ところが、PGMが取得を目指す持株比率の下限は特別決議を否決できる33.3%ではなく、20.0%となっている。20%取れば、PGMはこのTOBを「成立」とみなすというのだが、この数字には、どんな意味があるのだろう?
この程度の持株比率では、「持分法適用会社」にすることは可能でも、そこの経営を思いのままにしているとは言いがたい。経営にあれこれ介入されたら、相手は言うことを聞かなくてもかまわない。
たとえばスーパー業界には、大手流通グループの持分法適用会社でありながら、以前はそのライバルの子会社で、独立心が強くてグループ本社と仲がよくないところがある。グループ全体のキャンペーンには是々非々で対応し、気に入らなければ断るという気位の高さだが、消費者にはウケている。それではとても経営を左右しているとは言えない。
持株比率と経営支配の関係について、わかりやすく戦国時代にたとえれば、信長(株)は秀吉(株)の株式を51%以上所有し、一心同体の家来(完全子会社)として生かすも殺すも好きなようにできる。家康(株)に対する持株比率は33.3%以上で、同盟者として経営の独立性は保障しているものの、大事なときには武田(株)からの合併工作を受けての特別決議に拒否権を発動して息子を切腹させたりできる。だが、持株比率20%の浅井(株)は徳川(株)と同じ同盟者だったが、別の大株主の朝倉(株)に工作されたら、なす術もなくあっさりと裏切られ、信長(株)は敵対されて痛い目にあった。
PGMはアコーディアに対して、信長と秀吉のような主従関係が望みだが、TOBの成り行き次第では、信長と浅井との間のようなあやふやな関係でも成立とみなす、と言っているのである。
●たかが持株比率20%、されど20%
「このTOBは、成立させること自体に意味がある」という見方もされているが、たかが20%、されど20%だ。
フランスの食品メーカー・ダノン社はヤクルト本社に対する持株比率を03年4月に約20%に拡大し、筆頭株主となった。その後、ダノンはヤクルトに何を言ってきたか。「ダノンは向こう5年間、ヤクルト本社株の持株比率を20.181%を超えて引き上げないと約束するが、ヤクルト本社はダノンから取締役2人を受け入れ、提携推進室を設置せよ」。ヤクルト側はその条件をのみ、2004年にダノンと戦略的提携を結んでいる。
さらに、ダノンはヤクルト株を約20%持ったまま要求をエスカレートさせた。
提携契約には、ダノンの持株比率を約35%まで引き上げることが可能という文言を入れた。TOBでそれを実行すれば33.3%を超え、株主総会の特別決議を否決できる。契約の中に、経営支配を強められるオプションをつけていたのである。
だが、いざ比率を引き上げようと打診すると、ヤクルトは断った。巻き返して対等な関係に戻したいヤクルト側が「特別決議の否決権までは与えたくない」と言えるのは、やはり20%の株主だからだ。ダノンは「約28%ではどうか?」と譲歩し、提携契約の期限は今年5月15日だったが、交渉は現在も続けられている。ダノン側からは持株比率だけでなく、要求事項がこまごまと並べられているという。
20%でも、そこまでやれるのだ。
もし、PGMによるアコーディア株のTOBの結果が20%取得にとどまったとしても、ダノンがヤクルトから勝ち取ったように「取締役2人の受け入れ」をのませたら、それは何を意味するか? 6月のアコーディアの株主総会で、取締役を送り込もうと委任状争奪戦に打って出て完敗した屈辱を晴らす「大逆転勝利」である。また、提携推進室を設置させて、たとえばPGMとアコーディアの会員のゴルフ場の相互利用ができるようにしたら、営業上有利になるのは規模が小さいほうのPGMである。
TOBで示された下限20%は、ヤクルト相手に多くの要求をのませているダノンを意識した数字ではないだろうか?
また、PGMがいきなりTOBを公表したのは、6年前の「王子製紙対北越製紙」の敵対的TOBで、王子が北越と非公式に事前協議した後に公表し、相手に買収防衛策をとる時間的、精神的な余裕を与えて惨敗した教訓を生かしているのではないだろうか。