現すれば「最も安くて最も安定したクリーン電源」が誕生することになる。

「米国は“シェール革命の再来”を地熱で起こそうとしています。それがEGSとクローズドループ技術です。特にグーグルやマイクロソフトのようなビッグテックの需要が、地熱市場を一気に押し上げている」(同)

 米国は2050年までに60GW──原発30基分の電力を地熱で賄う計画を掲げる。その実現に向け、民間と政府が一体で動いている。

“地熱大国”日本に訪れる千載一遇のチャンス

 世界が地熱に向かう今、最も恩恵を受ける可能性を持つ国の一つが日本だ。

 日本の地熱資源量は世界3位。しかし開発は長年停滞しており、国内の地熱発電容量は2GWにも満たない。理由は明確で、従来型が「国立公園内・温泉地に偏っていた」ためだ。

 だが、EGSとクローズドループなら状況は一変する。

▼クローズドループとは?
 ・地下に“閉じた水循環ループ”を造り、地熱脈を刺激しない
 ・温泉資源や自然環境への影響がほぼゼロ
 ・国立公園外や山間部でも設置可能

 日本政府も2020年代から明確に舵を切り、JOGMECが中心となり118地域で7.7GWの地熱開発計画を進めている。これは原発7〜8基分の電力に相当する。

「これまでの“地熱ができない日本”は、技術ではなく場所の問題でした。EGSなら国立公園外でも開発でき、日本の潜在力は一気に解放されます」(同)

世界シェア7割…日本企業が握る「地熱タービンの心臓部」

 もう一つの大きな強みは、日本の“モノづくり”だ。

 東芝、三菱重工、富士電機——この3社で地熱タービンの世界シェア7割を握る。これは太陽光パネルや風力タービンのように中国への依存が高い他の再エネとは決定的に異なる。地熱分野において、日本は世界を支える“心臓部サプライヤー”なのだ。

「地熱タービンは非常に特殊で、高温高圧の蒸気を長期間安定して制御する高度な設計技術が必要です。日本企業は“壊れないタービン”を提供できる点で世界から信頼されています」(同)

 三菱重工はイタリアのターボデン社を傘下に持ち、中低温域の「バイナリー発電」に強い。さらに、カナダのEavor Technologies(クローズドループ技術の旗手)にも出資し、次世代地熱の波に備えている。東芝はAI・IoTを用いた保守サービス、富士電機はケニアやニュージーランドなど新興地熱市場で実績豊富だ。

 つまり、日本は「技術 × 部材供給」の両面で世界の地熱戦略の中心にいる。

「EGSが普及すれば、タービン需要は10年以上続く大型市場になります。“第二の地熱バブル”と言っていい規模です」(同)

グーグルが切り開く未来と、日本がとるべき戦略

 グーグルの「24時間脱炭素」ロードマップは、単なる企業のイメージ戦略ではない。今後のデジタル社会のインフラに直結する“ゲームチェンジ”だ。

 AI、クラウド、動画配信、自動運転──これらを支えるデータセンターの電力は年々増加している。電力の安定供給は、技術の問題ではなく国の競争力の問題となりつつある。

 日本はこれまで、太陽光・風力の部材調達で中国依存が強かったが、地熱においては世界トップ級の技術を持ち、しかも資源も国内に眠っている。これは極めて珍しい構図だ。

 佐伯氏は強調する。

「“エネルギーを輸入する国”から“足元の地熱を使う国”へ。これは日本にとって現実的で、なおかつ最も有望な脱炭素戦略です」

 日本はこれまで「地熱の潜在力はあるが開発できない国」だった。しかしEGS・クローズドループという新技術は、その制約を根本から解決しつつある。そしてグーグルなどの巨大テック企業が需要をつくり、米政府が巨額投資で市場を押し上げる。この波は必ず日本にも押し寄せる。

 いまこそ、地熱開発の加速と、日本企業のタービン・関連技術の強化を進める絶好のタイミングだ。

 太陽光や風力の急拡大で、再エネ市場は成熟しつつある。その中で地熱は“最後の大型フロンティア”だ。

 天候に左右されず、24時間稼働し、燃料不要で、CO2ゼロ。しかも日本は資源も技術も持つ。これほど“日本に向いたエネルギー”は他にない。グーグルの地熱投資は、世界の再エネの未来だけでなく、日本の逆転のチャンスをも照らし出している。

 次世代地熱は、日本のエネルギー戦略における「最後の切り札」になり得る。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)