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クボタ、米国で「大気から飲料水」実証の理由…住宅開発を阻む”水の壁”を崩す新戦略

2026.07.31 05:55 2026.07.30 23:43 企業
文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=佐伯俊也/エネルギー政策研究家

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●この記事のポイント
農機大手クボタが米AirJoule社と提携し、大気中の水分から飲料水を作る「大気造水装置」の実証をカリフォルニア州・テキサス州で開始。深刻な水不足で住宅開発許可が下りない米国市場を狙い、2030年頃の商用化と分散型水循環インフラの構築を目指す事業戦略を解説。

「空気中の水分から飲料水をつくる」——SF映画のような技術の実証実験を、農機大手のクボタが2026年8月からアメリカで始める。

 クボタは7月22日、大気中の水分から飲料水を製造する「大気造水装置」の実証試験を、水不足が深刻なカリフォルニア州とテキサス州で開始すると発表した。相手は、大気造水技術を開発する米ベンチャーのAirJoule Technologies Corporation(ナスダック上場、以下AirJoule社)。両社は同時に、集合住宅向けの独占販売契約も締結したことを明らかにしている。

 背景にあるのは、気候変動による水資源の逼迫と、それに伴う開発規制の強化だ。アメリカでは近年、「水源の長期的な確保を証明できなければ、住宅開発の許可が下りない」という規制が広がっており、水不足が住宅供給や地域経済の足かせになりつつある。老朽化した水道インフラの更新も追いつかない中、「水道管を引かずに水を確保する」分散型インフラは、不動産開発業者や自治体にとって切実な解決策になりうる。

「農機・建機のクボタ」が、なぜいまアメリカの水危機に本気で乗り出すのか。そこには、単発の技術デモにとどまらない、グローバルな水インフラ市場での地位確立を狙った事業戦略が見え隠れする。

●目次

アメリカを襲う「水ショック」…住宅が建てられない現実

 アメリカ西部・南西部を中心に、慢性的な水不足が深刻化している。地下水の枯渇や水質汚染に人口増加が重なり、新興住宅地ほど水資源の制約に直面しやすい状況にある。

 象徴的なのが、カリフォルニア州などで導入されている水供給の長期見通しに関する規制だ。同州では、一定規模以上の住宅開発を計画する事業者に対し、今後20年間にわたる水供給の安全性を示すことを義務付けており、この要件を満たせないことが新規開発の大きな制約になってきたと、AirJoule社とクボタは共同発表の中で説明している。実際、ペンシルベニア州立大学の研究者らが2010年から2018年にかけての州内の水関連建築モラトリアム(開発凍結措置)を分析した学術研究では、水不足を理由とした建築制限が新規住宅供給を有意に押し下げており、その効果は発動から数年を経てより顕著になることが示されている。

 一方で、老朽化した上下水道インフラの更新にも巨額の投資と長い年月がかかる。広域をカバーする浄水場や下水処理場、長距離の管路網からなる従来型の水インフラは、新設・延伸のハードルが高く、急増する住宅需要に追いつきにくい構造的な課題を抱えている。「水がないから家が建てられない、企業も進出できない」という事態は、一部の乾燥地域に限った話ではなくなりつつある。

クボタの決断…「空気から水を作る」実証実験の中身

 クボタが手を組んだAirJoule社は、金属有機構造体(MOF)と呼ばれる多孔質材料を使い、大気中の水分を吸着・脱離させて飲料水に変える「大気造水技術」を開発してきた企業だ。この技術のもとになった研究で、開発者の一人であるオマー・ヤギ氏らは2025年のノーベル化学賞を受賞しており、基礎科学としての信頼性も裏付けられている。AirJoule社はGEベルノバとの合弁事業を通じて技術の実用化を進めており、米国防高等研究計画局(DARPA)の実証プログラムにも採用された経緯がある。

 今回の実証では、クボタとAirJoule社がカリフォルニア州とテキサス州で装置を設置し、実環境下での造水量や消費電力、水質、長期運転時の安定性を検証する。あわせて、米国の飲料水基準(NSF認証など)への適合や、運転・保守体制、販売体制の構築も進める計画だ。役割分担としては、AirJoule社が装置開発と技術支援、認証取得対応を担い、クボタは実証の企画・推進、装置の設置・運用管理、O&M(運転・保守)や販売体制の検討を受け持つ。商用化後は、クボタが認証取得に関わった州においてAirJoule社製の装置を独占的に販売する契約も結ばれている。

 ここで重要なのは、これが単なる技術デモではなく、クボタが従来培ってきた排水処理・再利用技術と組み合わせる前提で設計されている点だ。大気から水を「造る」機能に、クボタの「届ける」「処理する」「再利用する」機能を掛け合わせることで、既存の水源に依存せず、住宅地単位で水の確保から排水処理・再利用までを完結させる「分散型水循環システム」の確立を目指すという。水道管を引き込む代わりに、施設・住宅単位で水の循環を自己完結させるこのアプローチは、開発許可の壁に直面するディベロッパーにとって、規制をクリアするための具体的な選択肢になりうる。

「農機のクボタ」ではない…もう一つの顔「水環境事業」の厚み

 クボタといえばトラクターや建設機械のイメージが強いが、実は水道用の鋳鉄管製造を祖業とし、130年以上にわたって水インフラに携わってきた企業でもある。1961年には水道研究所を開設、翌年に水処理事業部を新設して環境事業に本格参入し、1991年には膜分離活性汚泥法(MBR)向けの濾過膜「液中膜®」を発売した。この液中膜は国内の同分野で約4割超のシェアを持つとされ、海外でも欧州大手に次ぐ地位にあるとみられている。米国だけでも300カ所以上への納入実績があり、ロサンゼルスやニューヨーク近郊など閉鎖性水域での富栄養化対策にも使われてきた。

 つまりクボタは、「機械メーカー」と「水環境インフラ企業」という二つの顔を併せ持つ、数少ない総合インフラ企業なのだ。2025年12月期の決算では、水・環境部門の売上高は3,744億円(前期比3.2%増)で、グループ全体の1割強を占める規模に成長している。パイプシステム事業では管路の耐震化需要が堅調で、環境事業でも国内工場向けの排水処理案件が伸びているという。今回のAirJoule社との提携は、こうした既存の水環境事業の延長線上に位置づけられる一手であり、機械事業と水環境事業のシナジーを一段と高める試みとも読める。

 もう一つの狙いは、ビジネスモデルの転換だ。装置を売り切るのではなく、設置後の水質管理や保守点検(O&M)まで含めて継続的に収益を得る、いわば「ストック型」のビジネスへの移行が意識されている。今回の提携でクボタがO&Mや販売体制の構築を担う役割を負っているのも、装置単体の販売にとどまらない収益基盤を築く布石と見ることができる。

気候変動リスクを「収益源」に変える発想

 水インフラ政策に詳しいエネルギー政策研究家の佐伯俊也氏は、「気候変動によって水資源の制約が強まるほど、需要側は代替手段を切実に求めるようになる。分散型の造水技術は、単独では既存の上下水道網を代替しきれないが、開発許可という『規制のボトルネック』を解く鍵として機能し得る」と指摘する。

 また、環境インフラ分野の投資アナリストは、「装置販売だけでなく設置・保守までを一体で提供できる企業は、水インフラの世界でも限られる。クボタのように上水・下水の両方にまたがる技術と実績を持つ企業が、水を造る技術と組み合わせることで初めて、顧客にとって『使い続けられる』システムとして成立する」との見方を示す。

 今回の実証はまずアメリカ国内の住宅開発向けに絞られているが、水不足は中東や東南アジア、アフリカなど世界各地で共通の課題だ。米国での実績とデータの蓄積は、他地域への展開に向けた足がかりになるとみられる。クボタは2030年頃の商用化を目指すとしており、実証段階での造水コストや水質の安定性、規制当局からの認証取得の進捗が、今後の事業化のスピードを左右することになる。

 気候変動への対応というと、企業の社会的責任(CSR)や環境・社会・企業統治(ESG)の文脈で語られがちだ。しかし今回のクボタの動きは、社会のボトルネックそのものを解く技術とビジネスモデルを組み合わせ、収益事業として成立させようとする試みだと言える。水という誰もが必要とする資源をめぐる制約を、どう技術と仕組みで乗り越えるか——その巧拙が、これからの気候変動対応型ビジネスの成否を分けることになりそうだ。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=佐伯俊也/エネルギー政策研究家)

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公開:2026.07.31 05:55