シャープ、その本当の危機 孕む暴走の芽 恐らく再建は難しいといえる3つの異常点
まず、前述の通り営業損失が480億円となった点である。この事実は、本業がまったく利益を上げていないということであり、13年度の必要以上のリストラにより価値を創造する体力までも削いでしまったのであろう。
2つ目は、会社は1000億円もの社債償還に充てるため、固定資産と投資有価証券を売却した点である。これにより、金の卵を産むガチョウを殺してしまった可能性がある。そして3つ目に、液晶設備を中心として1000億円の減損処理を行った点である。つまり、オンリーワン企業を目指して行った経営判断の失敗を認めたことである。
そして、再び「流動性の危機」が首をもたげた。
有利子負債による巨額の設備投資は、「流動性の危機」のリスクと隣り合わせでもあり、経営者が最も警戒すべき点である。
「収益性危機の場合、利益が最もあがっていない最も時代遅れの事業や製品を売り払うか、縮小することになる。これに対して流動性危機の場合、利益が最もあがっているか、最も期待できる部門を売り払うことになる」(『未来企業』<P.F.ドラッカー/ダイヤモンド社>)
シャープは米経営学者ドラッカーの言葉通りの罠にはまってしまった。だからこそ、14年度は細心の注意を払って舵取りをすべきだったのである。
重点戦略の孕むリスク
今年5月14日、高橋興三社長は中期経営計画を公表し、以下の3つの重点戦略を着実に実行することで、3年後には連結売上高3000億円、連結経常利益180億円を目指すと宣言した。
(1)ポートフォリオの再構築
現行の事業部制組織から5つのカンパニー制に再編
(2)固定費削減の断行
抜本的なコスト構造改革を断行し、将来を見据えた収益力向上
(3)組織・ガバナンスの再編・強化
(1)の事業部制からカンパニー制に移行する理由は、各カンパニーにバランスシートと損益計算書を作成し、キャッシュフロー責任を持たせるためである。古くはソニー、パナソニック、三洋電機、東芝の例を挙げるまでもなく、カンパニー制で成果を上げるのは容易ではない。なぜなら、各カンパニーを束ねる本社の強力なマネジメント力が必須だからである。
もしも本社の力が弱くなれば、カンパニーの暴走が始まる。そしてカンパニー間の経営資源の融通がなくなることで、無駄が生じやすくなる。ソニーの低迷、東芝の粉飾がその例である。さらに憂慮すべきは、弱体化した企業の場合、銀行側からすればカンパニーを切り売りしやすくなる。つまり貸付金の回収が容易になるということである。