しかし、その好循環は中心軸である総合スーパーの好調があればこそ。総合スーパーが不振に陥ると、集客力が落ちることでその循環が逆回転してしまい、マイナスがマイナスを呼ぶ悪循環に陥る恐れがあります。現在、営業利益の約6割を占めている総合金融、ディベロッパーの両事業に、この小売不振の悪影響が時間差で及べば、今期の営業利益8.4%増という目標も達成が危ぶまれるでしょう」(同)
低価格路線で起死回生なるか、小売業に見切りをつけるべき?
そういった小売業の不振を受けて、イオンは次のような対策を行っているという。
「今年4月、プライベートブランドであるトップバリュの低価格ブランド『ベストプライス』の品目を、7割増の500品目に増やすと発表しました。同ブランドの売り上げを前期比で1割以上増やそうという計画です。
イオンの伝統的な低価格路線は、今年10月に見込まれる消費増税なども考えると、悪くない選択だといえます。増税により、個人消費は少なからず減っていくでしょうから、低価格をこの時期から改めて強調することで、客足の維持に期待ができるでしょう」(同)
もちろん、低価格を前面に打ち出すというシンプルな施策だけで、イオンの小売業が再び調子を取り戻せるとは言い切れないだろう。実際、多くのアナリストは「イオンは小売業を切り離すべき」と唱えていることも事実だ。しかし、寺尾氏はそれは得策ではないと断言する。
「連邦経営のかたちをとっているイオンにとって、業績が悪いという理由で小売業を切り離すのは、もしそれで数字として一時的に好転したとしても、悪手でしょう。ただでさえ、“寄り合い所帯”と評されることもあり、ギクシャクしているグループ内部が、それをきっかけにバラバラになってしまうことが考えられるからです。
現状、金融や不動産業で儲けが出ているので、できの悪い子会社に見切りをつけて切ったりするのではなく、我慢とテコ入れを繰り返しながら、業績回復に期待することが今のイオンに求められていると思います。従来路線からの大転換はリスクが大きすぎるので、構造改革のペースが上がらず業績の足を引っ張る子会社も、地道に収益を改善させていき、派手なことに手を出さずに運営していくべきではないでしょうか」(同)
合併・買収を繰り返すことで大きくなってきたイオンにとって、不採算事業を切り離すことは簡単ではなく、会社として過去最高益を達成している現在でも、解決すべき問題を抱えているようだ。現在の経営を支えている黒字の部門が、マイナスの悪循環に巻き込まれる前に、小売業の業績を回復させることはできるのだろうか。今後の動向にも注目したい。
(文=A4studio)