ただ、あまりに長く鈴木氏はトップの座に居続けた。その結果、後継者の育成が進まなかった。言い換えれば、組織を構成する一人ひとりが、自ら考え、新しいことにチャレンジしようとする考えを抱くことのない時間が長くなりすぎた。
トップ人事をめぐる対立から鈴木氏が会長職を去ったことを境に、セブン&アイは船頭を失った船のような状況に陥ったといえる。組織全体で「誰のいうことを聞けばよいのだろう」という不安や疑心暗鬼の心理が広まったはずだ。全員がリーダーと認めていた唯一の人物がいなくなり、誰のいうことを聞けばよいか、組織を構成する人々の意識がバラバラになってしまっているような印象を持つ。この状況が続くと、各事業部門が自らにとって最適な状況を追求し始め、一段と組織の統率が難しくなる恐れがある。
不満噴出のコンビニ店オーナー
カリスマが去った後の組織の混乱ぶりは、2つの点から確認できる。
1つ目が、24時間営業をめぐるコンビニのオーナー(フランチャイジー)と本部の対立だ。小売業界に精通したアナリストの一人は「カリスマ経営者の鈴木氏が君臨していた時代なら、オーナーが本部に不満を伝えることなど想像できなかった」と話していた。
現在、人手不足の問題は日本だけでなく、世界経済全体で共通する大きな問題だ。そのため、コンビニの現場にかなりの負担が生じていることは確かだ。反論が難しいほど強力なリーダーの不在と、負担に耐え切れなくなったオーナーの増加が重なり、本部とオーナー間の関係がこじれ始めた。
ただ、24時間営業はセブンイレブンをはじめとするコンビニエンスストアのビジネスモデルの基礎だ。コンビニ業界の物流、弁当の供給ラインの稼働などは24時間営業を前提に構築されている。これを一朝一夕に再構築することはさらなる混乱を招く可能性が高い。加えて、コンビニは24時間使えるからこそ便利という消費者のニーズも強い。
本来、セブン&アイ経営陣は、いかにして24時間営業を維持するか、その方策をオーナー側に提示し、納得を得なければならないはずだ。それが、組織全体の向かうべき方向を示すということだ。しかし、セブンイレブンは24時間営業をオーナーの判断に任せるとの方針をとっている。これでは現場と本部の利害の調整は難しいだろう。
すでに群馬県では、旅行を理由にした休業の是非をめぐり、オーナーと本部の対立が表面化してしまった。オーナー側は本部が営業の代行を認めないのは「優越的な地位の乱用」に当たるとして公正取引委員会に申告した。現状、オーナーと本部、双方が不信感を募らせてしまっている。