「あおり運転」の事件が後を絶たない。2017年に東名高速道路で、執拗に先行車をあおったあげくクルマを停止させ、夫婦が死亡する事故を引き起こした痛ましい事件の記憶はいまだに消えない。
常磐道であおり運転をしたのちの殴打事件、東名高速であおり運転をしながらエアガンでの発砲するという常軌を逸した事件まで起こった。あおり運転行為のひとつとされる「車間距離保持義務違反」の件数は、2018年だけで1万3000件を超えたというから、あきれてものが言えない。もしかしたら、検挙されていないあおり運転は、その数百倍、数千倍に達するのではないかと想像する。
加害者はあきらかに運転資質が欠如している。関係者が知恵を絞って、撲滅を模索する必要がある。警察庁は、あおり運転をした場合の行政処分として、免許取り消しを導入することを検討していると報じられているが、即刻免許証剥奪を導入してほしい。
また、精神的に異常をきたしている可能性もある。たとえば、普段は正常なのに「ハンドルを握ると人が変わる」タイプは、精神医学の専門家が唱える「反社会的パーソナリティ障害」に該当すると考えられる。このようなタイプの人は、いわば“あおり運転予備軍”である。
あおり運転被害のリスクを減らす運転
あおり運転をゼロにする特効薬はないものだろうか。当面は、自衛手段を講じるしかなさそうである。あおり運転は、こらえ性のないドライバーの“イライラ”に起因している。では、どんなことに対してイライラするのか。
まず、周囲の交通の流れより遅く走る「ノロノロ運転」が挙げられる。周囲のクルマの流れから明らかに乖離している場合、それは後続車のイライラを誘発する危険性がある。速度を周囲に合わせたり、後続車を先に行かせるなど、流れを乱さない走り方が必要だ。
次に、追い越し車線での「トロトロ運転」。高速道路の追い越し車線は、先を急いでいるドライバーが多い。法定速度を超えて走るドライバーは、制限速度を守って走るクルマに対してイライラを募らせやすい。追い越し車線には長居せず、早めにレーンを譲るのが望ましい。
また、信号が青に変わってもしばらく発進しないと、後続車をイライラさせる。停車時間にスマートフォンなどを見ている場合に起こりがちで、社会問題になりつつある。
ブレーキを頻繁に踏む「チカチカ運転」も後続車にとって嫌なものである。前方注意力が散漫なドライバーによく見られるクセである。意識をなるべく先のほうに向けることで不必要なチカチカ運転は抑えられる。
強引な割り込みは、イライラを誘発するだけでなく、事故の危険もある。相手がブレーキを踏まなければならないような車線変更は避けよう。
車間距離が不適切な場合も、トラブルを招きやすい。自分がイライラしていると、ほかのドライバーをイライラさせることにもつながる。
ほかには、マナーも重要だ。たとえば、道を譲ってもらったら、適切な手段で感謝の意を伝えたい。ゴミやタバコを窓から投げ捨てる行為は、品格が疑われる。
つまり、これらを一言で表せば、思いやりを持ったドライビングが必要なのである。たとえば、料金所での支払い後に素早く発進する、右折の際に先行車との距離を詰めて待つ、交通量の多い道路では駐停車をしないなど、みんながスムーズに走れるようにする気遣いが、円滑な交通社会には必要なのだ。
あおり運転による被害者を責める気はまったくないが、悪辣な加害者から身を守るには、悪漢をイライラさせない「思いやりの運転」が必要だ。それはすなわち、安心して過ごせる交通社会のために大切なドライビングでもある。
(文=木下隆之/レーシングドライバー)