これらのユニークな方策により、ヨドバシの店頭で何が起きているか。店頭で商品を見て、レジに行かずに、その場でヨドバシ.comをクリックして買ってしまうのだ。あるいは、自宅に帰ってから購入する。住所などの個人データはすでに設定してあるので、レジに並ぶよりクリックして買い物するほうがよほど簡単でストレスがない。手ぶらで帰宅すれば、その日のうちに商品が届く。ポイントも11%付く。
ショールーミングをあえて取り込む
小売業界で忌避されている「ショールーミング」とは、顧客が店頭で商品を検討して、購入自体は楽天やアマゾンなどの通販サイトで行うことだが、ヨドバシの場合は、顧客の購入をヨドバシ.comに誘導する仕組みを構築した。
かつて、レンタルビデオ最大手のTSUTAYAが「クリック・モルタル」というマーケティング手法で一世を風靡した。消費者はネットで検索して実店舗に足を運び、購買につなげるという方法。ヨドバシの場合、「逆クリック・モルタル」といえるかもしれない。つまり、店頭で見て(あるいはネットで広範に情報を集めて)ヨドバシ.comで購買させるというやり方だ。セブン&アイHDが推進するオムニチャネルとも考え方が違う。
ヨドバシのネット通販での売り上げは、14年3月期に650億円に達したとされる。15年3月期には1000億円に到達するのではないかという観測もあった。国内年商2000億円といわれるアマゾンの売り上げを追い抜くと期待されているのがヨドバシだ。ヨドバシ.comでカバーしている商品数は300万点を超え、家電という枠をとっくに外れている。
ヨドバシは、どこまで独自の経営戦略を研ぎ澄ませていくのだろうか。家電量販店というドメインやネット通販というドメインをどう融合させ、あるいは新しい業態を構築していくのだろうか。経営戦略的な観点から、とても興味が持てる企業だ。
(文=山田修/経営コンサルタント、MBA経営代表取締役)